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ドキドキ同棲編

希帆ちゃんの恋愛相談室⑥

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右耳にあてたスマフォから軽快な呼び出し音が流れる。
程なくしてイツくんがいつもの優しい声で電話に出てくれた。

『希帆、お前が電話なんて珍しいな。どうした?』
「ちょっとイツくんに聞きたいことがあってさ~」
「……っと……に言ってるか……取り辛い……っどこ……』
「あれ?電波悪い?もしもーーーし!イツくん!?もしもぉーーーし!!!」
『そこ…どこ……希帆……』
「イツくーーん?私は三富くんのお店に居るよーー!もしもぉーし?イツくーーん?」
『……っ………』
「あ~…、ダメだ。切れた」

三富くんのお店は地下な訳でもないのに電波が悪い。
近くにタクシー会社があると言うのも理由のひとつだけれど、私は店主の三富くんに大きな原因があると思っている。
彼は小学生の頃から機械クラッシャーで有名だったからだ。
彼のお陰でこのお店のWi-Fiは飛び交うどころか地を這うばかりで、訪れた客のモバイル端末になんの恩恵も与えない。

「三富くんの空気がよどみ過ぎて電波が阻害されとる」

どよーん、とした空気を背負った店主にジト目を送るが彼には届かなかった。

「…三富さん……体調が悪いのかな…?」
「わたしたちの大っぴらな恋バナに引いちゃったとか!?」

うーん…。アカリちゃん惜しい。
当たらずも遠からじ。

「もうちょっとしてから架け直してみようかな」

腕時計の針は21時20分を指したところだ。
夜のお店を何軒か経営しているイツくんは、この時間も仕事に追われていることも多い。
もしかしたらまだ仕事中かもしれない。

「…希帆さん……流石に飲むペース早過ぎ…」

日和ちゃんが私の空になったグラスを指しながら言った。
これで四杯分のアルコールを摂取し終えたことになる。
三富くんに五杯目のジントニックを頼みながら、日和ちゃんに笑顔を向けた。

「にゃははは。お水飲まなきゃ酔いは回らないから安心して~」
「スイッチか何かがあるんですかね?普段の希帆さんはカシオレで酔っ払うのに!」
「そんな感じかな。一回、お酒飲まされて危ない目に遭ってから艶子ママたちに猛特訓させられたからねぇ。お水飲むのが特訓終了の合図だったもんで、パブロフの犬みたくなっちゃったのさ」
「「危ない目」」
「にゃははは!まぁ、この歳やから、色々とあるよね~」

二人とも『いや、ないでしょ』と言う顔をしているが、ツッコんではこない。
相変わらずどんよりした空気の三富くんには悪いなと思いつつ、日和ちゃんの恋バナに水を向けた。

「日和ちゃん、その彼とはどの位の頻度で会うの?」
「えっと……週4とか…」
「おん?結構頻繁やね?」
「私が…帰りの電車で痴漢に遭うことが……多いって話したら…早番の時以外は……バイクで迎えに来てくれるようになって…」
「……会社まで?」

コクコクと頷く日和ちゃんを見て、私とアカリちゃんは顔を見合わせる。

「日和!!それは完全に付き合ってる状態だって!よくそれで悩み相談しようと思ったね?わたしへの嫌味か!!てか、さっき会うと毎回エッチする風なこと言ってたけど、ってことは週4でしてるってこと?羨まし過ぎるんだけど!!」

アカリちゃんが早口で捲し立てるものだから、何故だか私まで萎縮してしまう。
私も毎日のように致してる身だし、なんだか肩身が狭い気がしてしまうのだ。

「濃厚なエッチは…私がお休みの週末か…彼がお休みの日しか……出来ないし」
「良いじゃん!してるだけ良いじゃん!!わたしだってぐっちゃぐちゃの濃厚なエッチしたいよ!!!」

あぁ、阿鼻叫喚再び…。

「希帆姐さん!この子、これだけして貰っておいて付き合ってるかどうか分かんないなんて!!わたし、泣きそうなんですけど!」

アカリちゃんが勢いそのままに私の胸元に飛び込んできた。
よしよし、と頭を撫でてあげると少し落ち着いてきたようだ。
日和ちゃん同様に私の胸を好き勝手に揉んでいる。

「は~♡男の人ってこの柔らかさに癒されるのかなぁ…」
「大きいのが苦手って人も多いけどねぇ」
「…私は……希帆さんの胸……大好き……♡」
「おひょっ!?」

背後から日和ちゃんも手を伸ばしてきて、やわやわと胸を揉まれる。
なんぞ、このサンドイッチ。
34歳この歳まで生きてきて気付いたのは、意外と女性も女性の胸が好きだと言うことだ。
修学旅行では私の乳を揉むための行列が出来たりもした。
人は自分と違う大きさのそれを確かめずにはいられないのだろう。

「…希帆さんも……私たち…付き合ってると……思いますか?」

揉む手先はそのままに、日和ちゃんが尋ねてくる。
私は答えに窮してしまう。
わざわざ彼女の会社まで迎えに行くなんて好意がないと出来ない芸当だと思う、が…。
だからと言ってその好意が恋愛的なものとは限らない。
それを私は知っている。

チリンチリーン

どう答えようかと考えていると、来訪を告げるベルが鳴った。
戸口に立っていたのは、意外な人物だった。
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