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睡蓮の夢
町
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そうすることで、亀は香の力で想いを届けることが可能となった。
「ちょっと荒行事だったけど。それでも、死んだということを知らないままよりは、ずっといいと思うの」
ボロボロの布からはみ出る灰金髪の髪を押さえ、空を仰ぎ見る。果てしなく続く空は、いつのまにか夕暮れになっていた。それでも、色とりどりの花びらは舞っていく。
(贅沢言うなら、鯉たちを殺した毒を知りたかったんだけど)
亀は、さすがにそこまでの情報は持ち合わせていないはず。人間の食べるものなど……ましてや、与えてくれるご飯がどのような成分なのか。それを考えることすらないかもしれない。
「…… 池に、足蹴なく通っていた妓女のことはよくわからないけど。それって、金明妃の妓女だったのよね?」
「ああ、間違いない。だがそうなると、今回の事件とどう繋がるのか。それが分からない。権姜が愚痴っていた、【金明妃を苛めていた者たちの弱みを握った】。これが妓女の死に、どう関係するのか。皆目見当もつかん」
「…… まあ、そうよね。それだけじゃ、結びつけることが難しいわ」
二人は盛大なため息をついた。
けれど香 麗然が先に立ち直り、彼の背中を軽くたたく。ふふっと笑いながら、お腹をさすった。美味しいご飯を奢ってと、彼にねだってみる。
曹朱は 肩をすくませた。事件が少しだけ進展したことへのお礼だと、彼女を町へと誘う。
皇帝のお膝元である町は、夕暮れ時であっても大層賑わっていた。茶屋はもちろん、食堂も経営している宿屋、たくさんの坊(店舗)などもある。
先祖を祀る祠や、刹と呼ばれる寺の塔など。旅行客だけでなく、他の人たちも使いやすいほどに、あらゆる施設が充実していた。
「はえー、こんなに大きかったんだ。この町」
「何だ? 試験を受けに来たとき、通ったんじゃないのか?」
「……あのときはかなり急いでて、見学する時間なんてなかったわ」
「なるほどな。じゃあ、結果が出るまでの数日間は、ゆっくりと見学するといい」
「え!? 案内してくれるの? ありがとうー!」
「は? 誰がそんなこと言った? 俺が、そんなことするわけないだろ。暇人じゃないんだ」
お互いに、軽口をたたける仲にはなったよう。二人は視線を合わせて、クスクスと笑った。
「ちょっと荒行事だったけど。それでも、死んだということを知らないままよりは、ずっといいと思うの」
ボロボロの布からはみ出る灰金髪の髪を押さえ、空を仰ぎ見る。果てしなく続く空は、いつのまにか夕暮れになっていた。それでも、色とりどりの花びらは舞っていく。
(贅沢言うなら、鯉たちを殺した毒を知りたかったんだけど)
亀は、さすがにそこまでの情報は持ち合わせていないはず。人間の食べるものなど……ましてや、与えてくれるご飯がどのような成分なのか。それを考えることすらないかもしれない。
「…… 池に、足蹴なく通っていた妓女のことはよくわからないけど。それって、金明妃の妓女だったのよね?」
「ああ、間違いない。だがそうなると、今回の事件とどう繋がるのか。それが分からない。権姜が愚痴っていた、【金明妃を苛めていた者たちの弱みを握った】。これが妓女の死に、どう関係するのか。皆目見当もつかん」
「…… まあ、そうよね。それだけじゃ、結びつけることが難しいわ」
二人は盛大なため息をついた。
けれど香 麗然が先に立ち直り、彼の背中を軽くたたく。ふふっと笑いながら、お腹をさすった。美味しいご飯を奢ってと、彼にねだってみる。
曹朱は 肩をすくませた。事件が少しだけ進展したことへのお礼だと、彼女を町へと誘う。
皇帝のお膝元である町は、夕暮れ時であっても大層賑わっていた。茶屋はもちろん、食堂も経営している宿屋、たくさんの坊(店舗)などもある。
先祖を祀る祠や、刹と呼ばれる寺の塔など。旅行客だけでなく、他の人たちも使いやすいほどに、あらゆる施設が充実していた。
「はえー、こんなに大きかったんだ。この町」
「何だ? 試験を受けに来たとき、通ったんじゃないのか?」
「……あのときはかなり急いでて、見学する時間なんてなかったわ」
「なるほどな。じゃあ、結果が出るまでの数日間は、ゆっくりと見学するといい」
「え!? 案内してくれるの? ありがとうー!」
「は? 誰がそんなこと言った? 俺が、そんなことするわけないだろ。暇人じゃないんだ」
お互いに、軽口をたたける仲にはなったよう。二人は視線を合わせて、クスクスと笑った。
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