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第五章 復活のはじまり
第五十九話 オクタヴィアン、皆に説明する
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ブカレストのモゴシュの屋敷に無事に入れたオクタヴィアン。
まだ夜明けまでには時間があり、周りは真っ暗。しかし屋敷の中は至る所に松明の灯りがついている。
どうやらモゴシュ夫人は、旦那のモゴシュが一人、トゥルゴヴィシュテのヴラド公の所へ行った事が気になって、とても寝れる気分ではなかったらしい。
それに使用人と少年もローラが昨日から帰っていない事が気がかりで、また別の吸血鬼が襲って来るかもしれないという恐怖から、今晩は寝ずにいたのだと言う。
モゴシュ夫人は「あそこで話を聞きましょう」と、大広間の隅にある四人が囲める机とイスを指差した。
そしてオクタヴィアン、バサラブ、モゴシュ夫人の三人は机を囲み、使用人と少年は夫人の後ろのイスに腰かけた。
こうしてオクタヴィアンはここ数日の事をそこそこ詳しく話した。
最初はなんて事ない話に聞こえていたモゴシュ夫人も、話が進むにつれ神妙な顔になり、言葉を失った。
本当ならオクタヴィアンを問い詰めたいくらいにデタラメな話なのだが、何せ目の前のオクタヴィアンはすでに怪物に変わり果て、横に座っているバサラブもその話に頷いている。
それに何より今朝まで吸血鬼化したラドゥと、その嫁になったローラ、それとラドゥの親衛隊を目の当たりにしてきた夫人にとって、オクタヴィアンの話は信じるしかなかった。
「で、では本当にあなたではなく、ラドゥが娘と孫を殺した……」
まだ信じきれていない夫人はオクタヴィアンに聞き返した。
「ま、まあ直接ラドゥが殺した訳ではないですけど、屋敷に怪物を放っちゃったから……」
オクタヴィアンもこの話をすると、涙が出そうになる。
そして夫人は理解を超える話をずっとされて、すでに疲れてしまい、机に肘をついて伏せってしまった。
「お義母さん、大丈夫……じゃないですよね? 少し休みますか?」
「いい。続けて」
オクタヴィアンは夫人の疲れた様子を見て(そりゃそうだよな……ウソみたいな話だもんな……)と、共感した。
その時、少年がオクタヴィアンに話した。
「ねえ……ローラも、本当に死んじゃったの?」
少年の目は少し涙目になっている。
「うん……。ボクを助けたが為に……」
この話もオクタヴィアンは泣きそうになった。
「僕……ローラに助けられたんだ。アイツらから……僕……寝てる所を襲われて……それでここに連れて来られて……、でもローラが助けてくれた……なのに……」
少年は俯いてしまった。
その代わりのように使用人のおじさんがオクタヴィアンに聞いてきた。
「で、ローラの遺体は今どこに?」
「ボクの城に……ちゃんと棺桶に入っていると思います。ボクもまだ見てないんですけど……」
「ローラの所に行きたい!」
少年は立ち上がってオクタヴィアンに言った。
「うん、ローラはね、死ぬ前にたぶんキミ達の話をしたんだと思う。新しい家族ができたって。それでボクと四人で馬車で旅をするって……」
この話をした途端、オクタヴィアンは涙がボロボロ出てきた。
使用人は目を閉じて何も語らず、少年はローラがそんな事を言ってくれていた事に衝撃を受けて、立ちすくんでしまった。
「君、名前は?」
「ベルキ」
「ベルキ、いい子だ。明日ボクといっしょに城へ行こう。おじさんもいいよね?」
使用人のおじさんは首を縦にふった。
その時、夫人が思い出したように顔を上げた。
「ねえ? うちの人はどこにいるの? あの人は大丈夫なの?」
「え? ……そういえば何も聞いてないですねえ? あれ? バサラブ様、分かります?」
「え? オレ様ちゃんも知らないよ。でも戦いが終わったらここに帰ってくるって言ってたけどねえ……」
二人のふわっとした話に夫人は口をあんぐりと開けた。
「ちょ、ちょっと! うちの人まで死んじゃったらこの家が滅んでしまいますわっっ! 私もトゥルゴヴィシュテへ行きます!」
「え? ま、まあそりゃいいですけど……」
オクタヴィアンは全く思っていなかった展開にちょっと躊躇した。
「奥様、オレ様ちゃんが思うに、もう一日待った方が良いんじゃないですかねえ~。確かに明日は停戦で戦はないですけど、まだ戦いが完全に終わった訳じゃないんでねえ~っっ。そう思うよねえ? オロロックちゃん?」
「あ、あ、そうです。ボクも今はここにいた方が安全だと思いますっっ」
「そ、そう?」
モゴシュ夫人は若干不服そうだったが、これに了承した。
「よかった♪ じゃあそろそろ今日はお開きにして寝ようよ。オレ様ちゃんもういいかげん眠くってっっ」
バサラブはおおあくびをして立ち上がった。
「そうですねボクもそろそろ……」
と、オクタヴィアンは窓から外を眺めると、空は東の方角から明るくなっているのが見えた。
「あ! けっこうな時間じゃないですかっっ! どこか……あ! ローラが使っていた棺桶とかあります?」
「そりゃあるけど……」
オクタヴィアンの質問にモゴシュ夫人はちょっと嫌な顔をし、ベルキも「え?」という顔をした。おじさんとバサラブはほくそ笑んでいる。
オクタヴィアンはなぜみんながそんな顔をしているのか全く分からなかったが、別棟の小屋を案内されると、その意味がよく分かった。
