君の記憶が消えゆく前に

じじ

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結局僕は彼女と共に同じ家に住み続けた。彼女の病状は相変わらず規則正しく進行し続けている。
僕のことを忘れるたびに浴びらせる悲鳴と罵声。
僕は…人間とはどれほど頻繁に罵声や悲鳴を上げられても慣れる生き物ではないと言うことを初めて知った。

しかし、それより僕の心を苛んだのは、元に戻ったとき、僕の話を聞いて俯きながら謝る彼女の姿だった。
僕は…僕たちは一緒にいることがこれほど辛いとは思わなかった。華と詩が幼いことだけが救いだ。物心ついて、家の中がこのような状況だったら、きっと深く傷つけただろう。


夏も終わりに近づく頃、彼女は1日の半分しか僕のことが分からなくなっていた。

「ねえ、あなた。私、また短くてなったわよね」
「…」
「どれくらいの時間、私はあなたのことを覚えているのかしら」
「半日だよ」
「え」
「半日なんだ。」
「もう…これで止まらないかしら。」
「え?」
「あなたを忘れる時間。これ以上進まなければいいのに」

寂しそうに笑う彼女を見て、僕は自分に嫌気がさした。どうして忘れられる自分の方が辛いのではないか、など傲慢なことを思えたのだろう。
自分の記憶から愛しい人の記憶が抜け落ちる方が悲しいに決まっているのに。
彼女に忘れられている時間を、僕が傷つくことができるのは、愛した人のことが分かるからに他ならないのに。

「本当に…止まって欲しい…君が僕を分からないなんて。できることなら変わってあげたい」

絞り出すような声で告げた本心に彼女は柔らかな微笑みで答えた。

「あら、嫌よ。それじゃ私だけがあなたのことを思い続けるみたいじゃない?」
「え?」
「だからね、あなたじゃなくて本当に良かったわ」

冗談めかした彼女の答えに、僕への気遣いと優しさが込められているのを感じる。
僕は不覚にも泣いてしまった。
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