上 下
101 / 143
ドキドキ同棲編

龍臣の贖罪③【龍臣視点】

しおりを挟む
「………アンタ、隠し子が居たわけ?」

戸口に立つ俺たちに、彼女である美由希ミユキが冷たく言い放つ。

「アホかっ!!俺はお前一筋だって知ってんだろーが!!」
「はいはい。艶子さんから聞いてるよ。希帆ちゃんでしょ」
「っだぁぁぁ!!知ってんなら変なこと言ってんなよ!」
「もっと早く連れて来いっつってんの!こんな時間まで家に帰ってなかったの?信じらんないんだけど、このばかちんが!!」
「いってぇぇぇ!!!」

いつも通り、美由希の鉄拳が俺の頭に落とされる。
ガリガリは目を白黒させて、俺たちの日常風景を眺めていた。

「美由希ちゃん美由希ちゃん、キホちゃんが怖がってる。先に中に入れてやって」
「あぁ!ごめんね、希帆ちゃん!!さぁ、入って入って」
「お前、俺にも謝れよ!この暴力女がっ!!」
「龍臣、大きい声出したら怖がられるぞ」

逸弥が指し示した先には、ビクビクと肩を震わせるガリガリの姿。
どうやらコイツは大きな声が苦手らしい。
そんなこと言っても、俺の声はデカい。ババア譲りだからな。

「んなコト言ったって、ボリューム調整できっかよ!!ヲイ!俺の妹になるんなら、この声にお前が慣れろ!!」

わざとらしく大声で話すと、ガリガリが目をパチクリさせながら俺を見上げた。
夜空に星が瞬くようなガリガリの瞳が、仏頂面の俺を鮮やかに映し出す。
他はボロボロなくせに、やけに綺麗な目をしてやがるなと見つめ返していたら、その瞳から大粒の涙が次々にこぼれ落ちた。

「…っ、ヲ、ヲ、ヲ…ヲイ!!!そ、そんな…泣くことねぇだろーが!!」

声を上げるでもなく、ほたほたと涙を流すばかりのガリガリに酷く狼狽してしまう。
美由希は俺を叱責しながらガリガリの顔にハンカチをあて、逸弥はガリガリの頭を撫でていた。
俺は慌てるだけで、何もしてやれない。

「いもうと……、きほも、いもうと…?いもうと、なったら、きほも、だいじに、して…もらえますか?」

ひたすらに無垢な瞳が俺を見上げている。
ほたほたと流れる涙もそのままに、俺だけを見上げている。
その瞳に映された俺の顔は酷く不細工で、今にも泣きそうな顔をしていた。

「ゆかりは、きほの、いもうとだから、きほが、まもるけど……きほは、いもうとじゃないから、たたかれても、いいって…」

誰だよそんなことコイツに言ったのは。
俺の前に連れて来いよ。
いくら弱い俺でも、全身全霊をかけて殴り倒してやるよ。
コイツが何したってんだよ…。
こんなにガリガリで…こんなに震えて…まだガキじゃねぇかよ…。

「おっきなおと、がまんする…します。きほ、いいこにする…。いいこに、します。いいこに、できたら、いもうと……なれますか?きほも、まもって、もらえますか…?」

勘弁してくれよ。俺は弱いんだよ。
いまだにアニメ観て泣くくらい涙腺も弱いんだ。
んな真っ直ぐな目で見つめられて、んな話聞かされたら、年甲斐もなく泣いちまうに決まってんだろーが!

「……っ」

俺は服の袖で堪え切れなかった涙を乱暴に拭き取り、ガリガリの目線に合うように身を屈める。

「アホ。お前はもう俺の妹なんだよ。これからは俺がお前たちを守ってやるよ」

頭を撫でようと手をかかげたら、やっぱりビクリと反応されてしまった。
けれど、おずおずと頭を下げて撫でやすくしてくれて、撫でられた後はふにゃ、と気の抜けたような笑顔を見せてくれる。

「……腹減ったな、飯にするか」

急に気恥ずかしくなって無理矢理に話を変えると、ガリガリの後ろで大号泣をしていた美由希が話を広げてくれた。

「うぅ…希帆ちゃん……いっぱい食べて…いっぱい遊ぼうね……。希帆ちゃんの好きな食べ物は何かな?」
「龍臣お兄ちゃんに何でも作って貰おうな~」

逸弥がガリガリの頭を撫でながらおどけた声を出す。
さっきから逸弥の手は怖がらねぇな…。
何か面白くねぇ。

「お前にお兄ちゃんって言われるのキショいわ!」

苛立ち紛れに逸弥の頭を叩くと、ガリガリの顔が真っ青になる。

「たた……たたいたら…ダメ…いたい……です…」

そう言って逸弥の手をギュッと握るガリガリ。
余計に面白くねぇ気分になるが、逸弥に叩きつけた手を慌てて引っ込める。

「こ…これからは……気を付ける!!………ほら、美味いもん作ってやっから、んな顔すんなって!!な?何が食いてぇんだ?」

まだ納得がいかない顔のガリガリに、逸弥が膝を折って目線を合わせると穏やかな口調で話し掛ける。

「キホちゃんは優しい子だね。そんなに痛くないから泣かないで。守ってくれてありがとう。美人さんになったら、俺と結婚しようね♡」
「けっこん…?」
「うん。結婚したら俺もキホちゃんのこと守ってあげれるよ~。家族になるからね。そのかわり、夜は泣かすけど♡」
「教育的指導!!!!」

鈍い音と共に逸弥の後頭部に美由希のかかと落としが見事に決まった。
大きく目を開いて硬直するガリガリを抱き上げて、美由希がニッコリと微笑みかける。

「希帆ちゃん♡変な男が居たら今みたいにしっかりと指導するんだよ!うちの道場で鍛えてあげるからね!」
「し…どう……?」
「そう。暴力はダメだけど、口で言っても分からない人には必要な時もあるの。自分や自分の大切な人を守るためにね」
「……まもる、ために…」

ガリガリは美由希の言葉を反芻して何かを考えていた。
華奢な美由希が楽々と抱え上げられるほど、ガリガリは軽くて弱い。
俺は逸弥を助け起こしながら、俺の小さな妹が拳を握る必要のない未来だけを祈った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...