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第二章 吸血鬼初心者
第二十二話 ローラの過去
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ボ、ボクは終わりだ……。ハゲで極端な出っ歯になってしまった……。しかも手もこんな訳の分からない事になって……。まだどこか変わっているのか不安で仕方ないっっ……
愕然となったオクタヴィアンは、まるで真っ白に燃え尽きたようにイスに腰掛けた。
どうやらこの時点でかなり不本意だった事に気がついたテスラだったが、もう吸血鬼にしてしまった以上、どうしようもない。
テスラは自分のカップの中の血をオクタヴィアンのカップに分けた。
「ふむ! まあ飲め!」
「ゔゔ……」
オクタヴィアンはもらった少しだけの血を一口で飲み干した。
美味い! 美味すぎる!
しかし髪の毛は戻らない! 出っ歯の様子も見てみたい! と、とりあえず姿を確認したい! でも鏡に吸血鬼は映らないって言った! じゃあどうやって自分の姿を確認するんだ?
オクタヴィアンは呆然となった。バツが悪いと思いながらもテスラは話を続けた。
「ふ~む……その~なんだあ。オロロック君。おま……君の寝ている間にだなあ。悪いんだが、馬車をな、馬車もここに持って来ただろ? 中を拝見させてもらった。でだなあ、私の昔書いた本が出て来てだなあ……。もしかして私に用事があってここを目指してたんじゃないか? でも髪の毛の話だったら悪かったとしか言えないんだが……」
テスラはとても気をつかってオクタヴィアンに訪ねた。その話に、そうだった! と、オクタヴィアンは思い出した。
「い、いや! 違うんです! 実はボクの娘が死にそうになって、そしたらウチの乳母をしているローラがここにと……」
「ん? ローラ? ローラ? ローラ……」
テスラはローラという言葉に反応し、考え始めた。
「ローラとは……街のジプシーの娘で……腹の子を父親に堕ろせと言われてボコボコに殴られて瀕死の重症で運ばれてきた、あのローラか?」
「え? どこのローラですか? それ?」
「いや! 間違いない! おまえ、オロロックと言ったな? おまえがあの娘の腹の子の父親なんだろ! かわいそうに! なんてヤツを吸血鬼にしてしまったんだ!」
オクタヴィアンは動揺した。
「ま、待ってください! ボクはローラとそんな関係ではないですって! 何か勘違いされてるんじゃないんですか?」
「いや! あのかわいそうな娘は、腹を散々に蹴られて、顔も殴られて本当に命が危なかった。なんでも子供の頃から世話になっている屋敷の主人が奥さんがいない寂しさなのか自分の身体を求めるようになって、無理矢理関係を持たされて、妊娠してしまったと言っていた! しかし妊娠を知られるといきなり腹を蹴ってきたんだと言ってた! よく思い出してきたぞ! その主人ってのが、いい歳こいてドスケベの最低野郎で、他の奴隷にも身体を求めたり、理不尽な事で殴ったり、そんな事が日常茶飯事だったと言ってた! ホントにヒドイ怪我で元に戻った時には、あの美人な顔が回復したのが奇跡のようだった!」
その話を聞いて、オクタヴィアンは本当にあのローラなのか? 少し疑った。
しかしオロロックなんて苗字の貴族は他にいないし……
「あ、あの……それ、いつの頃の話ですか?」
「かれこれ十数年くらいは前になるな」
「じゃあボクじゃないですよっっ。だってボク、今年二十八ですよ。ローラと一つしか変わらない。だからそれは……」
そこでオクタヴィアンは気づいた。
ボクの父親! まさかあの父が、ローラにそんな仕打ちをしていた? 冷静に考えてみると、十三くらいの時に、なぜかローラが数ヶ月いなかった時期があった!
え? ウソでしょ?
オクタヴィアンはまた呆然となった。もう次から次へと起こる(分かる)出来事に、頭が追いつかなくなった。
そんなオクタヴィアンを見ながら、テスラはもう空になったカップにまた口を当てた。
「……そうか……。おまえの父親なのだな。あの娘を傷つけたのは……」
オクタヴィアンはしばらく黙ってしまった……。
ローラは亡き子供とヨアナを重ねていたんだ。だからあんなに必死になって……。あれ? じゃあラドゥは何だ? ラドゥはその事を全部知っていたって事か? なんかあんまり覚えてないけど、二人を連れてった時、そんな感じだった……。あれ? 結局ローラとヨアナはどこ行っちゃったんだ?
