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3 始まりの日三

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「とても素敵な指輪になりそうだわ」

私が微笑むと、ヴァンはさっと顔を赤らめた。

「どうぞよろしくね」

ジュードにそう伝えると、彼は微笑ましげに私達を見つめて言った。

「ええ、最高の物を作らせていただきます。一月ほどで出来上がりますので、またどうぞ二人でいらしてください」

店を出た私達はカフェに入った。ミルクティーを飲む私を優しい眼差しで見つめながらヴァンは話し出した。

「さっき一月後に指輪ができるって聞いて、君との結婚が近づいてきたんだな、って思ったよ。」
「そうね。あなたからの指輪、結婚式でつけられるかもしれないと思うと楽しみだわ」
「…その時つけるのは結婚指輪だ」

笑いながら言われてつられて私も微笑む。

「本当だわ」

穏やかに流れる彼との時間にこれ以上ないほどの幸せを感じる。こんな時間が永遠に続けば、と願わずにはいられない。

気づくと陽が傾き始めた。彼は私の手を取りながら馬車の停めているところまでエスコートしてくれる。

「すまない。久しぶりの外出が嬉しくて長居してしまった。家に着くのが遅くなりそうだ。」
「あら気にしないで。両親もゆっくりしてくるように言ってくれていたし」

名残惜しくて思わず言った言葉に、彼は困ったように微笑んだ。

「それは俺が君を明るい時間に帰さないと二度と言って貰えない言葉だ」

確かに。彼は両親以上に私のことを気遣い、品行方正な付き合いに徹している。彼のその清廉さが両親の信頼を勝ち得ているのだろう。

「そうね。ありがとう」

帰り道の馬車でも私達の会話が途切れることはない。結婚式の話、新居の話、将来の家族計画。
彼は、にこにこ微笑みながら相槌を打ったり自分の希望を述べたりしていた。

「子どもは二人がいいかしら」
「俺は五人くらい欲しい」
「あら」
「たくさんの家族って憧れなんだ」
「あなたは一人っ子だものね」
「君は兄さんがいて羨ましいよ」

まさにそんなたわいもない話をしていた時だった。
馬車が急にすごい速さで動き出したのだ。動転する私に御者が怒鳴るように状況を叫ぶ。

「お嬢様、ヴァン様、馬が暴れ出しました。制御できない場合に備えてください!」

指示された言葉の意味が入って来ず、呆然と座り込んだままの私を抱き寄せて、頭を守るようにヴァンは覆い被さってきた。
直後に激しい振動を感じる。車体が倒れたのだと思った直後に意識を手放した。





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