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ヒロインの バッドエンド

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「イヤアアァーッ!!!」

 馬車で帰る途中に、 若い女性の悲鳴が聞こえてきた。 魔物に襲われているのか、 あるいは山賊に狙われているのか。 どちらにしろ、 危険な状態に陥っているのは間違いない。

「 すぐに助けに行って」

 私は、 すぐに護衛に命じた。 3人だけを残して 女性を助けに行かせる。
 女性は実は山賊の仲間で、 私を狙っているという可能性もある。 全てを 想定して対応しなければならない。

「 何で騎士団がここに!?」
「ええい! やっちまえ!!」

 ガラの悪い声が聞こえてきた。 女性を襲っているのは山賊で間違いなさそうね。護衛の 実力ならすぐに制圧出来ると思う。
 女性が怪我してなければいいけれど。
 最悪の場合は、山賊たちの慰み者にされている可能性も否定できない。

 刃物がぶつかる鈍い金属音がしばらく続いて、 やがて静かになった。 全てが終わったところで、 女性の安否を確かめに行く。

「 なんてことなの・・・・・・!」

 状況の悲惨さに、私は顔を歪ませた。
 
 女性の服をビリビリに 引き裂かれて、肌があらわになっている。 女性の足元を流れる白い液体。 すでに山賊達から犯された後だった。

 怯えるように涙を浮かべる女性の顔を見て、私はさらに衝撃が走った。
 その女性はヒロインのルルリナ=オージュだった。

 この光景を見て私は思い出した。
 これはイベントのひとつで、ルルリナの パラメーターが低いと山賊に負けて、 純潔を散らしてしまう。 被害者とはいえ純潔でなくなった者が王妃 候補というのは外聞が悪いから、 候補から外されてしまう。 さらに 他の攻略 対象との交流もなくなり、ルルリナは 孤独な余生を送ることになってしまう。

 私の護衛が 駆けつけた時にはすでに手遅れだった。 私が気にする必要はない。 けれど、ルルリナの あんまりの様子を 目にすると、何とも言えない気持ちになってしまう。

 ルルリナを 惨めな格好にさせたままではいけない。

「 カミーユ、 あなたのマントを彼女に貸してあげて」

 男性に近づかれたくはないだろうから、 女性の護衛に 命じる。
 ルルリナは カミーユのマントを羽織ると、 なぜか私を睨みつけてきた。

「 ここまでするの! ルナシオン、 あなたは 悪魔よ!!」
「 何を言っているのかわからないわ」

 助けたのに、なんて言い種だろうか。
 ルルリナは 私に憎しみを向けてくることをやめない。

「 とぼけないで! 私に対するご令嬢たちの数々の意地悪は、 あなたが命じたことでしょ。 わかってるんだからね!」
「 それは・・・・・・」

 記憶が戻る前とは言え、間違いなく私がやったことだった。 素直に謝るしかない。

「 ごめんなさい」
「 いじめくらいなら我慢できた。 でも山賊たちを雇って私を襲わせるなんて、 あなたには血も涙もないの!!」
「 それは私じゃないわ。 山賊たちは偶然居合わせただけよ」
「 しらばっくれないで! 私の魔力を封じたくせに」
「えっ?」

 ルルリナの 言葉で、私は更に思い出した。

 そういえば、ルルリナの パラメーターが低い時は、 救済措置で護衛が強制的についてきていた。 彼女が一人で行動することができる時は ある程度の実力が伴っている時なのである。 本来ならば山賊なんかに負けるはずがなかった。

「ざまぁをご所望でしょうか?」

 ふと、 そのセリフを思い出してゾッとする。

 ルルリナの 魔力を封じたのはラブリナだ。 私がざまぁを望んでしまったから、 ヒロインのバッドエンドルートになってしまったのかもしれない。
 バッドエンドでは ルナシオンの罪は曖昧にされて、 第2王子 クリシュマルドとの 婚約を破棄されることもなかった。
 ルルリナが 不幸のどん底に沈まなければ、 私が助かる道はない。
 さすが悪役令嬢ルナシオンだ。私は何て悪いやつなのだろう。 こんな状況で罪悪感を感じるなんて、 偽善者にも程がある。

 軽はずみに返事をしなければよかった。

 本当は怖い、ざまぁ展開。
 意図的にしろ無意識にしろ、復讐は人を傷つける。
 悪意を悪意で返す。 憎しみを憎しみで返すのであれば負のスパイラル。 最悪な いたちごっこではないか。

「 私のせいで・・・・・・本当にごめんなさい」

 卑怯かもしれない。 それでも私は、涙を流さずにはいられなかった。


ーーーーーーー


 ハッピーエンドかどうかは分からないけど、 今よりかはましなラストになる予定です。 もしよければ最後までお付き合いください。
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