オクタヴィアンは思い詰めた表情で、急に立ち上がった。
それにはテスラも驚いた。
「テスラさん! アンドレアスは? あいつ! あいつ全部知ってるんじゃないんですか?」
「あ、ああ、外にいる。おい! アンドレアス!」
「へい~! ダンナ~~~~!」
テスラのかけ声に、家の外から軽い返事が返ってきた。
この声質は間違いなくアンドレアス。
しかしオクタヴィアンは、この声に怒りを覚えた。
あのアホな声! いつものアンドレアスじゃないか! よくあんな仕打ちをしておいて、こんなアホな声が出せるな!
そう思ったのも束の間、すると家の玄関が開く音がして、二人のいる部屋のドアを開けてアンドレアスがニコニコしながら入ってきた。
「へい! ダンナ! どう言ったごようで?」
オクタヴィアンはまたまた驚いた。
そこに現れたアンドレアスは、オクタヴィアンの知っているアンドレアスではなかった。
そこにいたのは、全身毛だらけの、まるで猛獣!
と言えばとても恐ろしい姿なのだが、その顔は全体が毛だらけで鼻が真っ黒で濡れており、耳は大きくなったせいか両側とも少し垂れ下がり、目は妙につぶらでこれはまるで犬のテリア。
「……ア、アンドレアス? キミ……アンドレアス?」
オクタヴィアンはあまりにも思っていた姿と違う毛むくじゃらが入ってきたので、つい確認してしまった。
「そうでさあ~。忘れちゃいましたかあ~?」
手むくじゃらのアンドレアスはニコニコしている。
オクタヴィアンはかなり戸惑ってテスラの顔を見た。
「ふ~む……。実はこいつには『呪い』をかけてみたんだ。少しだけ血を吸ってな、え~っとあまりにも少しだと吸血鬼化しないんだ、まだ理由は解明していないんだが。その代わり、私に絶対服従をする催眠がかかる。更に試しに魔術書で以前読んでいた狼の呪いをかけてみた。すると狼じゃなくて、犬になった」
あ、やっぱり犬って思ったんだ。
しかしボクは毛がツンツルテンになっちゃったのに、こっちは全身毛だらけってっっ!
オクタヴィアンはとても複雑な気分になったが質問を始めた。
「アンドレアス! あの時、エリザベタの名前出しただろ! 毒を命令したのがエリザベタなのか? 説明しろ!」
「へい! ダンナ~! あん時、オラはエリザベタ様に命令されて三人に毒も持っただ。三人とも殺すようにって言われただ。だからガンバっただ!」
アンドレアスはなぜか得意顔である。
オクタヴィアンは少し頭を抱えた。
「……アンドレアス。他にエリザベタは何か話してか?」
「へい! ダンナが邪魔だから、早くどうにかならないかなあ~とか何とか……って、ラドゥ様の屋敷に不倫に行く時とか帰る時とか、よく話してただ」
「え? エリザベタ! ラドゥと不倫してたの?」
「へい! ダンナ! 知らないのはダンナとヨアナ様だけだ!」
オクタヴィアンは更に頭を抱えた。
アンドレアスはニコニコと無邪気な顔をしている。
テスラはさすがにこれはまずいと思った。
「アンドレアス。もういいぞ。外の小屋に戻りなさい」
「へい! ダンナ~~~~♪」
アンドレアスはニコニコしながら部屋を後にした。
「まあ~……その~なんだ。アンドレアスは『呪い』がかかってから、隠し事のできない性格になったようでな。あんな感じになってしまったんだ。で……エリザベタってのは奥さんなんだな? ふ~む…………。オロロック君、少し休むか?」
テスラは凹みきっているオクタヴィアンにそう告げたが、オクタヴィアンは何かを思い詰めたように顔をあげ、両手を机にドン! と勢いよく置いた。
「おかしい。だってあの時……ラドゥはローラを妻にって言ってた! テスラさん! たぶんだけど、エリザベタも騙されている! 急いで屋敷に戻ろう!」
「え? そりゃいいが……。行くのはいいが、血が足らんかもしれん。大丈夫か?」
急に焦り出したオクタヴィアンに冷静にステラは聞いた。
「だ、大丈夫かどうかは分かんないです」
「そうだろうな。仕方ない。どこかで野良兵士を襲うか」
そうテスラは言うと、おもむろに立ち上がり、玄関へ向かった。
「オロロック。おまえの服は馬車に置いてある。とりあえず二人で飛ぶから身支度をしなさい」
「え、あ、はい! はい?」
オクタヴィアンは思った。
飛ぶって何?
