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天下静謐
伊達の暗躍
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「何と!?そこまで読み切っておられながら、何故、伊達様をお赦しになるのでございますか!?」
「あくまで、余の読みじゃ。もちろん、九分九厘間違ってはおらぬがな。じゃが、証拠がない。」
「須田様の密告が何よりの証拠でございましょう?それを、証拠がないなどと…。」
「もちろん、伊達を召喚したわ。須田の密告を無下にするわけにはいかぬからの。じゃが、その場で、“恐れながら、拙者が煽動仕りました”などと申す阿呆がどこにおる?知らぬ、存ぜぬと一点張りじゃよ。」
「さはさりながら、須田様とて証拠を掴んでおられるからこそ、密告に至ったわけでございましょう?伊達様が一揆の首謀者に下された書状を手に入れたのではありませぬか?」
「確かに、書状はあった。伊達にも見せた。じゃが、伊達は一言、“それは偽物でございます”、それだけじゃ。」
「偽物ですと!?伊達様は、一体どう言い逃れされたのですか?」
「伊達はこう申した。“本物の書状には、花押に針で穴を開けております。拝見したところ、その書状には穴が見当たりませぬ。故に、それは偽物でございます”、とな。」
「花押に穴ですと!?そのような戯言でお赦しになられたのでございますか!?穴など、後からいくらでも開けられるではありませぬか?」
「お主の申すとおりじゃ。では、逆に問うが、穴は後から開けたということを、我らはどうやって伊達に示せる?お主の申すことは、もっともじゃ。家臣にでも渡した書状を借り受け、そこに後から穴を開けて、余のところに持参したのが事実であろう。じゃが、我らでは、その穴をいつ開けたかまでは、示せぬであろう?その書状だけで、伊達を罰するわけにはいかぬ。」
「畏れながら、もしここで伊達様をお赦しになれば、他の方々に対して示しがつきますまい。ことによっては、第二、第三の伊達様が現れるやも知れませぬ。」
「ほう、お主も政略に長けてきたようじゃな。じゃがな、ここで伊達を罰すれば、一揆の鎮圧は誰が当たる?会津少将(蒲生氏郷)に全てを任せてしまえば、少々の負担は増すばかり。じゃから、目論見どおり、伊達に鎮圧を命じたのよ。」
「何と!?伊達様の手の内を読み切っておられながら、何故、その手に乗ったのでございますか!?」
「手前みそではあるが、これこそ政治よ。伊達とて、余から直々に一揆鎮圧を命じられれば、従わざるをえぬ。ここで、万一、伊達が一揆の鎮圧に失敗すれば、その時こそ伊達を罰すればよい。もちろん、伊達の筋書きどおり故、伊達も喜んで鎮圧に向かうであろう。他方、一揆勢の勢力も侮れぬ。伊達が一揆が煽ったとはいえ、もはや伊達の口利きだけで収めることはできぬ。伊達とて、相応の犠牲は覚悟せねばならぬ。それほどの戦を、伊達主導で行うのじゃ。伊達の勢力が削がれれば、会津少将も奥州の押さえがやりやすくなるであろう。」
「そこまでお考え遊ばされていたのでございますか!?伊達様も、殿下がそこまでお考え遊ばされていたとは夢にも思召されないことでしょう。むしろ、伊達様は、筋書きどおりに事が運んだことをほくそ笑んでおったのではございますまいか?」
「伊達を甘く見てはいけぬ。伊達こそ、余の考えを読み切って、事に至ったのではないかのう。まあ、伊達の一揆鎮圧は、余にとって悪い話ではないからのう。存分に働いてもらわんとな。」
「して、伊達様のご首尾は?」
「一揆勢は、思った以上に強敵じゃった。伊達は、一揆勢の首領、笠原民部が立て籠もる宮崎城に総攻撃を仕掛けた。じゃが、この城、要害堅固で攻め破れぬ。そうこうする内、伊達方の浜田伊豆ら多数の武者が討死する有様じゃった。総攻撃を仕掛けた翌日夜、城中から火の手が上がったのを契機として、漸く攻め落とすことができたのじゃ。」
