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ハラハラ同居編
オスの開き直り【大輔視点】
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最初の1回目こそ、自分の欲求の為に身体が動いてしまったけれど、希帆さんの指導もあって、2回目からは希帆さんの事をズクズクのメロメロに出来たと思う。
キスをする度に、希帆さんはキュンキュンと俺を締め上げた。
すっかり俺の形になってしまった希帆さんの中に、許される限り留まりたい。
なんどでも、なんどでも、その中に俺を刻みたい。
希帆さんから離れると同時に、希帆さんと繋がりたくなる。
理性の鍵がバカになってしまったみたいだ。
「…私バカな男は嫌いなんだけど」
そう言いながらキスをくれた希帆さんが、花のように笑うのを泣きそうになりながら見ていた。
希帆さんには笑顔が似合う。
どんな顔も可愛いけれど、ふにゃりと笑う希帆さんは頼りなくて、抱き締めてあげたくなる。
希帆さんを笑顔にしたいと思う。
けれど、時々どうしても泣かせてしまいたくもなる。
「私が初めての相手だからって特別視するんじゃなくてさ。好きな人と付き合いなさい」
希帆さんの言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
俺はどうしたってワンナイトの相手なのだろうか。
同じ『大輔』でも、希帆さんの恋人にはなれないと言うのか。
…逃がさない。
俺のことを好きにならないなら、希帆さんのことを閉じ込めて、身体だけでも繋がっていよう。
身体の欲求に従順な希帆さんだから、その内きっと陥落するはずだ。
身体目的で抱いて良いんでしょう?
少し乱暴になるけど我慢して。
希帆さんから言い出したことだもの。
『身体だけの関係』だって。
「…そうやって傷つけるなら、最初から優しくしないでよぉ………!」
ハッと我に返ると、しゃくり上げながら大粒の涙を流す希帆さんが居た。
俺に対しての恐怖心からか、身体を細かく震わせている。
慌てて抱き起こして、背中や髪を撫でた。
こんな風に泣かせたいんじゃない。
宝物として大切に大切に扱って、幸せな気持ちで希帆さんをいっぱいに満たして、嬉しさが涙として溢れ出てくるように泣かせたいんだ。
悲しみや怖さで泣かせたい訳じゃない。
もう二度と同じ過ちは繰り返さないと自分に誓う。
だって、やっと分かった。
俺は希帆さんが好きだ。
ずっと分からなかった感情を、希帆さんが教えてくれた。
希帆さんは俺が童貞を捧げた相手に、心まで釣られてしまったのだと言うが、それは違う。
身体を繋げるずっと前から、俺は希帆さんに恋をしていた。
きっと、あの夜から、希帆さんを好きになっていたんだ。
希帆さんに、あんな風に一途に想われたら、俺はどうなるんだろう…。
そう考えた瞬間から、俺の初恋は始まっていたんだ。
そしてその初恋は、たぶん、これからずっと続いていく。
希帆さんは、俺が告白の時に言った「結婚を前提にお付き合いしてください」という言葉は冗談だと思っている。
もちろん冗談なんかじゃない。
希帆さんは、俺「が」希帆さんに捕まったと思っているけれど、逆だ。
俺「に」希帆さんが捕まったんだ。
希帆さんがそれを知るのは、俺と結婚した後になるだろう。
だって俺は希帆さんを逃してやる気は毛頭ない。
それこそ泣いたって喚いたって、手を放してやるつもりは1ミリも存在しない。
もちろん、俺と別れたいなんて思わないように、ズクズクに甘やかして可愛がるつもりだ。
希帆さんは快楽に弱いところもあるから、身体も俺以外じゃ満足できないようにしなくちゃね。
希帆さんが俺の罠にかかってしまったんだから仕方ない。
これから先、希帆さんに出来ることは、黙って俺に可愛がられることと、俺を好きでいることだけだ。
こんな執着男に捕まって、希帆さんはなんて可哀そうなんだろう。
ごめんね希帆さん。
でも逃がしてあげない。
その分たくさん愛を注ぐから、許してね?