愕然となったオクタヴィアンは、まるで真っ白に燃え尽きたようにイスに腰掛けた。
どうやらこの時点でかなり不本意だった事に気がついたテスラだったが、もう吸血鬼にしてしまった以上、どうしようもない。
テスラは自分のカップの中の血をオクタヴィアンのカップに分けた。
「ふむ! まあ飲め!」
「ゔゔ……」
オクタヴィアンはもらった少しだけの血を一口で飲み干した。
美味い! 美味すぎる!
しかし髪の毛は戻らない! 出っ歯の様子も見てみたい! と、とりあえず姿を確認したい! でも鏡に吸血鬼は映らないって言った! じゃあどうやって自分の姿を確認するんだ?
オクタヴィアンは呆然となった。バツが悪いと思いながらもテスラは話を続けた。
「ふ~む……その~なんだあ。オロロック君。おま……君の寝ている間にだなあ。悪いんだが、馬車をな、馬車もここに持って来ただろ? 中を拝見させてもらった。でだなあ、私の昔書いた本が出て来てだなあ……。もしかして私に用事があってここを目指してたんじゃないか? でも髪の毛の話だったら悪かったとしか言えないんだが……」
テスラはとても気をつかってオクタヴィアンに訪ねた。その話に、そうだった! と、オクタヴィアンは思い出した。
「い、いや! 違うんです! 実はボクの娘が死にそうになって、そしたらウチの乳母をしているローラがここにと……」
「ん? ローラ? ローラ? ローラ……」
テスラはローラという言葉に反応し、考え始めた。
「ローラとは……街のジプシーの娘で……腹の子を父親に堕ろせと言われてボコボコに殴られて瀕死の重症で運ばれてきた、あのローラか?」
「え? どこのローラですか? それ?」
「いや! 間違いない! おまえ、オロロックと言ったな? おまえがあの娘の腹の子の父親なんだろ! かわいそうに! なんてヤツを吸血鬼にしてしまったんだ!」
オクタヴィアンは動揺した。
「ま、待ってください! ボクはローラとそんな関係ではないですって! 何か勘違いされてるんじゃないんですか?」
「いや! あのかわいそうな娘は、腹を散々に蹴られて、顔も殴られて本当に命が危なかった。なんでも子供の頃から世話になっている屋敷の主人が奥さんがいない寂しさなのか自分の身体を求めるようになって、無理矢理関係を持たされて、妊娠してしまったと言っていた! しかし妊娠を知られるといきなり腹を蹴ってきたんだと言ってた! よく思い出してきたぞ! その主人ってのが、いい歳こいてドスケベの最低野郎で、他の奴隷にも身体を求めたり、理不尽な事で殴ったり、そんな事が日常茶飯事だったと言ってた! ホントにヒドイ怪我で元に戻った時には、あの美人な顔が回復したのが奇跡のようだった!」
その話を聞いて、オクタヴィアンは本当にあのローラなのか? 少し疑った。
しかしオロロックなんて苗字の貴族は他にいないし……
「あ、あの……それ、いつの頃の話ですか?」
「かれこれ十数年くらいは前になるな」
「じゃあボクじゃないですよっっ。だってボク、今年二十八ですよ。ローラと一つしか変わらない。だからそれは……」
そこでオクタヴィアンは気づいた。
ボクの父親! まさかあの父が、ローラにそんな仕打ちをしていた? 冷静に考えてみると、十三くらいの時に、なぜかローラが数ヶ月いなかった時期があった!
え? ウソでしょ?
オクタヴィアンはまた呆然となった。もう次から次へと起こる(分かる)出来事に、頭が追いつかなくなった。
そんなオクタヴィアンを見ながら、テスラはもう空になったカップにまた口を当てた。
「……そうか……。おまえの父親なのだな。あの娘を傷つけたのは……」
オクタヴィアンはしばらく黙ってしまった……。
ローラは亡き子供とヨアナを重ねていたんだ。だからあんなに必死になって……。あれ? じゃあラドゥは何だ? ラドゥはその事を全部知っていたって事か? なんかあんまり覚えてないけど、二人を連れてった時、そんな感じだった……。あれ? 結局ローラとヨアナはどこ行っちゃったんだ?
