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ヴィオラ=サイード
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「別れた妻に苦しめられている。子どもと関わることを許してくれなくて耐えられなくて別れたんだ。でも、まだ出て行ってさえくれない。」
その言葉を聞いた時、私は単純に許せないと思った。こんな誠実な人を傷つけ、子どもまで奪っておきながら嫌がらせのように居座る元妻に。
だから、彼の屋敷に行ったことなどなかったし、元妻と彼が一緒に住んでいることが分かっていたけれど、彼と付き合い出した。彼の子を身籠ったときは本当に嬉しかった。兄には順番が違うと叱られたけれど、早く結婚するように、と彼との結婚を許してもらえた。
だから婚約してすぐに、フェルラの元妻であるアリシアさんのお父様が尋ねて来られた時は私も兄も本当に驚いた。そして、話の内容を聞いた私たちは驚愕した。
だって、不仲で別れていると聞いていたからこそ彼と恋仲になったのだ。だがお父様の話では、アリシアさんはフェルラをとても大切にしていた。悲しそうに語るその様子がおよそ嘘だとは思えない。
騙された
そうフェルラへの怒りが胸に湧き上がった瞬間、兄がガバッと頭をさげた。
その瞬間、私もハッと気がつく。アリシアさんにとって、私こそが幸せな家庭を壊した張本人だ。私も慌てて頭を下げた。
その後、どのような経緯で彼と付き合うようになったかを包み隠さず、アリシアさんのお父様に伝えた。
お父様は静かに私たちに礼を述べた後、屋敷を去っていった。
フェルラにすぐにでも問いただしてやりたい気持ちと、婚約を破棄すれば家族への迷惑が掛かるという気持ちと揺れ動くこと数日。
信じられないことが起こった。アリシアさんの弟君のザインさんから求婚されたのだ。
最初はもちろん断るつもりだった。これ以上彼女の家に迷惑はかけられないと思ったから。でもアリシアさんが微笑みながら、弟の初恋を叶えてやって、と言ってくれた時、私は許されたのだと悟った。本当に彼女ほど素晴らしい女性をなぜフェルラは裏切ったのか不思議でならない。
ザインさんとの婚約のためには、フェルラと婚約破棄の話をしないといけない。
その日、私はフェルラを呼び出した。
「フェルラ、あのね。話したいことがあるの」
努めて穏やかに話し出す。
「何かな。結婚式の話かい?ようやくアリシアが家を出て行ってくれたんだ。名実ともに君を妻にできる」
吐き気がしそうなのを押し隠して微笑んだ。
「そのことなんだけれど。婚約を破棄したくて」
「どう言うことだ?」
「あのね。私実は…」
「なんだ?」
「あなたの他にも好きな人がいて、二人とお付き合いしていたの」
わざと試すように嘘をつく。不倫していたフェルラがどのような反応するかを見てみたいと思ったのもあった。
「そんな…妻に傷つけられた僕によくもそんなひどいことを」
妻と恋人に嘘をついた男がどの口で言うのやら。呆れそうになりながら、私はフェルラを罵倒したい思いを必死で押し隠した。
だめだ。アリシアさんとの約束を守らなければ。彼女とフェルラの真実を知っていることを言う訳には行かない。
私に振られた彼はきっと、アリシアさんの元に何食わぬ顔して帰るだろう。その彼を断罪するのは彼女の権利だ。
ならば、私ができることはできるだけ彼のプライドをへし折って別れてやることだけ。
「ごめんなさいね。私も悩んだんだけど。あなたより、もう一人の方のほうが素敵だな、と思って。」
「子どもはどうするんだ?俺たちの子だろう」
「うーん、どちらの子か分からないんだけれど、彼はどちらの子であっても良いって言ってくれてる。あなたは無理でしょう?」
馬鹿にしたように言うと、顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「当たり前だ!僕の子ができたからこそ結婚しようと思っていたんだ!」
「なら、私と別れるでいいじゃない。あなたは絶対自分の子でないと許せない。でも彼はどちらの子でもいいと言ってくれている。ならあなたを選ぶメリット、私にはないでしょう?あなたも私と結婚するメリットはないだろうし。」
「だいたい、相手は誰なんだ!」
「それはあなた、知らない方がいいと思うわよ」
思いっきり小馬鹿にしたよう言ってやる。
「知ったらきっと自信をなくすから。」