可愛い、可愛い、俺の希帆さん。
俺に捕まったと気付く時には、希帆さんは既に俺の腹の中。
*********************
「え゛!そんな前から、私のこと知ってたの?」
お昼間に目を覚ました希帆さんに、朝ご飯兼お昼ご飯を食べさせている間に、俺の知っている希帆さんの昔話を終える。
もちろん、俺が希帆さんを一生離さないつもりでいる算段は伏せて話した。
「なんか…ズルい。私も昔の大輔くん覚えておきたかったのに…。全然記憶にない…。やだ…」
口元に食事の欠片をつけて、ウルウルと瞳を滲ませて上目遣いをする希帆さんは、息を飲むほど可愛い。
例によってベッドで寛ぎながら、俺特製のオムレツを希帆さんに食べさせている。
一緒に暮らし始めて、根気強く「あーん♡」を繰り返した結果、希帆さんはお腹を空かせた雛鳥のように、素直に口を開いてくれるようになった。
希帆さんは食べこぼしが凄い。もちろん、それも可愛い。本人はすごく気にしているけど。
だから「ベッドで食事するときは、俺が食べさせた方が早いでしょ?」と説得して二日目の朝にもフレンチトーストを食べさせたのだ。
「恋愛なんてしない!」と頑なだった希帆さんは、初めは警戒心がバリバリで、保護されたばかりの野良猫みたいだった。
それが今や「次はブロッコリー食べさせて、あーん」とリクエストして自ら口を開くまでになったのだから、感動はひとしおだ。
文字通り猫可愛がりしたくなるのも当然である。
「私だって色んな大輔くんを知っていたいのに…。悔しい…」
黄色い玉子の欠片を付けたままで、口を「むぅ」と結び、頬を膨らませた希帆さんは、確実に世界一可愛い俺の恋人だ。
「…希帆さんのデレは心臓に悪いね」
ギュウッ!と締め上げられような痛みに、思わず胸元を押さえながら項垂れる。
こんな状態で、この先果たして、希帆さんを捕らえたままでいられるのか甚だ不安だ。
顔を伏せている間に、溶けてしまった顔面の筋肉を何とか整える。
「…あ、ごめん、嫌?…気を付けるね。私、好きってなったら周りが見えなくなっちゃうから…」
希帆さんが今度は口を「うにゅ」と曲げて、おまけに眉毛も綺麗な八の字に下げて、不安げに視線を彷徨わせる。
俺の可愛い彼女は、どうにも恋愛に対してトラウマがあり過ぎる。
大方、元カレにでも何か言われたことがあるのだろう。
希帆さんの今の幸せにいちいち干渉してくるな、元カレ風情が。
「嫌な訳ないよ。希帆さんが可愛過ぎて俺の心臓がもたないだけ。心臓が止まったら、責任取って人工呼吸器してくれる?」
「ばか…んぅ」
口元の欠片を舐めとって、そのまま希帆さんの唇を奪う。
「んぅ」だって。可愛い。
「…んぁっ……もぅ…口の中食べカスだらけなのに…恥ずかしい……うぅ…」
しっかりと希帆さんの口内を堪能して唇を離すと、顔面を真っ赤にした彼女が涙目で俺を睨む。
その表情が、俺を盛大に煽っているのだと、いつになったら気が付くのだろうか。
「希帆さんの反応が可愛いから、仕方ないじゃない?俺だって我慢するの大変なんだからね♡」
「…わ、私だって、一緒に暮らし始めて、昨日まで、いっぱい我慢したもん!」
「……今後は、積極的に煽っていくスタイルなの?希帆さん…」
「おん?」
「…はぁ……可愛い♡」
希帆さんの過去の男たちには苛立ちしかないが、一つだけ感謝することがある。
元カレたちが希帆さんを手放してくれたから、今俺の腕の中に希帆さんが居る。
