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春
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驚いて立ち尽くすと、彼女はハッとしたように僕を見つめた。そして、僕に今気づいたように問いかける。
「あれ、帰ってたの?って、グラス落としてるじゃない。大丈夫?」
10秒前の自分の行動を完全に忘れている様子に僕は思わず泣いてしまった。
やっぱり、彼女は愛盗病にかかったのだろう。そして、僕を忘れている間の出来事を彼女は認識できない。
「君だよ」
「え?」
「君が僕にグラスを投げつけてきたんだ」
「まさか。冗談にしてもタチが悪いわよ。片付け手伝ってあげるから」
僕がグラスを割ったことの言い訳をしているように聞こえたのか、彼女は笑いながら僕を嗜める。側によって来て割れたグラスをそっと拾い上げると、残りは箒と塵取りで集めている。
「掃除機、かけないの?」
こんなことよりもっと聞かないといけないことがあるはずなのに、口から出てくる言葉の間抜けさに笑ってしまいそうになる。だが、彼女は特段怪しむ様子もなく、時計をちらっと見て言った。
「遅いからね。周りに迷惑でしょう」
その言葉の片隅に遅い時間に酔っ払ってグラスを割った(と彼女が思いこんでいる)私への非難が含まれている。
「ねえ、美弥。本当に君が投げできたんだ。僕を知らない男でも見るような目で」
「まさか。やめてよ」
「本当だよ」
「うそよ。私をからかってるんでしょう?飲み過ぎじゃない。」
「これ、グラスが額にあたったんだ」
そう言って、前髪を掻き上げて彼女に見せる。強くぶつけられたせいで、あおじんでいるらしい。彼女は慌てた様子で僕の額を覗き込むと、保冷剤を渡してくれた。
そして、ぽつりと一言呟く。
「グラスがあたったの?」
「うん」
「本当に私が投げたの?」
「ああ。」
「私、全く覚えてないの」
「僕がグラスを落としたと思い込んでるけど、僕がいつ帰って来たかも覚えてないだろう?」
「そういえば…気づいたらあなたが割れたグラスの前で泣いていた」
「君は完全に僕のことを忘れていたんだ。」
「そんな…」
「美弥、一回病院に行ってみないか。何か分かるかもしれない。」
「…」
「ねえ、美弥」
「愛盗病かもしれないって?そうね。その方があなたはすっきりするわよね。」
彼女らしくない捻くれた言い方に、僕が怖気付くと、彼女は唇を噛んで俯いた。
「あれ、帰ってたの?って、グラス落としてるじゃない。大丈夫?」
10秒前の自分の行動を完全に忘れている様子に僕は思わず泣いてしまった。
やっぱり、彼女は愛盗病にかかったのだろう。そして、僕を忘れている間の出来事を彼女は認識できない。
「君だよ」
「え?」
「君が僕にグラスを投げつけてきたんだ」
「まさか。冗談にしてもタチが悪いわよ。片付け手伝ってあげるから」
僕がグラスを割ったことの言い訳をしているように聞こえたのか、彼女は笑いながら僕を嗜める。側によって来て割れたグラスをそっと拾い上げると、残りは箒と塵取りで集めている。
「掃除機、かけないの?」
こんなことよりもっと聞かないといけないことがあるはずなのに、口から出てくる言葉の間抜けさに笑ってしまいそうになる。だが、彼女は特段怪しむ様子もなく、時計をちらっと見て言った。
「遅いからね。周りに迷惑でしょう」
その言葉の片隅に遅い時間に酔っ払ってグラスを割った(と彼女が思いこんでいる)私への非難が含まれている。
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「まさか。やめてよ」
「本当だよ」
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そして、ぽつりと一言呟く。
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「美弥、一回病院に行ってみないか。何か分かるかもしれない。」
「…」
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