君の記憶が消えゆく前に

じじ

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翌朝、華と詩と一緒にリビングに入ると、先に起きていた美弥は僕を見て一瞬戸惑った表情をした。華と詩に優しく朝の挨拶をして、もう一度僕の方を見た彼女はにこりと微笑んで言った。

「おはよう、今日は寝坊しなかったのね。」
「昨日はごめん。さっきの間なに?」

昨日の話題がふと頭をよぎって思わず聞いた僕に彼女は不思議そうに首を傾げた。

「なんか変な間でもあった?いつもどおりのつもりだったんだけど」

気づいていない彼女に、よせばいいのに僕は言い募った。

「一瞬僕の顔をを見たのに目を逸らしたから」

そこまで言って慌てて付け加える。

「なんか、僕怒られることでもしたかな、って」

その言葉を聞いて彼女はおかしそうに笑った。

「何か心あたりでもあるの?」

僕は考えた。昨日の寝坊以外特に怒られることはしてないはずだ。寝坊だって彼女は笑って済ませてた。

「ない」
「ね。気のせいよ。」

わざとではなさそうな彼女に、妙な戸惑いを覚えてしまう。まさか?いやほんの数秒だ。

「そっか。ごめん、昨日あんな話したせいかな。」 
「もう、すぐに影響されるんだから」

笑って美弥は朝食の支度を始めた。

4人で揃ってトーストとベーコンエッグ、そして大人はコーヒー、子どもミルクを飲む。食べたら着替えて、子ども達を保育園に連れて行く。迎えは彼女。いつもどおりだ。

昼休み、自分の席でコンビニで買った唐揚げ丼を食べながら、スマホで彼女からラインがきていないか確認する。
朝も夜も会ってるのだから、昼くらい別にラインをする必要がないのは分かってる。でも、彼女がお昼休みに午前中の仕事中にあった面白いことを送って来てくれるのを見るのが日課になっているのだ。
返信しないと、帰った時にちょっとしょげてるのが分かるから、いつも僕は一言コメントするように心がけている。
今日は、珍しく何も来ていなかった。忙しいのかな、そう思いながら携帯をしまった。

家に帰ると、彼女が子ども達と笑い合う声が玄関まで響いていた。
ただいま、と元気よく声をかける。すぐに子ども達と美弥から、おかえり、と返事が来た。

やはり朝のことは杞憂だったんだ、と思いながら美弥に尋ねた。

「昼珍しく、ラインなかったね」

彼女は一瞬、ぽかんとしてすぐに我に返った。

「あ、うっかりしてた」
「いいよ。僕の一服の清涼剤がなくて残念だったけど。」

そう言うと彼女はにこにこしながら言った。

「明日から頑張ります。」

僕はそれを聞いて安心した。ほら、やっぱり少し昨日の記事に影響されただけだ。

しかし、彼女から昼休みにラインが来ることはこの日を境に二度となかった。
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