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その日は数年に一度の大雪だった。
雪国と違って、私の住む街にはいつもは雪が積もらない。
だからこそ少しの雪で交通網は大混乱。
何とか帰宅の途についた所で、同居中の妹から連絡が入る。
【おねぇ!ファンヒーターが壊れた!!寒いし、アタシは彼氏んとこで過ごすね♡】
うっっっそやろ…。
我が家の唯一の暖房器具が壊れたなんて………。
【彼氏の居ないおねぇは、大人しくお家でお布団に温めてもらいなね♡】
ぐぬぅ…。
良かった、ぐうの音は出た。
今日も会社で怒られて、ようやくお家で寛げると思ったのに!
泣きっ面にオオスズメバチだよ。全く!!
数年に一度の大寒波と言われている今夜、何で壊れちゃったの我が家のファンヒーターちゃん!
そんな軟弱者に育てた覚えも、産んだ覚えもございません!
立て、立つんだファンヒーター!!!
電車内で百面相をしていたら、また妹から連絡がきた。
【ちなみに、おねぇが間違って、灯油じゃなくて軽油を入れたのが原因だからね~】
……。
今度はぐうの音も出なかった。
「…それでウチに来たの?相変わらず飛ばしてんなぁ」
人を小馬鹿にした様な笑い顔を作りながら、テキパキと飲み物を準備している幼馴染にジト目を返す。
閑散としたbarのカウンター。私のいつもの特等席。
目の前の棚には、沢山のお酒が所狭しと置かれている。
BGMはジャズ。心地良い音色は有名な音響システムから流れてくる。
この音響システムのことベタ褒めしてた男もいたな、そう言えば。
「これはこれはお客様、売上に貢献、ありがとうございます♡」
「いえいえ~、三富くんの為に雪道を歩いて来て良かったわ~♡今日も私一人で貸し切り気分だもの♡」
紳士的な振る舞いをするこの店の主人に、負けじと大袈裟な位に声のキーを上げて嫌味を返した。
「今日みたいな大雪の日に態々barに来るのは、希帆ちゃんみたいなよっぽどな事情持ちだけだって」
はんっと鼻で笑われて、温かいおしぼりを渡される。
ぐぬぬぬぬ…。
「ココアでも飲む?ちょっと時間貰うけど」
「いや、今日はお酒貰う」
「おや、珍しい。今日は雪が降りそうだ」
「見ての通りの大雪だよっ!」
お酒が弱い私は普段はソフトドリンク専門客で、あまりこの店の売上に貢献出来ては居ない。
それでも度々、開店時間の19時からダラダラと、三富くんを一人占めして恋バナや仕事の愚痴を聞いてもらっている。
ま、最近は恋バナなんて全然してないけど。
「今日は飲みたい気分なの」
「…何かあった?」
真顔で嫌味の応酬をして来る彼は、毎回さすがマスターだなぁと感心するほどの観察眼を見せてくれる。
私の失恋の匂いにいつも敏感に反応してくれるのだ。
と言うより、三富くんは私がお店に顔を出すときは失恋したときだと解釈している節がある。
毎回の様に「何かあった?」と聞かれている気がする。
まぁ、毎回「何か」が「ある」んだけど。
それを聞いてもらいたくて三富くんに会いに来てるんだけど。
三富くんは無理に聞き出す事をしない。
こちらが話す気がないと分かると、ただ静かに世間話をして、そして、丁寧に丁寧に温かい飲み物を淹れてくれるのだ。
今日は普段飲まないお酒を欲した私に、微妙な気配を感じたのか緩やかな声で尋ねてくれる。
「何かあってもなくても、話聞くよ」
「何にもないよ」
同じように穏やかな声で答えた。
それでも三富くんは丁寧に丁寧にホットカクテルを作ってくれた。
雪国と違って、私の住む街にはいつもは雪が積もらない。
だからこそ少しの雪で交通網は大混乱。
何とか帰宅の途についた所で、同居中の妹から連絡が入る。
【おねぇ!ファンヒーターが壊れた!!寒いし、アタシは彼氏んとこで過ごすね♡】
うっっっそやろ…。
我が家の唯一の暖房器具が壊れたなんて………。
【彼氏の居ないおねぇは、大人しくお家でお布団に温めてもらいなね♡】
ぐぬぅ…。
良かった、ぐうの音は出た。
今日も会社で怒られて、ようやくお家で寛げると思ったのに!
泣きっ面にオオスズメバチだよ。全く!!
数年に一度の大寒波と言われている今夜、何で壊れちゃったの我が家のファンヒーターちゃん!
そんな軟弱者に育てた覚えも、産んだ覚えもございません!
立て、立つんだファンヒーター!!!
電車内で百面相をしていたら、また妹から連絡がきた。
【ちなみに、おねぇが間違って、灯油じゃなくて軽油を入れたのが原因だからね~】
……。
今度はぐうの音も出なかった。
「…それでウチに来たの?相変わらず飛ばしてんなぁ」
人を小馬鹿にした様な笑い顔を作りながら、テキパキと飲み物を準備している幼馴染にジト目を返す。
閑散としたbarのカウンター。私のいつもの特等席。
目の前の棚には、沢山のお酒が所狭しと置かれている。
BGMはジャズ。心地良い音色は有名な音響システムから流れてくる。
この音響システムのことベタ褒めしてた男もいたな、そう言えば。
「これはこれはお客様、売上に貢献、ありがとうございます♡」
「いえいえ~、三富くんの為に雪道を歩いて来て良かったわ~♡今日も私一人で貸し切り気分だもの♡」
紳士的な振る舞いをするこの店の主人に、負けじと大袈裟な位に声のキーを上げて嫌味を返した。
「今日みたいな大雪の日に態々barに来るのは、希帆ちゃんみたいなよっぽどな事情持ちだけだって」
はんっと鼻で笑われて、温かいおしぼりを渡される。
ぐぬぬぬぬ…。
「ココアでも飲む?ちょっと時間貰うけど」
「いや、今日はお酒貰う」
「おや、珍しい。今日は雪が降りそうだ」
「見ての通りの大雪だよっ!」
お酒が弱い私は普段はソフトドリンク専門客で、あまりこの店の売上に貢献出来ては居ない。
それでも度々、開店時間の19時からダラダラと、三富くんを一人占めして恋バナや仕事の愚痴を聞いてもらっている。
ま、最近は恋バナなんて全然してないけど。
「今日は飲みたい気分なの」
「…何かあった?」
真顔で嫌味の応酬をして来る彼は、毎回さすがマスターだなぁと感心するほどの観察眼を見せてくれる。
私の失恋の匂いにいつも敏感に反応してくれるのだ。
と言うより、三富くんは私がお店に顔を出すときは失恋したときだと解釈している節がある。
毎回の様に「何かあった?」と聞かれている気がする。
まぁ、毎回「何か」が「ある」んだけど。
それを聞いてもらいたくて三富くんに会いに来てるんだけど。
三富くんは無理に聞き出す事をしない。
こちらが話す気がないと分かると、ただ静かに世間話をして、そして、丁寧に丁寧に温かい飲み物を淹れてくれるのだ。
今日は普段飲まないお酒を欲した私に、微妙な気配を感じたのか緩やかな声で尋ねてくれる。
「何かあってもなくても、話聞くよ」
「何にもないよ」
同じように穏やかな声で答えた。
それでも三富くんは丁寧に丁寧にホットカクテルを作ってくれた。
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