よく手放すことが出来たもんだと感心してしまう。
こんなに可愛い存在を手放すことなんて俺には出来ない。
「我慢で言ったら俺の方がしてるって。昨日だって結局3回しかしてないよ?」
「…3回もしたら十分だと思います」
「足りないよ!ここ半月、ずっとお預けだったんだよ?希帆さんが隣で寝てると思ったら興奮して眠れなくて、夜中にトイレで処理してたんだからね!!」
「あ、あれってそういことだったんだ…」
ポッ、と頬を染める希帆さんは、年齢よりもずっと若く見える。
「童貞じゃなくなって浮かれて、朝勃ちしたの押し付けたり…、ちょっと前の自分が猿みたいで恥ずかしくて、その俺を忘れてほしくて必死で我慢してたんだから」
「おぉ…。……私に愛想尽かしたんだと思っちゃった」
「はぁぁ?あり得ないから!希帆さんに呆れられないように精一杯抑えてるんだよ?本当は昼夜関係なく希帆さんを抱きたい。ずっとベッドで繋がっていたい」
「……お、おぅ…」
湯気が出そうなくらい真っ赤な希帆さんは、左右に視線を彷徨わせた後、おずおずと口を開いた。
「で…出来るだけ、頑張る、から……我慢させないように…。今度、大輔くんが一人でするときは、私が手伝ってあげようか?」
あけすけに言うくせに、どうしてそんなに恥ずかしがるの?
それって計算なの?
童貞卒業したての性欲舐めてるの?
「…じゃあ、今からエッチしても良い?」
「……あ、えっと…」
「…やっぱり、呆れてる?」
戸惑った顔の希帆さんに、囂々と燃えていた欲望の篝が手早く消火される。
下半身に集まりつつある熱だけが鎮火されないまま残った。
「そうじゃなくて、さっきトイレに行ったら、始まってたから…」
「あー…、そっか」
そう言えば、希帆さんの予定日は今日か明日だった気がする。
昨夜抱いてしまったばかりだけど、体調は大丈夫だろうか。
「ごめんね」
希帆さんに体調を尋ねようとしたら、先に希帆さんに謝られてしまう。
今にも泣き出しそうな顔に面食らってしまった。
「いやいや、なんで謝るの?俺こそ生理日カレンダー共有してるのに、気付かなくてごめんね?それなのに昨日エッチしちゃって、体調は大丈夫?」
希帆さんの目から涙が零れ落ちないように、出来る限り優しく抱き寄せて頭を撫でる。
大きく深呼吸した希帆さんに合わせて、背中をポン、ポン、と軽く叩いた。
すると希帆さんが、髪を撫でていた俺の左手を取って、自分の口元に運ぶ。
「生理中はエッチ出来なくてごめんね」
俺の手の甲に、その柔らかい唇を押し当てながら、ポソリと希帆さんが呟いた。
危うく希帆さんを怖がらせるところだった。
俺の中で憤怒の渦が巻き起こったからだ。
もちろん、希帆さんに対してな訳がない。
そんなことを希帆さんに言わせてしまう過去の亡霊に対してだ。
「…希帆さん、もちろん、俺は希帆さんと毎分毎秒繋がっていたいって思ってるけど、生理だって希帆さんの身体に必要なことでしょう?その間にエッチが出来ないからって、怒る訳ないじゃん」
へにゃん、と顔中のパーツを下げて、泣く5秒前の相貌をした希帆さんが静かに肩を震わせている。
「なかなか手強いなぁ、希帆さんの中の過去の男を消し去るの」
ちゅっ、ちゅっ、と音をさせながら、希帆さんの額や目元に唇を落とす。
擽ったそうにしながらも、いつも俺の好きにさせてくれる希帆さんは、今日は自分から頬を差し出してきた。
