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第三章 思惑
第三十七話 卑劣な行為
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グリゴアの城内で亡くなったオクタヴィアンの使用人が生き返り、安置されていたドアを叩いている!
この騒ぎ声を聞いた直後、アンドレアスとヤコブとレオナルドの三人は、顔を見合わせると気まずくなったが、そのうちにヤコブが立ち上がった。
「アンドレアス! レオナルド! ちょっとワシ、様子見てくる! ここで待ってて!」
そう言うと、階段で半分横になっていたレオナルドを避けて階段を上がって行ってしまった。
そうして明らかに顔色の悪くなり、具合も悪くなっているレオナルドと、部屋の隅で小さく体育座りをしているアンドレアスは、話す事もなく、さらに気まずい空気になるのだった。
その頃、城の隣の焼け野原になったオロロック邸の敷地に、宮廷近くからグリゴアを掴んで連れて来たテスラと、瀕死の重体の兵士を掴んで連れて来たオクタヴィアンが到着した。
「ほら」
「いた!」
テスラは到着と同時に右手で掴んでいたグリゴアを、地面に放り投げた。
グリゴアはテスラを睨みつけたが、テスラは顔色一つ変えない。
続いてオクタヴィアンも、瀕死の兵士を地面に置くと、その男が生きているかの確認のために、指を口の近くに当ててみた。
かすかに息をしてる……
オクタヴィアンはそう思ったのと同時に、この男のかすかな息づかいと、口から出る呼吸の息を耳と鼻で感じている事に気がついた。
「……指、当てなくても分かるんだ……ボクすごいな……」
オクタヴィアンは自分の吸血鬼の能力に関心をしていたが、テスラは冷ややかな顔を浮かべていた。
「あ~のな、オクタヴィアン。その男、まだ話せるくらいは元気なはずだぞ?」
「え……」
オクタヴィアンは、もう一度瀕死の兵士に近づき、ひざをついた。
「な、なあ、キミ。話せるのかい?」
「う……うう……、た、助けてくれ……」
「あ、話した」
「な」
冷ややかにテスラは見つめ、オクタヴィアンは少し顔を赤らげて下をむいた。
グリゴアはイマイチ何が起こっているのか暗いせいもあってよく分からなかった。
しかしこのやり取りで、オクタヴィアンはテスラが先程よりも怒りの形相ではなくなっている事に気がついた。
しかしテスラに何があったのかを詳しく聞きたくてもどう聞けばいいのか……
オクタヴィアンが困り始めた時にテスラから話し始めた。
「おい、おまえ、グリゴア。ここなら周りに他の人間もいないからゆっくり話せるだろう。おまえは本当に、実際に、ジプシーを殺す命令を出していないんだな?」
仁王立ちのテスラは、地面に座ったままのグリゴアに、やはり厳しい表情で問いかけた。
しかし鬼の形相ではない。
「ほ、本当だ! 俺はそんな命令は出していない!」
「ならコイツに何故ジプシーを襲ったか聞いてみるんだ!」
テスラはそう言うと、瀕死の兵士をテスラの目の前まで引きずった。
ただその引きずり方も荒っぽくとても速かったので地面に火花が飛び散った。
「ぎゃああああ!」
当然、その兵士は叫んだ。
その声を聞いて、グリゴアはその男がようやく誰か分かったようだった。
「おまえ……ゲオルゲ?」
「……そ、その声はグリゴア様……すんません。わしら……こいつに全員やられて……」
「そ、そうか……」
グリゴアは顔を上げてテスラを見た。
夜目が若干きくようになったが、やはり表情までは分からない。
しかし厳しい顔をしているのはすぐに感じ取れた。
「ゲオルゲ……、俺の質問にちゃんと答えてくれるか? おまえ達、カルパチアでジプシー達を襲ったのか?」