「一揆勢を鎮圧できたとはいえ、伊達様も多大な損耗を被ったわけですな。」
「一揆勢とて、一揆を起こした以上、死に物狂いじゃからのう。置目でも示したとおり、領主に歯向かう者は、悉くなで斬りに処されるからのう。事実、伊達もこの置目に従い、なで斬りを断行した。証拠として、首級八十一、削ぎ落した耳鼻百三十を注進かたがた送ってよこしたからのう。」
「残酷な話ではございますが、伊達様の面目躍如といったところですな。さりながら、それでは、犠牲を払われたとはいえ、伊達様の筋書きどおりではございませぬか?」
「経緯はどうあれ、伊達は一揆を鎮圧した。それは、賞されなければなるまい。よって、葛西・大崎十三郡三十万石を与えることとした。」
「三十万石ですと!?木村様の領地をそっくりそのまま拝領するなど、伊達様のお喜びいかほどのものでございましょう。」
「そう思うか?その代わり、伊達家本領の内、六郡四十四万石を会津少将(蒲生氏郷)の所領とした。まあ、実質、十四万石の減俸で伊達は救われたというわけじゃ。」
「十四万石の減俸でお咎めなしとあれば、伊達様もほくそ笑んで…いや、なるほど…やはり政治で殿下に比肩する大名などおりますまい。よくよく考えれば、葛西・大崎十三郡三十万石とて、一揆を起こすくらいですから、土地は荒れ果てているはず。実高、半分もございますまい。他方、本領の内、四十四万石召し上げとなれば、伊達様の手取りは、十四万石では済みますまい。下手をすれば、伊達家自体の維持も危うくなるのではございませぬか?」
「ほう、よくぞ気づいた。実際、伊達家の家臣団は大混乱じゃった。あの、伊達兵部(成実)茂庭左衛門(綱元)が出奔するくらいじゃからのう。まあ、これで伊達家も当面下手な小細工は出来なくなったというわけじゃ。」
「会津少将様(蒲生氏郷)を凌駕する領国をお持ちであった伊達様を牽制することで、奥州の仕置を完遂させるお心積もりというわけでございますな。さりながら、これで一揆は収まったのでございましょうか?」
「あくまで、余の読みじゃ。もちろん、九分九厘間違ってはおらぬがな。じゃが、証拠がない。」
「須田様の密告が何よりの証拠でございましょう?それを、証拠がないなどと…。」
「もちろん、伊達を召喚したわ。須田の密告を無下にするわけにはいかぬからの。じゃが、その場で、“恐れながら、拙者が煽動仕りました”などと申す阿呆がどこにおる?知らぬ、存ぜぬと一点張りじゃよ。」
「さはさりながら、須田様とて証拠を掴んでおられるからこそ、密告に至ったわけでございましょう?伊達様が一揆の首謀者に下された書状を手に入れたのではありませぬか?」
「確かに、書状はあった。伊達にも見せた。じゃが、伊達は一言、“それは偽物でございます”、それだけじゃ。」
「偽物ですと!?伊達様は、一体どう言い逃れされたのですか?」
「伊達はこう申した。“本物の書状には、花押に針で穴を開けております。拝見したところ、その書状には穴が見当たりませぬ。故に、それは偽物でございます”、とな。」
「花押に穴ですと!?そのような戯言でお赦しになられたのでございますか!?穴など、後からいくらでも開けられるではありませぬか?」
「お主の申すとおりじゃ。では、逆に問うが、穴は後から開けたということを、我らはどうやって伊達に示せる?お主の申すことは、もっともじゃ。家臣にでも渡した書状を借り受け、そこに後から穴を開けて、余のところに持参したのが事実であろう。じゃが、我らでは、その穴をいつ開けたかまでは、示せぬであろう?その書状だけで、伊達を罰するわけにはいかぬ。」
「畏れながら、もしここで伊達様をお赦しになれば、他の方々に対して示しがつきますまい。ことによっては、第二、第三の伊達様が現れるやも知れませぬ。」