「ほっぺにもキスして欲しいの?」
「…ん」
「かわいー♡」
「…ん」
希帆さんが望むまま、頬に優しくキスをすると、甘えるように抱き着いてくる。
俺の胸にウリウリと顔面を埋めて、ギュウギュウと腕を回してくる希帆さんはまるで幼子だ。
「…なんか、申し訳ない……」
「も~、あんまり言うと怒るよ?申し訳なさとか感じる必要ないから!」
「だってさぁ、私は生理前の欲求不満のアレコレで迷惑かけたしさぁ…」
「ハハハ。そんなに欲求不満だったの?もったいないことしたなぁ♡早く襲っちゃえば良かったね♡」
「欲求不満モンスターだったよ。大輔くんとエッチなことする夢を見ちゃうくらいに」
「エッチな夢?」
埋めているのが苦しくなったのか、顔を上向かせた希帆さんが、興味深い話をしてくる。
思わず身を乗り出して、希帆さんの顔を覗き込んでしまった。
「…ん。私が大輔くんを襲っちゃった夜あったでしょ?花束くれた夜」
「希帆さんがめっちゃ可愛かった夜ね♡覚えてるよ♡」
希帆さんはあの夜の花束をドライフラワーにして、大切に飾ってくれている。
初めて貰った花束だから、と包装紙やリボンまでクローゼットに保管してくれた。
これからいくらでもプレゼントするのに。
そんないじらしいことをされたら、毎日でも花束を贈りたくなってしまう。
「……その前日に、大輔くんとエッチする夢見た…。ごめん、勝手に変な夢に登場させて…うぅ…」
両手で顔面を覆いながら、指の隙間からチロリと俺の顔色を伺う希帆さんが可愛くて、ついつい真実を告げてしまった。
「それ夢じゃないよ?朝起きたら、希帆さんがオッパイ丸出しで寝てたものだから、手が勝手に動いたんだよね~♡眠ってるのに可愛い反応するし、いっぱいおもらしするし、エッロいなぁと思ってた♡あの時、夢の中で俺とエッチしてたんだね、希帆さん♡」
覆っていた両手を外して、顎が外れてしまうんじゃないかと心配になるほど、大口を開ける彼女に満面の笑みを送る。
次に希帆さんが何か発する前に、その唇を俺の唇で縫い留めた。
本当に、俺の希帆さんはどこまでも可愛い。
キスをする度に、希帆さんはキュンキュンと俺を締め上げた。
すっかり俺の形になってしまった希帆さんの中に、許される限り留まりたい。
なんどでも、なんどでも、その中に俺を刻みたい。
希帆さんから離れると同時に、希帆さんと繋がりたくなる。
理性の鍵がバカになってしまったみたいだ。
「…私バカな男は嫌いなんだけど」
そう言いながらキスをくれた希帆さんが、花のように笑うのを泣きそうになりながら見ていた。
希帆さんには笑顔が似合う。
どんな顔も可愛いけれど、ふにゃりと笑う希帆さんは頼りなくて、抱き締めてあげたくなる。
希帆さんを笑顔にしたいと思う。
けれど、時々どうしても泣かせてしまいたくもなる。
「私が初めての相手だからって特別視するんじゃなくてさ。好きな人と付き合いなさい」
希帆さんの言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
俺はどうしたってワンナイトの相手なのだろうか。
同じ『大輔』でも、希帆さんの恋人にはなれないと言うのか。
…逃がさない。
俺のことを好きにならないなら、希帆さんのことを閉じ込めて、身体だけでも繋がっていよう。
身体の欲求に従順な希帆さんだから、その内きっと陥落するはずだ。
身体目的で抱いて良いんでしょう?
