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サイドストーリー
フォーゼムの初恋
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だめだ、これ以上飲まされたら吐く…私がそう思った瞬間、誰かにサッと手を引かれた。
年初めの恒例の仮面舞踏会。王都にいる16歳以上の貴族の子女は基本的に皆参加するように達しがくる。
ふざけたマスクをつけるのは毎度馬鹿らしいとは思うが、年始の祝事として行われるそれをたいした理由もなく欠席するのも憚られる。結果、考えるのも面倒で、私は毎年同じマスクで出席していた。そのため、仲間内ではすぐに私が分かるようで、今回も早速友人達に見つかり、浴びるほど酒を注がれたのだ。ようやく逃げ出したが、酒が回り足元がおぼつかなくなったとき、誰かに手を引かれたのだ。
ふらふらした頭で手を引いた相手のことを考えた。誰だ?そう思った瞬間、人目のない部屋のソファに押し倒された。
やばい。相手が女性なら、不用意な噂が立ちかねない。そう思うのに酔いが回りすぎて声がでない。
私がソファに倒れこんだことに相手は驚いたようで、口を開いた。
「大丈夫でございますか」
凛とした美しい声は、どこかで聞き覚えがある気がした。
そして、そのまま私が答えられずにいると彼女は続けた。
「突然、申し訳ございません。あまりにお一人でふらふらされておいででしたので、ついこちらの部屋にお連れしてしまいました。こちらに水差しを用意しておりますので、飲んで落ち着かれてからパーティにお戻りになるのがよろしいかと。それでは失礼いたします」
用件だけ告げて、すっと部屋を出ていこうとする彼女の姿を見て驚いた。
およそ舞踏会に来るとは思えない地味な格好。そしてほとんど装飾のないのっぺりとしたマスク。蝶や花のモチーフで美しく装飾された繊細なグラスを着用する女性が多い中で、これはある意味目立ちそうだった。
そういえば聞いたことがある。わざとらしく清楚に振る舞うと噂されているカリーナ嬢のことを。しかし、彼女が5年前と同じであるなら、目立ちたくないからこそ地味にしているのだろう。
声にも聞き覚えがあるはずだ。
そう思いながら、私は相手がカリーナ嬢であると言う確証が欲しくて声をかけた。
「すまないが、酒を飲まされすぎて他人が信用できないんだ」
私がそう言うと、彼女はマスクの奥で驚いたようだった。
それはそうだろう。善意で助けた相手に信用できないから、正体を明かせと言われるなど。しかも素性を隠す仮面舞踏会で。
傲慢なことを言っている自覚はあったが、確かめずにはいられなかった。
怒って出ていくだろうか。そう思った時、彼女はふわりと微笑んで答えた。
「そうでございますね。大変失礼いたしました。私はダルラ伯爵の長女、カリーナでございます。カレンの双子の姉と言った方が通りが良いかもしれませんが」
自嘲気味に付け加えた後半に胸が痛む。
「カリーナ殿でしたか。お手数をおかけしてしまい申し訳ない。素性を明かさせてしまったことも…私は」
自己紹介しようとしたところで、カリーナに止められた。
「無理に名乗られる必要はございません。今宵は仮面舞踏会。どうぞ秘密のままにしておいてくださいませ。縁があればまた会うこともございましょう」
それだけいい置いて、彼女はすっと部屋から出ていった。
そして…私は初めて恋に落ちたのだ。
年初めの恒例の仮面舞踏会。王都にいる16歳以上の貴族の子女は基本的に皆参加するように達しがくる。
ふざけたマスクをつけるのは毎度馬鹿らしいとは思うが、年始の祝事として行われるそれをたいした理由もなく欠席するのも憚られる。結果、考えるのも面倒で、私は毎年同じマスクで出席していた。そのため、仲間内ではすぐに私が分かるようで、今回も早速友人達に見つかり、浴びるほど酒を注がれたのだ。ようやく逃げ出したが、酒が回り足元がおぼつかなくなったとき、誰かに手を引かれたのだ。
ふらふらした頭で手を引いた相手のことを考えた。誰だ?そう思った瞬間、人目のない部屋のソファに押し倒された。
やばい。相手が女性なら、不用意な噂が立ちかねない。そう思うのに酔いが回りすぎて声がでない。
私がソファに倒れこんだことに相手は驚いたようで、口を開いた。
「大丈夫でございますか」
凛とした美しい声は、どこかで聞き覚えがある気がした。
そして、そのまま私が答えられずにいると彼女は続けた。
「突然、申し訳ございません。あまりにお一人でふらふらされておいででしたので、ついこちらの部屋にお連れしてしまいました。こちらに水差しを用意しておりますので、飲んで落ち着かれてからパーティにお戻りになるのがよろしいかと。それでは失礼いたします」
用件だけ告げて、すっと部屋を出ていこうとする彼女の姿を見て驚いた。
およそ舞踏会に来るとは思えない地味な格好。そしてほとんど装飾のないのっぺりとしたマスク。蝶や花のモチーフで美しく装飾された繊細なグラスを着用する女性が多い中で、これはある意味目立ちそうだった。
そういえば聞いたことがある。わざとらしく清楚に振る舞うと噂されているカリーナ嬢のことを。しかし、彼女が5年前と同じであるなら、目立ちたくないからこそ地味にしているのだろう。
声にも聞き覚えがあるはずだ。
そう思いながら、私は相手がカリーナ嬢であると言う確証が欲しくて声をかけた。
「すまないが、酒を飲まされすぎて他人が信用できないんだ」
私がそう言うと、彼女はマスクの奥で驚いたようだった。
それはそうだろう。善意で助けた相手に信用できないから、正体を明かせと言われるなど。しかも素性を隠す仮面舞踏会で。
傲慢なことを言っている自覚はあったが、確かめずにはいられなかった。
怒って出ていくだろうか。そう思った時、彼女はふわりと微笑んで答えた。
「そうでございますね。大変失礼いたしました。私はダルラ伯爵の長女、カリーナでございます。カレンの双子の姉と言った方が通りが良いかもしれませんが」
自嘲気味に付け加えた後半に胸が痛む。
「カリーナ殿でしたか。お手数をおかけしてしまい申し訳ない。素性を明かさせてしまったことも…私は」
自己紹介しようとしたところで、カリーナに止められた。
「無理に名乗られる必要はございません。今宵は仮面舞踏会。どうぞ秘密のままにしておいてくださいませ。縁があればまた会うこともございましょう」
それだけいい置いて、彼女はすっと部屋から出ていった。
そして…私は初めて恋に落ちたのだ。
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