「ほう、お主も政略に長けてきたようじゃな。じゃがな、ここで伊達を罰すれば、一揆の鎮圧は誰が当たる?会津少将(蒲生氏郷)に全てを任せてしまえば、少々の負担は増すばかり。じゃから、目論見どおり、伊達に鎮圧を命じたのよ。」
「何と!?伊達様の手の内を読み切っておられながら、何故、その手に乗ったのでございますか!?」
「手前みそではあるが、これこそ政治よ。伊達とて、余から直々に一揆鎮圧を命じられれば、従わざるをえぬ。ここで、万一、伊達が一揆の鎮圧に失敗すれば、その時こそ伊達を罰すればよい。もちろん、伊達の筋書きどおり故、伊達も喜んで鎮圧に向かうであろう。他方、一揆勢の勢力も侮れぬ。伊達が一揆が煽ったとはいえ、もはや伊達の口利きだけで収めることはできぬ。伊達とて、相応の犠牲は覚悟せねばならぬ。それほどの戦を、伊達主導で行うのじゃ。伊達の勢力が削がれれば、会津少将も奥州の押さえがやりやすくなるであろう。」
「そこまでお考え遊ばされていたのでございますか!?伊達様も、殿下がそこまでお考え遊ばされていたとは夢にも思召されないことでしょう。むしろ、伊達様は、筋書きどおりに事が運んだことをほくそ笑んでおったのではございますまいか?」
「伊達を甘く見てはいけぬ。伊達こそ、余の考えを読み切って、事に至ったのではないかのう。まあ、伊達の一揆鎮圧は、余にとって悪い話ではないからのう。存分に働いてもらわんとな。」
「して、伊達様のご首尾は?」
「一揆勢は、思った以上に強敵じゃった。伊達は、一揆勢の首領、笠原民部が立て籠もる宮崎城に総攻撃を仕掛けた。じゃが、この城、要害堅固で攻め破れぬ。そうこうする内、伊達方の浜田伊豆ら多数の武者が討死する有様じゃった。総攻撃を仕掛けた翌日夜、城中から火の手が上がったのを契機として、漸く攻め落とすことができたのじゃ。」
「一揆勢を鎮圧できたとはいえ、伊達様も多大な損耗を被ったわけですな。」
「一揆勢とて、一揆を起こした以上、死に物狂いじゃからのう。置目でも示したとおり、領主に歯向かう者は、悉くなで斬りに処されるからのう。事実、伊達もこの置目に従い、なで斬りを断行した。証拠として、首級八十一、削ぎ落した耳鼻百三十を注進かたがた送ってよこしたからのう。」
「残酷な話ではございますが、伊達様の面目躍如といったところですな。さりながら、それでは、犠牲を払われたとはいえ、伊達様の筋書きどおりではございませぬか?」
「経緯はどうあれ、伊達は一揆を鎮圧した。それは、賞されなければなるまい。よって、葛西・大崎十三郡三十万石を与えることとした。」
「三十万石ですと!?木村様の領地をそっくりそのまま拝領するなど、伊達様のお喜びいかほどのものでございましょう。」
「そう思うか?その代わり、伊達家本領の内、六郡四十四万石を会津少将(蒲生氏郷)の所領とした。まあ、実質、十四万石の減俸で伊達は救われたというわけじゃ。」
「十四万石の減俸でお咎めなしとあれば、伊達様もほくそ笑んで…いや、なるほど…やはり政治で殿下に比肩する大名などおりますまい。よくよく考えれば、葛西・大崎十三郡三十万石とて、一揆を起こすくらいですから、土地は荒れ果てているはず。実高、半分もございますまい。他方、本領の内、四十四万石召し上げとなれば、伊達様の手取りは、十四万石では済みますまい。下手をすれば、伊達家自体の維持も危うくなるのではございませぬか?」
「ほう、よくぞ気づいた。実際、伊達家の家臣団は大混乱じゃった。あの、伊達兵部(成実)茂庭左衛門(綱元)が出奔するくらいじゃからのう。まあ、これで伊達家も当面下手な小細工は出来なくなったというわけじゃ。」
「会津少将様(蒲生氏郷)を凌駕する領国をお持ちであった伊達様を牽制することで、奥州の仕置を完遂させるお心積もりというわけでございますな。さりながら、これで一揆は収まったのでございましょうか?」
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