少し乱暴になるけど我慢して。
希帆さんから言い出したことだもの。
『身体だけの関係』だって。
「…そうやって傷つけるなら、最初から優しくしないでよぉ………!」
ハッと我に返ると、しゃくり上げながら大粒の涙を流す希帆さんが居た。
俺に対しての恐怖心からか、身体を細かく震わせている。
慌てて抱き起こして、背中や髪を撫でた。
こんな風に泣かせたいんじゃない。
宝物として大切に大切に扱って、幸せな気持ちで希帆さんをいっぱいに満たして、嬉しさが涙として溢れ出てくるように泣かせたいんだ。
悲しみや怖さで泣かせたい訳じゃない。
もう二度と同じ過ちは繰り返さないと自分に誓う。
だって、やっと分かった。
俺は希帆さんが好きだ。
ずっと分からなかった感情を、希帆さんが教えてくれた。
希帆さんは俺が童貞を捧げた相手に、心まで釣られてしまったのだと言うが、それは違う。
身体を繋げるずっと前から、俺は希帆さんに恋をしていた。
きっと、あの夜から、希帆さんを好きになっていたんだ。
希帆さんに、あんな風に一途に想われたら、俺はどうなるんだろう…。
そう考えた瞬間から、俺の初恋は始まっていたんだ。
そしてその初恋は、たぶん、これからずっと続いていく。
希帆さんは、俺が告白の時に言った「結婚を前提にお付き合いしてください」という言葉は冗談だと思っている。
もちろん冗談なんかじゃない。
希帆さんは、俺「が」希帆さんに捕まったと思っているけれど、逆だ。
俺「に」希帆さんが捕まったんだ。
希帆さんがそれを知るのは、俺と結婚した後になるだろう。
だって俺は希帆さんを逃してやる気は毛頭ない。
それこそ泣いたって喚いたって、手を放してやるつもりは1ミリも存在しない。
もちろん、俺と別れたいなんて思わないように、ズクズクに甘やかして可愛がるつもりだ。
希帆さんは快楽に弱いところもあるから、身体も俺以外じゃ満足できないようにしなくちゃね。
希帆さんが俺の罠にかかってしまったんだから仕方ない。
これから先、希帆さんに出来ることは、黙って俺に可愛がられることと、俺を好きでいることだけだ。
こんな執着男に捕まって、希帆さんはなんて可哀そうなんだろう。
ごめんね希帆さん。
でも逃がしてあげない。
その分たくさん愛を注ぐから、許してね?
可愛い、可愛い、俺の希帆さん。
俺に捕まったと気付く時には、希帆さんは既に俺の腹の中。
*********************
「え゛!そんな前から、私のこと知ってたの?」
お昼間に目を覚ました希帆さんに、朝ご飯兼お昼ご飯を食べさせている間に、俺の知っている希帆さんの昔話を終える。
もちろん、俺が希帆さんを一生離さないつもりでいる算段は伏せて話した。
「なんか…ズルい。私も昔の大輔くん覚えておきたかったのに…。全然記憶にない…。やだ…」
口元に食事の欠片をつけて、ウルウルと瞳を滲ませて上目遣いをする希帆さんは、息を飲むほど可愛い。
例によってベッドで寛ぎながら、俺特製のオムレツを希帆さんに食べさせている。
一緒に暮らし始めて、根気強く「あーん♡」を繰り返した結果、希帆さんはお腹を空かせた雛鳥のように、素直に口を開いてくれるようになった。
希帆さんは食べこぼしが凄い。もちろん、それも可愛い。本人はすごく気にしているけど。
だから「ベッドで食事するときは、俺が食べさせた方が早いでしょ?」と説得して二日目の朝にもフレンチトーストを食べさせたのだ。
「恋愛なんてしない!」と頑なだった希帆さんは、初めは警戒心がバリバリで、保護されたばかりの野良猫みたいだった。