「……な、なんでそんな事聞くんで?」
ゲオルゲは渋った。
グリゴアは長年の私兵団団長の経験から、すぐにこの男が何かを隠そうとしている事に気がついた。
「ゲオルゲ……。襲ったんだな? ジプシー達を……」
「…………」
ゲオルゲは黙ってしまった。
この態度にグリゴアはキレた。
横になっているゲオルゲの体にまたがると、ゲオルゲの首根っこを掴んで顔を近づけた。
これをされたゲオルゲは相当ビビった。
「……おい! ゲオルゲ! おまえ達がやった事がどんなに卑劣な事か分かるか? 人として、最低な行為だぞ!」
「だ、だって昔はジプシーを見つけたら罪人だから殺せって……! それにあんな連中、死んだって誰も悲しまねえ! 生きてるだけでも罪な連中を、な、何でグリゴア様はかばうんだ? わ、わしらにこ、殺してもらって、あ、あ、あいつらも感謝してる!」
「こ、この最低野郎~~~~~ッッ!」
グリゴアは思いっきりゲオルゲの顔を殴った。
その勢いでゲオルゲは地面に後頭部を打ちつけ、意識を失った。
「…………」
グリゴアはしばらくゲオルゲにまたがったまま、下を向いていたが、ゆっくりとゲオルゲから離れ、テスラの足元でひざをつき、頭を下げた。
「こ、このような事になったのは、全て俺の責任です。あなた様の言う通りでした。大変、申し訳ありませんでした! 取り返しのつかない事を、俺の部下はしでかしてしまいました! せめてもの償いとして私の首をはねてください!」
「ふむ、分かった。そうしよう」
テスラは手をあげた。
オクタヴィアンは焦り、テスラの顔を見た。
テスラは至って冷静に見える。
そしてオクタヴィアンに手を出すなと言わんがばかりの眼差しを向けた。
オクタヴィアンはもう黙るしかなかった。
この手が振り下ろされた時、グリゴアは死ぬ!
そう思うと胸が苦しくなった。
しかし……
「……グリゴア。おまえのその心意気に免じて、今回は殺さないでやる。しかしその男の命はもらう。いいな」
「え?」
グリゴアが顔を上げた瞬間、テスラはいなくなったと同時に、
バキ!
という骨の砕けたような鈍い音が辺りに響いた。
その鈍い音の方向に顔を向けると、ゲオルゲが、首を真横に折られているのが、暗闇ながらも分かった。
「これで終いだ。グリゴア、二度とこのような事が起こらないようにしろ!」
「は、はい……」
グリゴアはひざをついたまま、下を向いた。
「グリゴア……テスラ……」
オクタヴィアンはこの状況をどうしたらいいのかさっぱり分からなかった。
するとテスラは持っているゲオルゲの死体をオクタヴィアンに突き出した。
「飲まないのか?」
あ、血! 飲みたい! ……けど、何故かそんなに飲みたい気分じゃないな? 何でだ?
オクタヴィアンは自分の血えの衝動が強くない事に疑問を感じた。
「どうした? いらんのか?」
「いや、テスラ。自分でもよく分からないんです。昨日はあんなに血に飢えてたのに今日は……」
「んん~? おまえ? 私が去った後、屍食鬼の血をどれくらい飲んだ?」
「いや、ほんの五、六人……くらいかなあ」
「あ、そりゃ飲み過ぎだ。だから血を欲さないんだ。たぶん明日いっぱいぐらいまでは血えの衝動はないだろう。ではこれは私がいただくとしよう。これから長旅に出るからな」
「え?」
オクタヴィアンはテスラの思ってもみない言葉に驚いた。
「この男達がな、私の家も焼いてしまったんだよ。私のこの数百年の記録が全て燃えてしまった。この馬鹿タレ共が! だからな、私は一度、故郷のハンガリーに帰らねばならんくなった。吸血鬼は、故郷の土で寝ないと死んでしまうんでな」
吸血鬼ってそんなルールあるんだったっけ?
