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ネコチヤンは探偵さん?~前半~

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『あなた様。かなり微妙な空気になっていますよ?』

「ん? どこがだ? 鳥とかをプレゼントされるよりは、よっぽどマシだろ?」

『……そういうことではなく』

「あっ! もしかして……食ってないやつがよかったのか!? ああ……ハゲータには、申し訳ないことをしなぁ」

『天然かよ!? しかも、何かわいいポーズとっちゃってるんですか!?』

 かわいいポーズとは何だろうか。俺はただ、お尻が痒いから、片足上げて舐めてるだけだってのに。
 謎の声はときどきわからないことを言う。

 俺がそうあきれていると、謎の声に咳払いをされてしまった。

『あなた様、見てください。ハゲータさんの、あの、何とも言えない表情を』

 そう言われ、彼を見る。

 ハゲータは骨だけになった魚の尻尾を摘み、乾いた笑い声をあげていた。

『ゴミだから捨てたい。でも、あなた様が嬉しそうにプレゼントしてくるものだから、捨てるに捨てれないといった感情です』

「……マジか」

 悪いことをしてしまったのかもしれない。そう思い、骨を奪おうと、お尻を上げて狙いを定めた。そのとき……ドンッ! という、大きな爆発が起きた。一体なんだと探ってみれば、真向かいにあるパン屋さんから煙が上がっている。


「おい、大丈夫か!?」

「大変だ! 怪我人はいるか!?」

 突然の爆発に、町は一気に緊張の糸に絡まっていった。パン屋さんから救出されたのは若い男と、年配の女性のよう。二人はすすだらけになっていた。幸いにも怪我はないようで、呆然と立ち尽くしている。

 町の人たちが二人に話を聞くと、どうやら竈門かまどが爆発した化膿性があるようだ。理由はわからないけれど、焼いていたら焦げ臭くなったそう。そしてあっという間に、煙まみれになり……

「──今にいたるってわけか。……謎の声さん、どう思う?」

『わかりません。ですが、竈門を調べてみる必要はあると思います』

 謎の声の意見には、俺も賛成だった。だけどそうなると、どうやって調べるかが課題となる。猫として侵入したとしても、竈門の中までは調べられないだろう。
 体が柔らかくても、限界というものがあるからだ。

「……俺たちじゃ無理っぽいな」

『お待ちください。諦めるのはまだ早いかと』

「ん? 何で?」

 少しだけ、わくわくした気分になる。そわそわしながら尻尾を左右にふった。

『ネコチヤン、という言葉をご存知でしょうか?』

 聞いたことがないなと、首を左右にふる。顎をガシガシと掻き、教えてよとお願いしてみた。

『……んん! かわいい! ……じゃなくて。こほんっ! ネコチヤンというのは、猫のようなものが映ったときに使われます』

 妙な言い方をするな。猫のようなものとは、いったんなんなのだろうか? もしかして猫に似た新種の生き物なのか。それとも……

『当たらずとも遠からずです。実際は猫なのですが、写真などに映った姿は猫ではないとう……猫を撮っていたはずなのに、なぜか猫になっていない。そんな感じの用語です』

「あー……あれか? 猫のはずなのに、なぜか体の長い蛇っぽいものが撮れてしまった! みたいな?」

『はい。だいたい、そんな感じです。そしてそのネコチヤンはこの世界では、猫ではない別の物質へと体を変化させることが可能となります』

「なるほど! ちょうど今が、そのスキルを使うときってわけだな!?」

『はい。そのとおりです! 是非、やりましょう! やらなければならないのです!』

 謎の声は妙に明るい。そんなにネコチヤンが見たいのだろうかと思えるぐらいに、テンションが高かった。

 まあ、それでこの町の平和が保たれるならと了承する。

『了解しました。それではスキル、【ネコチヤン】を発動させます』

「おう!」

 俺が返事をする前に、体が熱くなっていくのを感じた。そして……俺の体はみるみるうちに、でっかいトカゲのようになっていく。
 真っ白な体は珍しい品種のようだ。でも尻尾だけは、なんか猫のままというか……もふもふな毛がついたままだった。

『あなた様、とってもかわいいです!』

「……いや、これ何かおかしくない?」

 完全に珍獣というか、キメラ状態じゃないか。こんなの誰かに見られたら、宇宙人のように捕獲されて実験体にされるのがヲチだ。

『ご心配には及びません。その姿は、この世界で【オオネコトカゲ】と呼ばれています。尻尾だけが猫のように長くてふわふわ。その見た目から、そうい名前のつけられた魔物でございます』 

「ふんふん。なるほどね。魔物か……って、魔物ーー!?」

 ちょっと待て。そんなの見つかった瞬間に退治されるだけじゃないのか!?
 慌ててそのことを謎の声に聞いた。すると謎の声は、ふふっと楽しそうに笑う。

『この魔物は、人畜じんちく無害と言われています。猫や犬同様に、人間の暮らしに普通に溶けこんで過ごしております』

「……え? 退治されないってこと?」

『はい。それどころか、そのマイペースさや尻尾の見た目から、愛好家がいるほどです。その人気はなかなかでして……年に一回、愛好家の中で品評会が行われるほどです』

「とことん、常識通じない世界じゃないか!」

『それはそうですよ。ここは異世界。その名が、【モフモーフ】というぐらいですから』

「初めてこの世界の名前聞いた! というか、何その適当な名前!」

『あなた様。それよりも今は……』

「おっと。そうだったな。よーし……探索開始にゃ!」

 産まれたばかりの仔猫よりも小さなサイズになった俺は、竈門に何が起きたのか。それを調べに、パン屋へと潜入した。
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