オクタヴィアンは思い詰めた表情で、急に立ち上がった。
それにはテスラも驚いた。
「テスラさん! アンドレアスは? あいつ! あいつ全部知ってるんじゃないんですか?」
「あ、ああ、外にいる。おい! アンドレアス!」
「へい~! ダンナ~~~~!」
テスラのかけ声に、家の外から軽い返事が返ってきた。
この声質は間違いなくアンドレアス。
しかしオクタヴィアンは、この声に怒りを覚えた。
あのアホな声! いつものアンドレアスじゃないか! よくあんな仕打ちをしておいて、こんなアホな声が出せるな!
そう思ったのも束の間、すると家の玄関が開く音がして、二人のいる部屋のドアを開けてアンドレアスがニコニコしながら入ってきた。
「へい! ダンナ! どう言ったごようで?」
オクタヴィアンはまたまた驚いた。
そこに現れたアンドレアスは、オクタヴィアンの知っているアンドレアスではなかった。
そこにいたのは、全身毛だらけの、まるで猛獣!
と言えばとても恐ろしい姿なのだが、その顔は全体が毛だらけで鼻が真っ黒で濡れており、耳は大きくなったせいか両側とも少し垂れ下がり、目は妙につぶらでこれはまるで犬のテリア。
「……ア、アンドレアス? キミ……アンドレアス?」
オクタヴィアンはあまりにも思っていた姿と違う毛むくじゃらが入ってきたので、つい確認してしまった。
「そうでさあ~。忘れちゃいましたかあ~?」
手むくじゃらのアンドレアスはニコニコしている。
オクタヴィアンはかなり戸惑ってテスラの顔を見た。
「ふ~む……。実はこいつには『呪い』をかけてみたんだ。少しだけ血を吸ってな、え~っとあまりにも少しだと吸血鬼化しないんだ、まだ理由は解明していないんだが。その代わり、私に絶対服従をする催眠がかかる。更に試しに魔術書で以前読んでいた狼の呪いをかけてみた。すると狼じゃなくて、犬になった」
あ、やっぱり犬って思ったんだ。
しかしボクは毛がツンツルテンになっちゃったのに、こっちは全身毛だらけってっっ!
オクタヴィアンはとても複雑な気分になったが質問を始めた。
「アンドレアス! あの時、エリザベタの名前出しただろ! 毒を命令したのがエリザベタなのか? 説明しろ!」
「へい! ダンナ~! あん時、オラはエリザベタ様に命令されて三人に毒も持っただ。三人とも殺すようにって言われただ。だからガンバっただ!」
アンドレアスはなぜか得意顔である。
オクタヴィアンは少し頭を抱えた。
「……アンドレアス。他にエリザベタは何か話してか?」
「へい! ダンナが邪魔だから、早くどうにかならないかなあ~とか何とか……って、ラドゥ様の屋敷に不倫に行く時とか帰る時とか、よく話してただ」
「え? エリザベタ! ラドゥと不倫してたの?」
「へい! ダンナ! 知らないのはダンナとヨアナ様だけだ!」
オクタヴィアンは更に頭を抱えた。
アンドレアスはニコニコと無邪気な顔をしている。
テスラはさすがにこれはまずいと思った。
「アンドレアス。もういいぞ。外の小屋に戻りなさい」
「へい! ダンナ~~~~♪」
アンドレアスはニコニコしながら部屋を後にした。
「まあ~……その~なんだ。アンドレアスは『呪い』がかかってから、隠し事のできない性格になったようでな。あんな感じになってしまったんだ。で……エリザベタってのは奥さんなんだな? ふ~む…………。オロロック君、少し休むか?」
テスラは凹みきっているオクタヴィアンにそう告げたが、オクタヴィアンは何かを思い詰めたように顔をあげ、両手を机にドン! と勢いよく置いた。
「おかしい。だってあの時……ラドゥはローラを妻にって言ってた! テスラさん! たぶんだけど、エリザベタも騙されている! 急いで屋敷に戻ろう!」
「え? そりゃいいが……。行くのはいいが、血が足らんかもしれん。大丈夫か?」
急に焦り出したオクタヴィアンに冷静にステラは聞いた。
「だ、大丈夫かどうかは分かんないです」
「そうだろうな。仕方ない。どこかで野良兵士を襲うか」
そうテスラは言うと、おもむろに立ち上がり、玄関へ向かった。
「オロロック。おまえの服は馬車に置いてある。とりあえず二人で飛ぶから身支度をしなさい」
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