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いざゆけ僕らのだいまじん

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「す、すげえ‼︎ さすがはアンネさんだ‼︎」
「悔しいけど、さすがはSランク冒険者ってところか‼︎」
「お、おれ、今度サインもらおうかな……」

 だいまじんの猛攻に、冒険者の一団からそんな感想が聞こえて来る。

 半ば街の冒険者たちの出番を奪う形になってしまったわけだが。
 ほとんどが姉ちゃんに対する称賛であり、弟として少しだけ鼻が高い。

「みんなが応援してくれるよユウ君‼︎ お姉ちゃんすごい?」

「え、まぁ確かに。 こんなのお姉ちゃんにしかつくれないだろうし……すごいと思うよ」

 嬉しそうにはしゃぐ姉ちゃんに、僕は思わず率直な感想を述べると。

「ユウ君が褒めてくれたぁ‼︎ くふっ、ふへへへへへ‼︎ よーしお姉ちゃん頑張っちゃうんだから。いっけー、だいまじーん‼︎」

 嬉しそうに張られる日進月歩成長中の胸。
姉ちゃんは調子に乗ったのかだいまじんに自らのユニークスキル【改造】を発動する。

『だーいまじーーん‼︎』

 スキルの発動によりゴーレムの体が黒光りを始める。

   なんだあれは……鉄か? 

   まさか姉ちゃん、スキルだけで石を鉄に変えたのか? 

   しかも造詣もずんぐりむっくりの体型からずいぶんと人に近い形に進化してるし……。

   殴りかかる速度も先ほどよりも数段早い。

『だいま……じーーん!』

 だがしかし声は変わらずいい加減だ。

「っっっ‼︎?」

 猛攻を仕掛けるだいまじん、ねえちゃんの改造によりだいまじんが有利であることは自明の理であり、僕や背後の冒険者たちにも安堵の色が見え始める。

「ぐるるるあああああ‼︎」

 だが、オーガもやられているだけではないようだ。

 翻弄するように攻撃をしかけるだいまじんに対し、オーガは手に持った巨大なこんぼうを振り上げると、ゴーレムの胸部を強打。

 あたりどころが悪かったのか、音を立ててゴーレムの体が崩れ落ちる。

「姉ちゃん‼︎ だいまじんが‼︎」

「大丈夫よユウ君、お姉ちゃんが作る決戦兵器に死角なんて存在しないの、ほら‼︎」

「っ……傷が‼︎?」

 姉ちゃんが地面を杖で叩くと、破壊された胸部を補うようにすぐさま空から岩が降り注ぎ、傷痕を塞いでいく。

 その様子にオーガは慌てるように何度もだいまじんに棍棒を叩き込むが、どれだけ破壊してもだいまじんの傷はすぐに修復されてしまう。

「甘い甘い‼︎ 私のスキルで改造したゴーレムはドラゴンのブレスさえも耐えきる一級品。ちょっと大きいぐらいのオーガにおくれをとることなんてないの‼︎」

「す、すごいや……圧倒的じゃないか」

「ふっふっふーんそうでしょう? まぁ強いだけでもロマンがないから、3分以上戦うと勇者の剣が自爆するようにはしたけどね」


「そっか、勇者の剣が自爆を……………なんて?」


 さらっと投下される爆弾発言。
 
   当然僕も驚いたのだが、おそらくこの中で一番驚いたのはゴーレムの中であくせく働く勇者の剣だったことだろう。

 散々弄られた挙句に最後には自爆機能。
 
   そろそろ勇者の剣は怒っていい。

「そ、そんな不安げな顔しないで大丈夫よユウ君。そうならないようにお姉ちゃん管理してるもの。これはそう、フレーバーよフレーバー」

「といいつつ姉ちゃん。3分ってそろそろ経つんじゃないの?」

「‼︎……そうかも?」

「姉ちゃん?」

「じょ、冗談だよ冗談、まだ時間はあるから心配しないで。まぁでも十分楽しんだ……じゃなくて、なかなか苦戦させられたけどそろそろ終わりにしましょうか。だいまじんの必殺技を見せてあげる」