オクタヴィアンはまだピンと来ていない様子だったが、テスラは話を続けた。
「いいか、オクタヴィアン。私はしばらく帰ってこれない。それまでに死ぬなよ。おまえの記録をまとめたいんでな。今度はおまえのように新米吸血鬼の為の本を作ってやる。ではな。あ、それとなおまえ達、早く城に戻った方がいいぞ。屍食鬼が動き始めた」
テスラはそれだけ言うと、新しい土と棺桶を作って帰ってくるといい、ゲオルゲの死体を持って飛んで行ってしまった。
残されたオクタヴィアンとグリゴアは、顔を見合わせた。
「屍食鬼?」
「ししょくき? 何だそれ?」
オクタヴィアンが嫌な予感がすると思ったその時、城の中から何やら騒ぎ声のようなものが聞こえてきた。
この騒ぎ声を聞いた直後、アンドレアスとヤコブとレオナルドの三人は、顔を見合わせると気まずくなったが、そのうちにヤコブが立ち上がった。
「アンドレアス! レオナルド! ちょっとワシ、様子見てくる! ここで待ってて!」
そう言うと、階段で半分横になっていたレオナルドを避けて階段を上がって行ってしまった。
そうして明らかに顔色の悪くなり、具合も悪くなっているレオナルドと、部屋の隅で小さく体育座りをしているアンドレアスは、話す事もなく、さらに気まずい空気になるのだった。
その頃、城の隣の焼け野原になったオロロック邸の敷地に、宮廷近くからグリゴアを掴んで連れて来たテスラと、瀕死の重体の兵士を掴んで連れて来たオクタヴィアンが到着した。
「ほら」
「いた!」
テスラは到着と同時に右手で掴んでいたグリゴアを、地面に放り投げた。
グリゴアはテスラを睨みつけたが、テスラは顔色一つ変えない。
続いてオクタヴィアンも、瀕死の兵士を地面に置くと、その男が生きているかの確認のために、指を口の近くに当ててみた。
かすかに息をしてる……
オクタヴィアンはそう思ったのと同時に、この男のかすかな息づかいと、口から出る呼吸の息を耳と鼻で感じている事に気がついた。
「……指、当てなくても分かるんだ……ボクすごいな……」
オクタヴィアンは自分の吸血鬼の能力に関心をしていたが、テスラは冷ややかな顔を浮かべていた。
「あ~のな、オクタヴィアン。その男、まだ話せるくらいは元気なはずだぞ?」
「え……」
オクタヴィアンは、もう一度瀕死の兵士に近づき、ひざをついた。
「な、なあ、キミ。話せるのかい?」
「う……うう……、た、助けてくれ……」
「あ、話した」
「な」
冷ややかにテスラは見つめ、オクタヴィアンは少し顔を赤らげて下をむいた。
グリゴアはイマイチ何が起こっているのか暗いせいもあってよく分からなかった。
しかしこのやり取りで、オクタヴィアンはテスラが先程よりも怒りの形相ではなくなっている事に気がついた。
しかしテスラに何があったのかを詳しく聞きたくてもどう聞けばいいのか……
オクタヴィアンが困り始めた時にテスラから話し始めた。
「おい、おまえ、グリゴア。ここなら周りに他の人間もいないからゆっくり話せるだろう。おまえは本当に、実際に、ジプシーを殺す命令を出していないんだな?」
仁王立ちのテスラは、地面に座ったままのグリゴアに、やはり厳しい表情で問いかけた。
しかし鬼の形相ではない。
「ほ、本当だ! 俺はそんな命令は出していない!」
「ならコイツに何故ジプシーを襲ったか聞いてみるんだ!」
テスラはそう言うと、瀕死の兵士をテスラの目の前まで引きずった。
ただその引きずり方も荒っぽくとても速かったので地面に火花が飛び散った。
「ぎゃああああ!」
当然、その兵士は叫んだ。
その声を聞いて、グリゴアはその男がようやく誰か分かったようだった。
「おまえ……ゲオルゲ?」
「……そ、その声はグリゴア様……すんません。わしら……こいつに全員やられて……」
「そ、そうか……」
グリゴアは顔を上げてテスラを見た。
夜目が若干きくようになったが、やはり表情までは分からない。
しかし厳しい顔をしているのはすぐに感じ取れた。
「ゲオルゲ……、俺の質問にちゃんと答えてくれるか? おまえ達、カルパチアでジプシー達を襲ったのか?」
「……な、なんでそんな事聞くんで?」
ゲオルゲは渋った。
グリゴアは長年の私兵団団長の経験から、すぐにこの男が何かを隠そうとしている事に気がついた。
