君の記憶が消えゆく前に

じじ

文字の大きさ
上 下
4 / 16

3

しおりを挟む
金曜日まで、僕の生活に変化はなかった。いや、正確に言うと朝の奇妙な間は続いていたし、お昼休みの日課のラインはなくなっていたが、僕はとくに気にしないように努めていた。彼女の仕事が今の時期、繁忙期だと言うのもある。僕だって繁忙期の時はぼーっとしてしまうこともある。

土曜日の朝、珍しく僕の方が早く起きて、朝食を作った。スクランブルエッグとベーコンを焼いて、妻と娘達を待つ。
いつもより1時間はゆっくり寝ていた妻が起きてきた。

「おはよう!」

いつもどおりだ。変な間もない。ほっとして思わず涙ぐみそうになる自分に驚いた。
気にしていないつもりだったが、どうやらそうでもなかったらしい。

「おはよう、美弥。華と詩も。ご飯できてるよ」

のんびりみんなで朝食をとる。食べ終わってもしばらくみんなで席に着いたまま色々と話しこむ。今週あったことや、来週の予定など。
しばらくして、華と詩がテレビを見たいと騒ぎ出し、リモコンを取りに立つ。30分程はテレビが彼女達の気を引いてくれるだろう。
その間に、僕たちは溜まった洗濯物を回し、朝食に使った食器を洗い、掃除機をかける。

終わった頃に、彼女達は公園に行きたいと騒ぎ出した。やれやれ。
忙しく息つく暇もないが、愛おしい日々。これが幸せなんだろうなと思いながら過ごす日々。

公園で滑り台やブランコを楽しむ姿を眺める。平日なかなかかまってあげられないから今日はゆっくり公園で遊ぶと決めていた。
気がつくと時計が正午を指している。
そろそろ帰って昼ごはんにしようと、砂場で遊んでいる美弥と詩に声をかけることにする。

「美弥、詩帰るよ!昼飯にしよう」

ご飯と聞いて子犬のようにキラキラした目で近づいてくる詩とは対象的に、美弥は訝しそうに僕を見てくる。

「美弥、どうしたの?いつもなら嬉しそうに昼飯の内容聞いてくるのに」

ふざけてるのだろうかと思い、笑いながら近寄って聞くと、彼女の口から小さな悲鳴が漏れた。

「え、なに?」

驚いて僕は自分の背後を振り返る。もしや、後ろに大きな犬か、見るからに変な男がいるとか、そんなんだったらどうしようと思いながら。
まさか、僕自信に悲鳴を上げられているなどとつゆほども思わず。

「なんなの、あなた」

その言葉は、僕に明確に向けられていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

神楽囃子の夜

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

花舞う庭の恋語り

響 蒼華
キャラ文芸
名門の相神家の長男・周は嫡男であるにも関わらずに裏庭の離れにて隠棲させられていた。 けれども彼は我が身を憐れむ事はなかった。 忘れられた裏庭に咲く枝垂桜の化身・花霞と二人で過ごせる事を喜んですらいた。 花霞はそんな周を救う力を持たない我が身を口惜しく思っていた。 二人は、お互いの存在がよすがだった。 しかし、時の流れは何時しかそんな二人の手を離そうとして……。 イラスト:Suico 様

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺の大切な人〜また逢うその日まで〜

かの
恋愛
俺には大切な人がいた。 隣にいるのが当たり前で、 これからもずっとそうだと思ってた。 ....どうして。なんで。 .........俺を置いていったの。

春の記憶

宮永レン
ライト文芸
結婚式を目前に控えている星野美和には、一つだけ心残りがあった。 それは、遠距離恋愛の果てに別れてしまった元恋人――宝井悠樹の存在だ。 十年ぶりに彼と会うことになった彼女の決断の行方は……

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...