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二人の冒険者

二人は仲良し

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  ガスランプのくすんだ香りに混ざる白百合の香水の香り。
 
  そんな工房がクレール・アルバス・クラリオーネの仕事場の一つである。
 
  煩雑に積み上げられたレガシーの本、壁いっぱいに広がる世界地図のような設計図。
 
  油まみれの汚れた手ぬぐいに大小様々な歯車やネジ。
 
  部屋の中で唯一片付いたガラスケースには、納品を待つ古代銃が眠っており、その対角線上に位置する一番汚れて散らかった場所にて、クレールは洞窟で手に入れたレガシーのサビを落として一つ唸る。

「自立もしないし……吊り下げる用でもなさそう……と」

  再度本を手に取りパラパラとめくり、似たような形のものと見比べるが、どうにも納得がいかないという表情でクレールは溜息を吐く。
 
  と。

「ノックですコンコン」

  開けっ放しの扉から、トンディの可愛らしい声が部屋の中に響く。

「トンディ、思ったより早かったね」

「ギルドも換金所も空いてた。 珍しいこともある。 入るよ?」

「どーぞどーぞ。 いつも通り散らかってるけど、適当に座って」

  それだけ言うと、クレールはまたレガシーに向き直り、作業を再開する。
 
  一心不乱という言葉の通りにレガシーに向き合う相棒の姿に、トンディはクスリと笑みをこぼして工房へと足を踏み入れた。

「じゃあ遠慮なく」

「あ、納品用のガラスケースには座るなよ」

「わかってる」

 
  クレールの言葉にそう返すと、トンディは散らかった部屋を慣れた足取りで進み、作業台近くの積み上がった本の上にちょこんと座る。
 
  学者の娘として本の上に座ることに最初は抵抗のあったトンディであったが、それ以外に服を汚さずにすわることができる場所がないため、今ではすっかり慣れてしまっていた。

  勇者のパーティーを追放され、トンディに拾われてから。クレールはこうして家の一部を工房として借り受け、古代銃の生産や修理を請け負う【ガンスミス】として生計を立てている。

  実用的な武器としては魔法に劣るとされている銃であったが、歴史的価値のある装飾品として一部の貴族に一定の需要があるらしく、ガンスミスとして工房を開いてからは、大した宣伝もしていないというのに細々ながら依頼は尽きることがない。

  今では腕がいいと遠くの町や国からも依頼が来る程だ。
 
  もちろんどこまで行ってもニッチな産業なため大儲けというわけにもいかず。
 
  冒険者をしながらガンスミスとしての仕事もこなす二重生活をクレールは送っている。
  
  聞けば大変なように聞こえるが、クレール自身はこの生活をいたく気に入っていた。

「洞窟探索の報酬はどうだった?」

「金貨4枚。 支払いは夕方」

「ぼちぼちってところか」

「洞窟探索としては割安」

「まぁ、魔物も出なかったし。深さもレベル1しかなかったから、妥当な数字じゃない? 宝箱もあったわけだし」

「まぁね、だから換金所で換金だけして帰ってきた。 金貨七百枚、こっちは大量」

  そう言ってトンディは、たっぷりと膨らんだ財布を揺らすと、ジャラジャラと言う音がする。

「思った通り結構いい値段で買い取ってくれたな」

「うん、私大満足……あ、そうだ。次に行く予定だった山の麓のダンジョン覚えてる?」

「あぁ、最近見つかったそこそこ深そうなダンジョンね? それがどうかしたのか?」

「山に凶暴な魔物が出たみたいだからしばらく行かない方が良さそう。Aランクの魔物討伐クエストが並んで貼ってあった……正体未識別って書いてあったからかなりの大物」

「あらら……それならそっちは後回しにしたほうがいいか?」

「それが賢明。先に東側のダンジョン回ろう」

「東ね。となると魔物が増えるから……あとで銃弾の在庫確認しないとな」

「頼りにしてるよクレール。それで、そっちはなんのレガシーかわかった?」

   一通り今日の成果についての報告を終えたトンディ。
今度はクレールが行なっている作業の進捗を問うと、クレールは困ったような表情で「うーん」という言葉をあげる。
 
  解析は難航しているようだ。

「多分鉄の時代のランプじゃないかなぁ? ほら、このお椀みたいな場所の真ん中に透明なガラスの球体状の突起があるでしょ? 多分これがレガシーにある電球ってやつで、ロウソクみたいに光るんだと思う」

  ほら、とクレールはトンディにその部分を指差してみせ、トンディは身を乗り出してその部分を覗き込むが。

「よくわかんない」
 
  ふんすと鼻を鳴らしてトンディは首を左右に振るう。

「だよね……ごめん」

「要するに、明かりがつくの? 松明みたいなもの?」

「本によると、炎を使わない明かりで……蓄電鉱石があれば大体1000時間は使えるんだとか」

「それすごい……炎や魔法に反応するトラップがたくさんあるから、いつも小さな明かりしか持ち込めなかったけど。 それがあれば、ダンジョン探索も宝箱開けるのもすごい楽になる。いいもの拾った」

  想像以上に瞳をキラキラと輝かせるトンディに対し、クレールはその様子に困ったように表情を歪める。

「うーん。ただどう使うかいまいち分からないんだよね……自立するようでもないし、どっかの機械のパーツの一部みたい……形的には、この自動車っていう箱の一部と形が似てるんだ……ほらここ」

  そう言い、本に描かれた絵を指差すクレール。

「……たしかに、この箱の怪物の眼の部分……似てる」

「だろ?」

「ということはこれだけだと光らない?」

  見るからに残念そうな表情を作るトンディ、その姿にクレールは困ったような表情を見せる。

「うーん……光らせるだけならできるかもしれないけれど」

「頑張って、大丈夫、クレールならできる」

  ふんっと鼻を鳴らすトンディ。 その輝く瞳には絶対の信頼がうかがえる。

「あーまぁ、色々と壊れてるから時間はかかるかもだぞ? パーツも取り替えないといけないし」

「何が足りないの?」

「んー、状態はいいから……錆びた銅線を取り替えなきゃなのと、鏡みたいなものが必要だな。 あとはタングステン……はないよなぁきっと」

「よく分からないけれど、ダイクの店に行くの?」

「まぁそうなるな、レガシーのパーツなんて、あそこくらいしか売ってないし」

「それなら、私も用事があるし、一緒に行こう」

「お! お金足りたんだ。 欲しいレガシーがあるんだったよね確か」

「うん、半年お酒我慢した甲斐あった。 付き合ってくれてありがとう、クレール」

「い、いいってお礼なんて。 冒険に役立つものなんだろ? だったら大賛成さ」

「そうだけど……」

  お礼をしないと納得がいかないという表情のトンディに対し、クレールは一度かんがえるようなそぶりを見せた後、そしたらと呟いて一つ提案をする。

「それじゃあ久しぶりに今日は外で食べていこうよ。 お金に余裕もあるだろうし、一ヶ月ぶりにお金を気にしないでパーっとさ。そのあとダイクの店に行って、ギルドで報酬をもらって帰ってくる。どうだ?」

「それなら賛成。そういえば最近、新しい酒場ができたってダイクが言ってた。甘いものがたくさんあるって」

「本当? それは急いで行かなきゃね!」

「レッツゴー」

  お出かけすることになった。

                                         ◆
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