「ここがラドゥとその嫁……ローラが過ごした部屋です。きっとこの中に棺桶はありますわ」
「あ……」
ローラが新婚ホヤホヤだったの忘れてた~……
まだ夜明けまでには時間があり、周りは真っ暗。しかし屋敷の中は至る所に松明の灯りがついている。
どうやらモゴシュ夫人は、旦那のモゴシュが一人、トゥルゴヴィシュテのヴラド公の所へ行った事が気になって、とても寝れる気分ではなかったらしい。
それに使用人と少年もローラが昨日から帰っていない事が気がかりで、また別の吸血鬼が襲って来るかもしれないという恐怖から、今晩は寝ずにいたのだと言う。
モゴシュ夫人は「あそこで話を聞きましょう」と、大広間の隅にある四人が囲める机とイスを指差した。
そしてオクタヴィアン、バサラブ、モゴシュ夫人の三人は机を囲み、使用人と少年は夫人の後ろのイスに腰かけた。
こうしてオクタヴィアンはここ数日の事をそこそこ詳しく話した。
最初はなんて事ない話に聞こえていたモゴシュ夫人も、話が進むにつれ神妙な顔になり、言葉を失った。
本当ならオクタヴィアンを問い詰めたいくらいにデタラメな話なのだが、何せ目の前のオクタヴィアンはすでに怪物に変わり果て、横に座っているバサラブもその話に頷いている。
それに何より今朝まで吸血鬼化したラドゥと、その嫁になったローラ、それとラドゥの親衛隊を目の当たりにしてきた夫人にとって、オクタヴィアンの話は信じるしかなかった。
「で、では本当にあなたではなく、ラドゥが娘と孫を殺した……」
まだ信じきれていない夫人はオクタヴィアンに聞き返した。
「ま、まあ直接ラドゥが殺した訳ではないですけど、屋敷に怪物を放っちゃったから……」
オクタヴィアンもこの話をすると、涙が出そうになる。
そして夫人は理解を超える話をずっとされて、すでに疲れてしまい、机に肘をついて伏せってしまった。
「お義母さん、大丈夫……じゃないですよね? 少し休みますか?」
「いい。続けて」
オクタヴィアンは夫人の疲れた様子を見て(そりゃそうだよな……ウソみたいな話だもんな……)と、共感した。
その時、少年がオクタヴィアンに話した。
「ねえ……ローラも、本当に死んじゃったの?」
少年の目は少し涙目になっている。
「うん……。ボクを助けたが為に……」
この話もオクタヴィアンは泣きそうになった。
「僕……ローラに助けられたんだ。アイツらから……僕……寝てる所を襲われて……それでここに連れて来られて……、でもローラが助けてくれた……なのに……」
少年は俯いてしまった。
その代わりのように使用人のおじさんがオクタヴィアンに聞いてきた。
「で、ローラの遺体は今どこに?」
「ボクの城に……ちゃんと棺桶に入っていると思います。ボクもまだ見てないんですけど……」
「ローラの所に行きたい!」
少年は立ち上がってオクタヴィアンに言った。
「うん、ローラはね、死ぬ前にたぶんキミ達の話をしたんだと思う。新しい家族ができたって。それでボクと四人で馬車で旅をするって……」
この話をした途端、オクタヴィアンは涙がボロボロ出てきた。
使用人は目を閉じて何も語らず、少年はローラがそんな事を言ってくれていた事に衝撃を受けて、立ちすくんでしまった。
「君、名前は?」
「ベルキ」
「ベルキ、いい子だ。明日ボクといっしょに城へ行こう。おじさんもいいよね?」
使用人のおじさんは首を縦にふった。
その時、夫人が思い出したように顔を上げた。
「ねえ? うちの人はどこにいるの? あの人は大丈夫なの?」
「え? ……そういえば何も聞いてないですねえ? あれ? バサラブ様、分かります?」
「え? オレ様ちゃんも知らないよ。でも戦いが終わったらここに帰ってくるって言ってたけどねえ……」
二人のふわっとした話に夫人は口をあんぐりと開けた。
「ちょ、ちょっと! うちの人まで死んじゃったらこの家が滅んでしまいますわっっ! 私もトゥルゴヴィシュテへ行きます!」
「え? ま、まあそりゃいいですけど……」
オクタヴィアンは全く思っていなかった展開にちょっと躊躇した。
「奥様、オレ様ちゃんが思うに、もう一日待った方が良いんじゃないですかねえ~。確かに明日は停戦で戦はないですけど、まだ戦いが完全に終わった訳じゃないんでねえ~っっ。そう思うよねえ? オロロックちゃん?」
「あ、あ、そうです。ボクも今はここにいた方が安全だと思いますっっ」
「そ、そう?」
モゴシュ夫人は若干不服そうだったが、これに了承した。
「よかった♪ じゃあそろそろ今日はお開きにして寝ようよ。オレ様ちゃんもういいかげん眠くってっっ」
バサラブはおおあくびをして立ち上がった。
「そうですねボクもそろそろ……」
と、オクタヴィアンは窓から外を眺めると、空は東の方角から明るくなっているのが見えた。
「あ! けっこうな時間じゃないですかっっ! どこか……あ! ローラが使っていた棺桶とかあります?」
「そりゃあるけど……」
オクタヴィアンの質問にモゴシュ夫人はちょっと嫌な顔をし、ベルキも「え?」という顔をした。おじさんとバサラブはほくそ笑んでいる。
オクタヴィアンはなぜみんながそんな顔をしているのか全く分からなかったが、別棟の小屋を案内されると、その意味がよく分かった。
「ここがラドゥとその嫁……ローラが過ごした部屋です。きっとこの中に棺桶はありますわ」
「あ……」
ローラが新婚ホヤホヤだったの忘れてた~……
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