「必殺技?」

 なんだろう、嫌な予感がする。

「まぁ見てて。 抉りとれ‼︎ だいまじーーん‼︎」

『だいまじーーーーん‼︎』

 止めようとする僕の言葉も間に合わず、姉ちゃんの言葉に呼応するようにだいまじんは右腕を振り上げると、自らの胸に突き刺しコアである勇者の剣をえぐり取る。

「じ、自滅?‼︎」

「いいえ違うわ‼︎ あれこそだいまじんの唯一にして最強の武器‼︎ コアブレード(今命名)‼︎」

「いや、あれだいまじんのじゃなくて僕の武器だけど」

「……だいまじんは強大な敵を倒すために、ああやって自らの命と引き換えに、強大な一撃を放つの‼︎ その名も、究極破心弾究極破心弾ウルティメイトコアブレイク‼︎」

「無視か」

『だいま……じーーーん‼︎』
 
 命も(おもに自滅のせいで)絶え絶えに最後の力を(茶番のために)振り絞って、だいまじんは最後の攻撃をオーガにしかける。

 光り輝く勇者の剣を拳に納めてオーガに放つ一撃。

 その一撃を防ごうとオーガは棍棒を盾にするが、拳が棍棒に触れると同時にだいまじんの拳から炎が上がり。

 

   オーガを巻き込み大爆発する。



「結局爆発してるじゃん‼︎?」

 そんな渾身のツッコミと同時に、爆発にまきこまれ吹き飛ばされた勇者の剣が僕の目の前に突き刺さる。

 あれだけの爆発に巻き込まれても無傷なのは流石の一言であるが。
 刀身から煙を上げながら鈍く輝く勇者の剣は……心なしか恨めしそうにこちらを睨んでいるような気がした。
 
 頼むから呪うなら姉ちゃんだけにしてくれよ……呪いとか効くのかわかんないけど。

「私たちは……とても大きなものを失ったわ。だけどそれを嘆くのではなく、前に進むことをきっとだいまじんも望んでる。 さようならだいまじん……そして、ありがとう」

 核を失い、崩れ落ちていくだいまじんを見送りながら、姉ちゃんはそんな呟きを漏らす。

 大量の魔力と勇者の剣を無駄に使用した茶番劇。
 これを冒険者の人々はどんな思いで見ているのか……。

 ちらと背後の冒険者の一団を見てみると。

「う、うふぐぅ……だいまじん……俺たちのために」
「私たちが、私たちが不甲斐ないばっかりに‼︎?」
「だいまじん……お前が犠牲になる必要なんてなかったのによぉ……あんた漢だったぜ」

 大号泣だった。

 ……僕がおかしいのだろうか。

   そうではないと信じたい。

「いえーい大勝利―‼︎ 被害ゼロであんなデカブツやっつけたんだよ、きっと報酬もたくさんもらえるね。ユウ君、お姉ちゃんを褒めて褒めて? 頭なでなでしてー‼︎」

 茶番は終わったのか、そうかんがえる僕に姉ちゃんは子犬のようにはしゃぎながら僕の元まで駆け寄ると頭を差し出してくる。
 
   確かに色々とツッコミはしたが……あれだけの魔物を被害ゼロで倒したのは事実だ。

   少し恥ずかしいが、期待に瞳を輝かせる姉ちゃんの頭を優しく撫でる。

   子猫のように喉を鳴らして笑う姉ちゃん。

   そんな姿を僕は少しだけほっこりしながら見つめていたが。

   ふと、素朴な疑問が脳裏をよぎる。

「そういえば……あれだけの大きな岩、一体どこから召喚したの? この辺り平野だし、大変だったんじゃない?」

「なに言ってるのユウ君? 石なら近くにたくさんあるじゃない」

「??」

「ほら」と指刺す姉ちゃん……その先には崩れ落ちた街の外壁。
 瓦礫の山の奥には、本来見えてはいけないウーノの街の街並みが見える。

「……姉ちゃん、まさか」

「お姉ちゃん頭いいでしょ? 防壁がオーガの襲撃を耐えられないなら、防壁で魔物を退治すればいいんだって逆転の発想よ。︎ 魔力も抑えられるしリソースも有効活用できるしで一石二鳥‼︎ ふふっ、その点も含めてさぁユウ君、お姉ちゃんをもっとほめ……てあれ?ユウ君、なんでそんな怖い顔して……」

「あんたが街ぶっ壊してどうすんだバカあああぁ‼︎」

 だいまじんが崩れ落ちる音をかき消すように僕の声が冒険者の街に木霊する。

 その後、報告に赴いたギルドにて、僕たちがオーガ討伐の報酬を遥かに上回る外壁修繕費を請求されたのは言うまでもない。

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