「ゲオルゲ……。襲ったんだな? ジプシー達を……」
「…………」
ゲオルゲは黙ってしまった。
この態度にグリゴアはキレた。
横になっているゲオルゲの体にまたがると、ゲオルゲの首根っこを掴んで顔を近づけた。
これをされたゲオルゲは相当ビビった。
「……おい! ゲオルゲ! おまえ達がやった事がどんなに卑劣な事か分かるか? 人として、最低な行為だぞ!」
「だ、だって昔はジプシーを見つけたら罪人だから殺せって……! それにあんな連中、死んだって誰も悲しまねえ! 生きてるだけでも罪な連中を、な、何でグリゴア様はかばうんだ? わ、わしらにこ、殺してもらって、あ、あ、あいつらも感謝してる!」
「こ、この最低野郎~~~~~ッッ!」
グリゴアは思いっきりゲオルゲの顔を殴った。
その勢いでゲオルゲは地面に後頭部を打ちつけ、意識を失った。
「…………」
グリゴアはしばらくゲオルゲにまたがったまま、下を向いていたが、ゆっくりとゲオルゲから離れ、テスラの足元でひざをつき、頭を下げた。
「こ、このような事になったのは、全て俺の責任です。あなた様の言う通りでした。大変、申し訳ありませんでした! 取り返しのつかない事を、俺の部下はしでかしてしまいました! せめてもの償いとして私の首をはねてください!」
「ふむ、分かった。そうしよう」
テスラは手をあげた。
オクタヴィアンは焦り、テスラの顔を見た。
テスラは至って冷静に見える。
そしてオクタヴィアンに手を出すなと言わんがばかりの眼差しを向けた。
オクタヴィアンはもう黙るしかなかった。
この手が振り下ろされた時、グリゴアは死ぬ!
そう思うと胸が苦しくなった。
しかし……
「……グリゴア。おまえのその心意気に免じて、今回は殺さないでやる。しかしその男の命はもらう。いいな」
「え?」
グリゴアが顔を上げた瞬間、テスラはいなくなったと同時に、
バキ!
という骨の砕けたような鈍い音が辺りに響いた。
その鈍い音の方向に顔を向けると、ゲオルゲが、首を真横に折られているのが、暗闇ながらも分かった。
「これで終いだ。グリゴア、二度とこのような事が起こらないようにしろ!」
「は、はい……」
グリゴアはひざをついたまま、下を向いた。
「グリゴア……テスラ……」
オクタヴィアンはこの状況をどうしたらいいのかさっぱり分からなかった。
するとテスラは持っているゲオルゲの死体をオクタヴィアンに突き出した。
「飲まないのか?」
あ、血! 飲みたい! ……けど、何故かそんなに飲みたい気分じゃないな? 何でだ?
オクタヴィアンは自分の血えの衝動が強くない事に疑問を感じた。
「どうした? いらんのか?」
「いや、テスラ。自分でもよく分からないんです。昨日はあんなに血に飢えてたのに今日は……」
「んん~? おまえ? 私が去った後、屍食鬼の血をどれくらい飲んだ?」
「いや、ほんの五、六人……くらいかなあ」
「あ、そりゃ飲み過ぎだ。だから血を欲さないんだ。たぶん明日いっぱいぐらいまでは血えの衝動はないだろう。ではこれは私がいただくとしよう。これから長旅に出るからな」
「え?」
オクタヴィアンはテスラの思ってもみない言葉に驚いた。
「この男達がな、私の家も焼いてしまったんだよ。私のこの数百年の記録が全て燃えてしまった。この馬鹿タレ共が! だからな、私は一度、故郷のハンガリーに帰らねばならんくなった。吸血鬼は、故郷の土で寝ないと死んでしまうんでな」
吸血鬼ってそんなルールあるんだったっけ?
オクタヴィアンはまだピンと来ていない様子だったが、テスラは話を続けた。
「いいか、オクタヴィアン。私はしばらく帰ってこれない。それまでに死ぬなよ。おまえの記録をまとめたいんでな。今度はおまえのように新米吸血鬼の為の本を作ってやる。ではな。あ、それとなおまえ達、早く城に戻った方がいいぞ。屍食鬼が動き始めた」
テスラはそれだけ言うと、新しい土と棺桶を作って帰ってくるといい、ゲオルゲの死体を持って飛んで行ってしまった。
残されたオクタヴィアンとグリゴアは、顔を見合わせた。
「屍食鬼?」
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