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4 前世の記憶 

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「おい、ほのか!さっさとしろ!ったく本当にトロいな」
「ごめんなさい」
「いいから早く飯」
「あの、用意はこちらに」
「は?お前、何白飯も味噌汁もついだ状態にしてるの?」
「でも早くご飯って…」
「うっさい、口答えすんな。俺が席についたらすぐに出せばいいだろ!こんな最初から置かれてたもの、冷めて食えねーよ!そんなことも分かんないとか何なの?バカなの?」
「ごめんなさい」
「もういらねーわ。食う気なくした」
「…」
「何、泣いてんの?バカじゃない?」
「ごめんなさい」
「もういい、仕事に行ってくる」
「…」
「おい!行ってらしゃいの一言も言えねーのかよ。」
「…行ってらっしゃい」

バン、と勢いよく扉が閉められて私はようやく落ち着いて息が吸えるようになる。
また怒らせてしまった。幸樹さんは気分屋で、前に席に着くのを待って味噌汁をついで言ったら、遅いと言って投げられた。熱い味噌汁を浴びた右腕はしばらくじんじんと痛んだ。
物を投げられなかっただけましだと分かってるのに、投げつけられた言葉の鋭さが私を傷つける。

「なんで…」

彼が出て行った玄関のドアを眺めながら思わず出た言葉の続きを考える。

なんで、私と結婚したの?
なんで、それほど私のことが気に入らないの?
なんで、私を傷つける言葉を言うの?
なんで…暴力を振るうの?

そう、今日はまだましだった。
彼は外面が良くて、周りからは優しい夫だと思われている。私だって他人の夫だったらそう思ったに違いない。
まさか気に入らないことがあるたびに私に暴力を振るう人間だなんて思わなかった。
彼のやり方は陰湿で、髪を抜けるほど強く引っ張ることはあっても、アザが残るような殴ったり蹴ったりはほとんどしない。

日中、私は彼のいない部屋で怯えながら家事をする。帰ってきた彼の機嫌を損ねるようなことがないように…。

「帰ったぞ」

酔った声に怯えが隠せない。すぐに玄関に向かうと、蔑むような視線で私を見ながら罵ってくる。

「お前、本当にひでー顔。受付にいた時は美人だと思ったけど化粧のおかげだったんだな。少しくらい気遣えよ。家に帰る気なくす」
「…ごめんなさい」

化粧品を買うお金すらないのにどうやって?そんなことを言ったらどうなるかなど火を見るより明らかだ。

「はぁ。お前がいなくなればさゆりと結婚できんのに。なんで、まだいんの?」

不倫をしているのは知っている。でも離婚を申し出た時に、髪を引っ張りながら家政婦が必要だと怒鳴ったのはだれ?
そう思っても、ぐっと飲み込んで耐えるしかない。私には頼れる実家も、自立できるだけの経済力もない。


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