上 下
21 / 46

マッスル兄貴

しおりを挟む
「き、金髪ぅ……妾あれ怖い」

   マオは怯え、フレンの後ろに隠れるようにして震えている。

   正直できることなら僕も姉ちゃんの後ろに隠れようとしたが、すでに姉ちゃんが僕の後ろに隠れていた。

「姉ちゃん……顔馴染みって言ってたけれど」

「アンネ……まさかあんたにもこんな趣味が」

 フレンと共に、白い視線を姉ちゃんに向けると。

「ごめんねユウ君、私うっかり場所を間違えちゃったみたい……あはは、似てる建物だから間違えちゃった、と言うより修練場もう潰れちゃったのかも、残念だなー」

 冷静に、かつ早口で扉を閉めて帰ろうとする姉ちゃん。

 しかし。

「おやぁ? そこにいるのは、アーーーーーンネじゃなーいかね‼︎ 久しぶりだYO‼︎」

「やばっ、気づかれた……」

「姉ちゃん、めちゃくちゃ名前呼んでるけど……というかいま気づかれたって言ったよね」

「ききき、聞き間違いじゃないかなユウ君‼︎? わ、私あんな筋肉もりもりマッチョマンの知り合いなんて……」

「おーーい‼︎ アンネくーーん‼︎ アンネ、ファタ、モルガナくーーん‼︎ HAHAHA、聞こえてるんだろー?」

「めちゃくちゃフルネーム呼んでるけれど」

「~~~~~~‼︎?」

 鞭で叩かれながらも、にこやかな笑顔でこちらに手を振る男はとても親しげだ。

 黒光りする頭と真白な歯……そしてもっこり。

「……姉ちゃん、まさかああいうのが好み……」

「ちちちち違うから‼︎? 私はユウ君一筋だし……そりゃ筋肉は嫌いじゃないけれど、あんな変なプレイをする人は全然好みなんかじゃ……」


「どうしたんだYOアンネ君‼︎ もしかして久しぶりの再会で恥ずかしがってるのかなー? どうだい、昔みたいにまた、一発ヤって行かないかーーい?」

「一発……ヤる?」

「……アンネ、妾えっちなのはいけないと思うのじゃ」

 マオの言葉が追い討ちとなり視界が歪む。
 信じていた姉がまさかあんな黒光りに……死にたい。

「いやああぁ‼︎? ちちち違うからユウ君‼︎ 本当に、本当にそんなんじゃないからあぁ‼︎」

「アンネ君―‼︎ また一緒に大胸筋をプルプル……」

「っもう、余計なこと言うなこの筋肉だるまーー‼︎」

 悲鳴に近い声を上げながら、姉ちゃんは赤色の魔法陣を展開する。
 
「ちょっ‼︎? アンネ、お主それ室内で打つような魔法じゃ……」

 高度な魔術式だったのだろう。 
 マオは慌てて姉ちゃんの魔法行使を止めようとするが。

「問答無用‼︎筋繊維ひとつ残らず灰塵と化せ‼︎『エクステッド・ファイヤーボール!』」

 それよりも早く詠唱を終えた姉ちゃんは、男目掛けて巨大な火の玉を発射する。

「ちょおおぉ‼︎? 姉ちゃん‼︎」
 
 巨大な火球は人間一人は軽く包み込めそうなほど巨大であり、破裂をすればこの空間内の人間全てを巻き込んで死滅させられるだけの大魔法。

 そんな魔法がまっすぐに一人の男に向けられて走る……だが。

「ふっふふふ‼︎ 相変わらずいいもの持ってるね‼︎ だが、『モストンマスキュラー‼︎』」

 男はその巨大な火球を回避するでも防ぐでもなく……その腹筋で正面から受け止める。

 炎により照らされ、さらなる輝きを見せる筋肉……そして強調される腹筋。

「な、なんだってんだよあの大根すりおろせそうな腹筋は‼︎?」

「何個じゃ、一体何個あるのじゃあの腹筋‼︎」


 姉ちゃんの一撃を真正面から受けてもなお無傷。
 しかも苦しむどころか漢は爽やかな笑顔をたたえている。

「はっはっは、さすがだねアンネ……純度の高い魔力行使、仕上がってるNE‼︎」

 その姿はまさに、マッチョだった。

「はぁ……はぁ……もう、なんで貴方がここにいるのよ」

「いやぁ本国より要請で魔王軍幹部を追ってここまできたんだが、ぱったりと消息が途絶えてしまってね。捜索がてら近くに寄ったからついでに修練場の視察も兼ねて足を運んだというわけSA‼︎」

「何て最悪のタイミングなのよ……知ってたらこなかったのに~」

 珍しく悔しそうな表情を見せる姉ちゃんに僕は目を白黒させながらも、黒光りするマッスルに僕は思わず声をかける。

「えと……貴方は?」

「おや、もしかして君がユウ君かな?」

「そう、ですけれど」

「おぉ、ナイストゥミーチュー‼︎ 話はお姉さんからYO―――く聞いてるYO。……ふむ、アンネ君の話よりも随分と逞しいね。もっとプリティなベイビーを想像していたんだが……風が吹いただけで折れて死んでしまいそうで心配だとかなんとか」

 いったいどんな紹介してるんだよ姉ちゃん……僕は藁か!?
 
「逞しくないもん‼︎  ユウ君はいつだってお人形さんみたいにかわいいんだから‼︎」

「HAHAHA、なるほど前々から感じてたけどやっぱり君も色々と捻じ曲がってる子だったか‼︎ まぁいいだろう。とりあえず初めましてだ弟君‼︎ 私はアーノルド・ドゥエイン・ジャックマン‼︎ 修練場の責任者にしてここ、ギルドアームストロングのギルドマスターだ‼︎ 気軽にマッスルアニキと呼んで欲しいYO‼︎」

 ポーズを決め挨拶をするアニキ。
 
   眩しい……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

処理中です...