それが今や「次はブロッコリー食べさせて、あーん」とリクエストして自ら口を開くまでになったのだから、感動はひとしおだ。
文字通り猫可愛がりしたくなるのも当然である。
「私だって色んな大輔くんを知っていたいのに…。悔しい…」
黄色い玉子の欠片を付けたままで、口を「むぅ」と結び、頬を膨らませた希帆さんは、確実に世界一可愛い俺の恋人だ。
「…希帆さんのデレは心臓に悪いね」
ギュウッ!と締め上げられような痛みに、思わず胸元を押さえながら項垂れる。
こんな状態で、この先果たして、希帆さんを捕らえたままでいられるのか甚だ不安だ。
顔を伏せている間に、溶けてしまった顔面の筋肉を何とか整える。
「…あ、ごめん、嫌?…気を付けるね。私、好きってなったら周りが見えなくなっちゃうから…」
希帆さんが今度は口を「うにゅ」と曲げて、おまけに眉毛も綺麗な八の字に下げて、不安げに視線を彷徨わせる。
俺の可愛い彼女は、どうにも恋愛に対してトラウマがあり過ぎる。
大方、元カレにでも何か言われたことがあるのだろう。
希帆さんの今の幸せにいちいち干渉してくるな、元カレ風情が。
「嫌な訳ないよ。希帆さんが可愛過ぎて俺の心臓がもたないだけ。心臓が止まったら、責任取って人工呼吸器してくれる?」
「ばか…んぅ」
口元の欠片を舐めとって、そのまま希帆さんの唇を奪う。
「んぅ」だって。可愛い。
「…んぁっ……もぅ…口の中食べカスだらけなのに…恥ずかしい……うぅ…」
しっかりと希帆さんの口内を堪能して唇を離すと、顔面を真っ赤にした彼女が涙目で俺を睨む。
その表情が、俺を盛大に煽っているのだと、いつになったら気が付くのだろうか。
「希帆さんの反応が可愛いから、仕方ないじゃない?俺だって我慢するの大変なんだからね♡」
「…わ、私だって、一緒に暮らし始めて、昨日まで、いっぱい我慢したもん!」
「……今後は、積極的に煽っていくスタイルなの?希帆さん…」
「おん?」
「…はぁ……可愛い♡」
希帆さんの過去の男たちには苛立ちしかないが、一つだけ感謝することがある。
元カレたちが希帆さんを手放してくれたから、今俺の腕の中に希帆さんが居る。
よく手放すことが出来たもんだと感心してしまう。
こんなに可愛い存在を手放すことなんて俺には出来ない。
「我慢で言ったら俺の方がしてるって。昨日だって結局3回しかしてないよ?」
「…3回もしたら十分だと思います」
「足りないよ!ここ半月、ずっとお預けだったんだよ?希帆さんが隣で寝てると思ったら興奮して眠れなくて、夜中にトイレで処理してたんだからね!!」
「あ、あれってそういことだったんだ…」
ポッ、と頬を染める希帆さんは、年齢よりもずっと若く見える。
「童貞じゃなくなって浮かれて、朝勃ちしたの押し付けたり…、ちょっと前の自分が猿みたいで恥ずかしくて、その俺を忘れてほしくて必死で我慢してたんだから」
「おぉ…。……私に愛想尽かしたんだと思っちゃった」
「はぁぁ?あり得ないから!希帆さんに呆れられないように精一杯抑えてるんだよ?本当は昼夜関係なく希帆さんを抱きたい。ずっとベッドで繋がっていたい」
「……お、おぅ…」
湯気が出そうなくらい真っ赤な希帆さんは、左右に視線を彷徨わせた後、おずおずと口を開いた。
「で…出来るだけ、頑張る、から……我慢させないように…。今度、大輔くんが一人でするときは、私が手伝ってあげようか?」
あけすけに言うくせに、どうしてそんなに恥ずかしがるの?
それって計算なの?
童貞卒業したての性欲舐めてるの?