彼の瞳がさらに怒りの色に染まったのを見て冷酷につげた。
「私はね、もう選んだの。そしてあなたは要らないと判断したのよ」
完
その言葉を聞いた時、私は単純に許せないと思った。こんな誠実な人を傷つけ、子どもまで奪っておきながら嫌がらせのように居座る元妻に。
だから、彼の屋敷に行ったことなどなかったし、元妻と彼が一緒に住んでいることが分かっていたけれど、彼と付き合い出した。彼の子を身籠ったときは本当に嬉しかった。兄には順番が違うと叱られたけれど、早く結婚するように、と彼との結婚を許してもらえた。
だから婚約してすぐに、フェルラの元妻であるアリシアさんのお父様が尋ねて来られた時は私も兄も本当に驚いた。そして、話の内容を聞いた私たちは驚愕した。
だって、不仲で別れていると聞いていたからこそ彼と恋仲になったのだ。だがお父様の話では、アリシアさんはフェルラをとても大切にしていた。悲しそうに語るその様子がおよそ嘘だとは思えない。
騙された
そうフェルラへの怒りが胸に湧き上がった瞬間、兄がガバッと頭をさげた。
その瞬間、私もハッと気がつく。アリシアさんにとって、私こそが幸せな家庭を壊した張本人だ。私も慌てて頭を下げた。
その後、どのような経緯で彼と付き合うようになったかを包み隠さず、アリシアさんのお父様に伝えた。
お父様は静かに私たちに礼を述べた後、屋敷を去っていった。
フェルラにすぐにでも問いただしてやりたい気持ちと、婚約を破棄すれば家族への迷惑が掛かるという気持ちと揺れ動くこと数日。
信じられないことが起こった。アリシアさんの弟君のザインさんから求婚されたのだ。
最初はもちろん断るつもりだった。これ以上彼女の家に迷惑はかけられないと思ったから。でもアリシアさんが微笑みながら、弟の初恋を叶えてやって、と言ってくれた時、私は許されたのだと悟った。本当に彼女ほど素晴らしい女性をなぜフェルラは裏切ったのか不思議でならない。
ザインさんとの婚約のためには、フェルラと婚約破棄の話をしないといけない。
その日、私はフェルラを呼び出した。
「フェルラ、あのね。話したいことがあるの」
努めて穏やかに話し出す。
「何かな。結婚式の話かい?ようやくアリシアが家を出て行ってくれたんだ。名実ともに君を妻にできる」
吐き気がしそうなのを押し隠して微笑んだ。
「そのことなんだけれど。婚約を破棄したくて」
「どう言うことだ?」
「あのね。私実は…」
「なんだ?」
「あなたの他にも好きな人がいて、二人とお付き合いしていたの」
わざと試すように嘘をつく。不倫していたフェルラがどのような反応するかを見てみたいと思ったのもあった。
「そんな…妻に傷つけられた僕によくもそんなひどいことを」
妻と恋人に嘘をついた男がどの口で言うのやら。呆れそうになりながら、私はフェルラを罵倒したい思いを必死で押し隠した。
だめだ。アリシアさんとの約束を守らなければ。彼女とフェルラの真実を知っていることを言う訳には行かない。
私に振られた彼はきっと、アリシアさんの元に何食わぬ顔して帰るだろう。その彼を断罪するのは彼女の権利だ。
ならば、私ができることはできるだけ彼のプライドをへし折って別れてやることだけ。
「ごめんなさいね。私も悩んだんだけど。あなたより、もう一人の方のほうが素敵だな、と思って。」
「子どもはどうするんだ?俺たちの子だろう」
「うーん、どちらの子か分からないんだけれど、彼はどちらの子であっても良いって言ってくれてる。あなたは無理でしょう?」
馬鹿にしたように言うと、顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。
「当たり前だ!僕の子ができたからこそ結婚しようと思っていたんだ!」
「なら、私と別れるでいいじゃない。あなたは絶対自分の子でないと許せない。でも彼はどちらの子でもいいと言ってくれている。ならあなたを選ぶメリット、私にはないでしょう?あなたも私と結婚するメリットはないだろうし。」
「だいたい、相手は誰なんだ!」
「それはあなた、知らない方がいいと思うわよ」
思いっきり小馬鹿にしたよう言ってやる。
「知ったらきっと自信をなくすから。」
彼の瞳がさらに怒りの色に染まったのを見て冷酷につげた。
「私はね、もう選んだの。そしてあなたは要らないと判断したのよ」
完
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