君の記憶が消えゆく前に

じじ

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かける言葉が見つからず黙っていると、しばらくして彼女は下を向いたまま謝ってきた。

「ごめんなさい。嫌味を言うつもりはなかったの…でも、あなたを忘れてた自分というのが信じられなくて」
「ああ」
「それに、もし愛盗病ならどうすればいいの?発症から1年の命なのでしょう?詩も華もまだ小さいのに」
「きっと違うよ。でも僕以外にも忘れていることがあるかもしれないだろ?何が起きているか調べに行こう。僕も付き添うから。」

彼女は潤んだ瞳で僕を見上げた。怖いのだ。当たり前だろう。僕は自分が美弥に忘れられていたことにショックを受けたが、彼女の恐怖は僕のそれどころではないだろう。

「もし、本当に愛盗病ならどうしよう。」

一人ごとのように再度呟いたその言葉を聞いて、僕は無言で彼女の背をさすった。
もう一度、きっと違うよ、と言いたかったけれど、流石に僕にはもう言えなかった。


腹を括った彼女の行動は早かった。さすがに月曜日はいつも通り仕事に行ったが、火曜日に有休を取ってきたらしい。明日行くから、と言われて明日の仕事の予定を確認する。大丈夫だ。僕も休める。

「分かった。明日僕も付き添う」
「急だから仕事入ってるんじゃないの?私は一人でも大丈夫よ」

強がる風でもなく淡々と言う彼女に違和感を覚える。

「仕事はリスケジュールすれば大丈夫なものばかりだから。それより、僕が付いて行かない方がよかったら、家で待ってるけど」

少し考える素振りをみせて彼女達は首を振った。

「なら、やっぱり一緒に来てもらおうかな。あなたの前で取り乱すのが嫌だから一人で行こうと思ったけど、改めて病院で言われたことあなたに伝えるのも辛い気がするし…」
「一緒に聞こう。大丈夫だよ、僕が付いてるから」
「ふふ、そっちの方が心配ね。案外あなたの方が取り乱してワンワン泣いたりして」

彼女はいつも通り僕に軽口を叩く。それを聞いた僕は苦笑いするしかなかった。
彼女の言う通り自分が一番取り乱すかもしれないから。
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