「…じゃあ、今からエッチしても良い?」
「……あ、えっと…」
「…やっぱり、呆れてる?」
戸惑った顔の希帆さんに、囂々と燃えていた欲望の篝が手早く消火される。
下半身に集まりつつある熱だけが鎮火されないまま残った。
「そうじゃなくて、さっきトイレに行ったら、始まってたから…」
「あー…、そっか」
そう言えば、希帆さんの予定日は今日か明日だった気がする。
昨夜抱いてしまったばかりだけど、体調は大丈夫だろうか。
「ごめんね」
希帆さんに体調を尋ねようとしたら、先に希帆さんに謝られてしまう。
今にも泣き出しそうな顔に面食らってしまった。
「いやいや、なんで謝るの?俺こそ生理日カレンダー共有してるのに、気付かなくてごめんね?それなのに昨日エッチしちゃって、体調は大丈夫?」
希帆さんの目から涙が零れ落ちないように、出来る限り優しく抱き寄せて頭を撫でる。
大きく深呼吸した希帆さんに合わせて、背中をポン、ポン、と軽く叩いた。
すると希帆さんが、髪を撫でていた俺の左手を取って、自分の口元に運ぶ。
「生理中はエッチ出来なくてごめんね」
俺の手の甲に、その柔らかい唇を押し当てながら、ポソリと希帆さんが呟いた。
危うく希帆さんを怖がらせるところだった。
俺の中で憤怒の渦が巻き起こったからだ。
もちろん、希帆さんに対してな訳がない。
そんなことを希帆さんに言わせてしまう過去の亡霊に対してだ。
「…希帆さん、もちろん、俺は希帆さんと毎分毎秒繋がっていたいって思ってるけど、生理だって希帆さんの身体に必要なことでしょう?その間にエッチが出来ないからって、怒る訳ないじゃん」
へにゃん、と顔中のパーツを下げて、泣く5秒前の相貌をした希帆さんが静かに肩を震わせている。
「なかなか手強いなぁ、希帆さんの中の過去の男を消し去るの」
ちゅっ、ちゅっ、と音をさせながら、希帆さんの額や目元に唇を落とす。
擽ったそうにしながらも、いつも俺の好きにさせてくれる希帆さんは、今日は自分から頬を差し出してきた。
「ほっぺにもキスして欲しいの?」
「…ん」
「かわいー♡」
「…ん」
希帆さんが望むまま、頬に優しくキスをすると、甘えるように抱き着いてくる。
俺の胸にウリウリと顔面を埋めて、ギュウギュウと腕を回してくる希帆さんはまるで幼子だ。
「…なんか、申し訳ない……」
「も~、あんまり言うと怒るよ?申し訳なさとか感じる必要ないから!」
「だってさぁ、私は生理前の欲求不満のアレコレで迷惑かけたしさぁ…」
「ハハハ。そんなに欲求不満だったの?もったいないことしたなぁ♡早く襲っちゃえば良かったね♡」
「欲求不満モンスターだったよ。大輔くんとエッチなことする夢を見ちゃうくらいに」
「エッチな夢?」
埋めているのが苦しくなったのか、顔を上向かせた希帆さんが、興味深い話をしてくる。
思わず身を乗り出して、希帆さんの顔を覗き込んでしまった。
「…ん。私が大輔くんを襲っちゃった夜あったでしょ?花束くれた夜」
「希帆さんがめっちゃ可愛かった夜ね♡覚えてるよ♡」
希帆さんはあの夜の花束をドライフラワーにして、大切に飾ってくれている。
初めて貰った花束だから、と包装紙やリボンまでクローゼットに保管してくれた。
これからいくらでもプレゼントするのに。
そんないじらしいことをされたら、毎日でも花束を贈りたくなってしまう。
「……その前日に、大輔くんとエッチする夢見た…。ごめん、勝手に変な夢に登場させて…うぅ…」
両手で顔面を覆いながら、指の隙間からチロリと俺の顔色を伺う希帆さんが可愛くて、ついつい真実を告げてしまった。
「それ夢じゃないよ?朝起きたら、希帆さんがオッパイ丸出しで寝てたものだから、手が勝手に動いたんだよね~♡眠ってるのに可愛い反応するし、いっぱいおもらしするし、エッロいなぁと思ってた♡あの時、夢の中で俺とエッチしてたんだね、希帆さん♡」
覆っていた両手を外して、顎が外れてしまうんじゃないかと心配になるほど、大口を開ける彼女に満面の笑みを送る。
次に希帆さんが何か発する前に、その唇を俺の唇で縫い留めた。
本当に、俺の希帆さんはどこまでも可愛い。
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