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新・小牧長久手戦記

相次ぐ戦死

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「堀様の思惑を飛び越えるとは、一体いかなることでございますか?徳川様も、戦果を挙げられたことですので、一旦、小牧山にご帰陣遊ばされたわけではないということでございますか!?」
「内府は抜け目のない男よ。孫七郎を敗走せしめたことで、我が方はすぐに立ち直ることはないと判断したのじゃ。そこで、我が方の手勢を徹底的に減らすことを考えおったのじゃ。内府は久太郎を追撃しようとはせず、手勢を一つにまとめ、勝入と武蔵守の軍勢に向かって突っ込んでいったのじゃ。」
「何と!?それでは自分から包囲されにいくようなものではございませぬか。徳川様ともあろうお方がなぜそのような無謀なことを!?」
「無謀…ではないのじゃ。内府は実によく状況を理解しておった。三河へ向かう軍勢の大将は孫七郎じゃ。その孫七郎は敢え無く敗走した。久太郎が一矢を報いたとはいえ、我が方の軍勢を立て直すには至らぬ。勝入や武蔵守は孫七郎の先を行軍しておった故、むしろ退路を断たれたことになる。内府は三河へ向かう軍勢をこの際まとめて葬ることで、我が方の士気を一気に下げることを狙ったのじゃ。勝入も武蔵守も、なるべく内府に悟られないように手勢を分けて行軍していた故、一つにまとまった内府の軍勢には歯が立たぬ。勝入の手勢も武蔵守の手勢も見る見るうちに減ってゆく。そして、まず勝入の手勢が完全に離散した。それでも、勝入は逃げ惑う兵卒二十ばかりを集め、何とか敵を食い止めておったが、衆寡敵せず、敵方の永井右近が単騎勝入に駆け寄ったかと思う間に、勝入の首級を挙げてしまった。勝入の嫡子、太郎庄九郎が父戦死との報を受け、仇討ちせんと引き返したが、敵方の安藤帯刀が騎馬もろとも庄九郎にぶつかって行き、庄九郎を馬から落とし首を搔き切ってしまった。」
「徳川様には一分の隙もなかったということでございますか。歴戦の士であらせられる池田様が庄九郎様もろとも討ち果たされてしまうとは…。」
「それだけではない。内府の突撃に気づいた武蔵守は、何とか勝入と合流して再起を図ろうとしたが、敵方の杉山孫六に眉間を撃ち抜かれたのじゃ。」
「鬼武蔵の異名を誇る森様まで討死遊ばされるとは…真に恐れながら、この度の奇襲は失敗に帰したというわけでございますな。」
「我が方の目論見が潰えたことは認めざるを得ぬ。もはや敵方は武蔵守の首を取ろうともせず、遺骸をそのまま捨て置き、敗残兵を狩るように討ち取っていった。生き残った兵士どもは、完全に戦意を失い、太刀も打刀も投げ捨て、一目散に楽田目掛けて退散した。じゃがな、我が方とて指をくわえて戦況を見ているばかりではない。内府が深追いしてくるなら、迎え討つ腹積もりでおったのじゃ。確かに、奇襲は失敗した。挙句、二万ばかりの兵の大半を失った。じゃが、それでも本陣には内府を迎え撃つに足る手勢は残っておる。甲羅に閉じこもる亀のようであった内府が勢いに任せて出張ってきたのじゃ。この時こそ、決戦を仕掛ける好機でもあるというわけじゃ。」
「なるほど。池田様、森様を討った余勢を駆ってきたとはいえ、敵方の兵にも疲れは出ているはず。徳川様が楽田の本陣を急襲するおつもりであれば、迎え撃って、一挙に殲滅せんと思召されたわけですな。」
「左様。内府の軍勢を殲滅すべく、急ぎ楽田を出発したが、余が出陣したことが内府の耳に入った。内府は真に抜け目がない。余の出陣を聞くや否や、余との決戦を回避し、手勢を纏めて小幡の要害に立て籠ってしまった。肝心の内府が戦場にいないのでは、さすがになす術がない。我が方も、田中村で一夜を明かしたが、内府は一向に攻め入ってくる気配がない。我が方は是非なく、楽田に帰陣せざるを得なかった。」
「真に遺憾ではございますが、この戦は徳川様の大戦果に終わったということでございますな。」
「勝入と武蔵守を失ったという点では、そう言われても返す言葉はない。確かに、奇襲に向かった二万の軍勢の大半は失った。じゃが、本陣には十分な兵卒が揃っておる。決して、内府に引けをとるものではない。その点は、内府こそ身に染みて分かっておったはずじゃ。じゃからこそ、双方ともこの戦のあとは、防御を固めて、日々を過ごしていく他なかったのじゃ。」
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