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第二章 吸血鬼初心者

第二十五話 ラドゥの計画

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 オクタヴィアンのいきなりな質問にラドゥは少し驚きながらも冷ややかな反応をした。
 そしてローラは目を閉じ、ヨアナは意味が分かっていないので、キョトンとした。

「ラドゥ! 教えてくれ! これはどういう事なんだ? ボクはアンドレアスからそう聞いてきたんだ! でも君はローラを選んだ。もうボクには何が何だか分からないっっ」

 テスラの左手でブランブランしているオクタヴィアンは、必死になってラドゥに話しかけた。

「ん~……そうだね。君には何も話してなかったし、話せなかったからね……。でも今や同じ吸血鬼だ。話してもいいだろう」

 ラドゥとローラは少しオクタヴィアンから距離を取った。
 しかしヨアナはオクタヴィアンに抱きついた。

「いいかいオクタヴィアン? 僕はこのワラキアを手に入れる使命を、オスマントルコから言い渡されている。それくらいは分かるだろう? だからあのバサラブも味方に引き込んだ。ただコンスタンティン……君の父君はどっちつかずの態度をずっとしてきてね。彼からしたらその方が家にとっても良い事は分かるんだけど、それだと僕的にはあまり旨味がないんだよ。だってこの家にはかなりの財産がある。それを放っておくのは勿体無い。君とは馬が合ったが、でもコンスタンティンの息子だからね。仲間には出来ない。だから君の奥さんのエリザベタに取り入ったんだよ。するとエリザベタは普段の生活がよほど嫌だったのか、すぐに乗ってきたよ」

「え? 普段の生活から不満だったの?」

 ラドゥの話をさえぎってオクタヴィアンは声を出した。
 しかしそう驚きながらも、冷静に考えたらやっぱりそうだったんだと思い直した。

「話を続けるよ。君の事も何かと気に入らなかったみたいだけど、それ以上に君の父君、コンスタンティンにはほとほと嫌気がさしてたようだったよ。何せ君には内緒で身体を強要しようと何度も迫られたらしいからね。それに……このローラも君は聞いているかは知らないが、ローラは十代の時に妾にさせられて、子どもが出来ると腹を蹴ったりして子どもを無理矢理おろさせて、彼女の身体をボロボロにしていったからね。それをテスラも助けてるけど、僕も何度も助けてる。君は全く気づいてなかったけどね。そんな男ならとりあえず殺しておこうと思ってね。それでローラとエリザベタには毒薬を渡したのさ。それで時間をかけてコンスタンティンは殺した。問題はその後だった。僕はヴラドに追われて殺されてしまったからね。僕があのまま生きていて、バサラブが公のままだったら、君に罪をなすりつけて、家を没収するつもりだったんだけど。まあでもグリゴアって言うあの堅物も始末しないと行けなかったから、やっぱり計画は上手く行かなかったかな」

 オクタヴィアンは愕然とした。
 何にも知らなかった……。

「え、エリザベタはどうするつもりだったんだ?」

「ん~? エリザベタも殺すつもりだったよ。だって僕、彼女の事、特に好きじゃなかったし。財産さえ入ればいいし、ローラと恋人同士だったし」

 オクタヴィアンは言葉を失った。
 
 すっかりラドゥに踊らされていた。これだけ仲のいいローラにも騙されていたのか?

 そう思うと怒りが込み上げてきた。

 するとテスラにぶら下がっていた身体が勝手に空中に動き出し、ヨアナを抱えたままラドゥとローラの真ん前まで移動した。

「この子は……! ヨアナはどうするつもりだったんだ! ローラ! 君だってヨアナは大切に思ってくれてたんだろ!」

「…………ヨアナ様は私の娘にするつもりでした」

 ローラは目をつむったまま答えた。
 オクタヴィアンは何だか悲しくなってきた。
 そんな時、ヨアナが服を引っ張っている事に気がついた。

「私ね、パパとローラと三人がいい」

「え……」

 オクタヴィアンはその言葉に救われた気分になったが、ローラは目の色が変わった。

「な、何言ってるんです? ヨアナ様は私とラドゥ様の娘になるって約束したじゃないですか」

「ええ? だってパパ死んじゃったと思ってたんだもん! それにローラはいいけど、ラドゥはやだ!」

 ヨアナはビッタリとオクタヴィアンに抱きついた。
 そしてオクタヴィアンに耳打ちをしてきた。

「パパ。お母様……今、大変……」

「え?」

 オクタヴィアンはヨアナの顔を見た。
 ヨアナは真面目な顔をしている。
 オクタヴィアンはラドゥとローラを睨みこんだ。

「エリザベタに何かしたのか?」

 その凄みにローラはひるみ、後ろに下がりかけたが、それをラドゥが肩を組んで止めた。

「オクタヴィアン。エリザベタに何かしたら問題なのか? あの女は君とローラとヨアナを殺そうとしたんだぞ」

「だから彼女の話を聞く為にボクは戻ってきたんだ! 彼女に何をした!」

 ヨアナはより一層オクタヴィアンに抱きついた。

「ふふ。オクタヴィアン。君は優しい……というよりアホだな。あんな女、死んで当然なのに。今ね、私達の部下が門を閉めて、君の屋敷の敷地内なら出られなくしたよ。そして君の屋敷の使用人達な……昨日からみんなで食べてたから今、屍食鬼に変わって活動を始めているよ。もちろん人間のままのヤツもいると思うけどね。エリザベタが一晩耐えれるのか、それが楽しみでね。ちょっとした遊びだよ」

「な、何~~~~~~~っっ!」

 オクタヴィアンはとても信じなれなかった。

 ラドゥはこんなに冷たい人間だったのか? こんな男とローラはくっついたのか?

 そこにローラがラドゥに加勢した。
 
「オクタヴィアン様。少し過激なゲームですけど、奥様には当然の報いですよ! だって私とオクタヴィアン様とヨアナ様をアンドレアスを使って殺そうとしたじゃないですか!」

「でもボクの奥さんだ! 一度話をしないと……。それにこんな事をする権限がラドゥ! キミにあるのかい? エリザベタはボクの家の者だ!」

「ははは! 分かってないなオクタヴィアン! あの女の本性を! あの女はおまえの事などどうでも良かったのだ! そもそもこの家の財産さえ手に入れば、おまえなど用なしなのだ!」

 オクタヴィアンは怒りの頂点に達した。
 しかしそれ以上に抱きついていたヨアナが怒ったようだった。

「ラドゥもローラも嫌い! お母様の悪口言うな~! もうどっか行っちゃえええっっ!」

 ヨアナがその一言を叫んだ。

 するとラドゥはいきなり見えない何かに押されるように屋敷の敷地から外に弾き飛ばされ、手を繋いでいたローラも「え?」と引っ張られて敷地の外へ行ってしまった。

 オクタヴィアンはいきなり二人が飛ばされて行ったので、何が起こったか分からなかった。
 そこでテスラが冷静に話した。

「まさかここで敷地から出されるとはな」

 オクタヴィアンは理解できたようなできないような、やっぱり理解できないでいた。

「まあ後で教えてやる。今は奥さんを探すのが先なんだろ?」

「パパ、急ご」

「あ、ああ! そうだった!」
 
 思い直したオクタヴィアンはヨアナを抱いたまま、テスラとともに敷地内に向かって降りて行った。
 その際にテスラが一言こぼした。

「怒りで飛ぶ事を覚えたか」
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