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怪しい男
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26年生きて来て、嫌と言う程知っているつもりでいた。
楽しい時間程過ぎるのが速いって。
それに引き換え、苦い時間程とてつもなく長く感じてしまうって…。
「日和ちゃ~ん」
妙にべたつくような声の主は、今日も今日とて委員長オーラ漂う野見山さんだ。
ありったけのポマードを擦り付けたのかと見紛う七三ヘアーがテカテカ輝く。
今日は朝からこの野見山さんを交えてのリーダー会議だ。
腕時計の秒針が止まってしまったのかと勘違いするほど、一分一秒が長かった。
それでもまだお昼。
私は気力を充電しようと持参したお弁当箱とともに、ミーティングルームを退席するところだった。
「ねぇ、ねぇ、僕と一緒にランチミーティングしない?金曜日のことは忘れてあげるからさ~」
「ミーティング議題…は…?」
貴方と話し合う事なんてありましたっけ?と小首を傾げれば、野見山さんは「そんなこと!」とわざとらしく両手を広げる。
「方便でしょう?ほ・う・べ・ん!君と二人っきりになりたいって言う僕のストレートな意思表示じゃないか~。ほら?僕って男らしいからさ、日和ちゃんをリードしてあげなきゃいけないと思ってね」
この人の頭を一度かち割って、その自分勝手な思考回路を分析してみたい。
まぁ、かち割った時点で思考回路も寸断されるだろうけど。
「…謹んで……お断り…します…」
出来る限り表情を動かさず、首先だけで頭を下げて背を向けた。
就業中に顔を合わせるのもご免被るのに、休憩中も一緒に過ごすなんてどんな罰ゲームだろうか。
アホくさい…、と思いながら部屋を出ようとした私の肩に野見山さんの手が乗る。
グイッと力を込められて、どうしてもよろけてしまった。
「そんなにつれない態度しちゃって良いの~?俺さ、君の先輩なんだよ~。査定を下げることも、出来ちゃうんだけどなぁ~」
ねっとりと絡みつくような声色と手付きで、野見山さんが擦り寄って来る。
彼の手が触れている所だけ腐食してしまったように感じた。
ふと、野見山さんの右手に絆創膏を見つける。
数日前、私が痴漢野郎に虫ピンを突き刺したのと同じ個所に。
「……手、どうされたんですか?」
私の声色が普段よりも低くなっていることに、先輩風を吹かせる彼は気付かない。
「え?あ、あぁ…。ちょっと、ね。それより!ランチ、行こうよ~」
いつの間にか両肩に置かれた彼の手がサワサワと意味深に動く。
言いようのない不快感に苛まれ、ついついその手を払い退けてしまった。
しまった、とは思ったが些末な出来事だ。
「…失礼……します」
「ちょっと!今、僕の手をはたいたよね?それはどうなの…」
尚も私を引き留めようとする野見山さんへ、ついに私の口撃力が発揮されようとしたとき、先に部屋を出たはずの部長が姿を現した。
「うん、野見山くん。君の人となりについてね、方々からクレームが入っているんだよ。うん。ランチミーティングは私としようか?うん。異論はないね?」
独特の間を持つ部長の話し方が、今日は何だか不気味に感じる。
きっとそう感じたのは、私よりも野見山さんの方だろう。
彼は顔をサァァと青くして、額に冷や汗を掻いている。
どうにも野見山さんの七三はその額を曝け出し過ぎているようだ。
ギットリと脂ぎった彼の顔面が大層気持ち悪い。
「うん。行こうか、野見山くん。うん、うん?」
体格の良い部長の分厚い手の平が、動けないでいる野見山さんの肩にズシリと置かれる。
野見山さんは力なく返事をして、すごすごと私の前から去った。
私は部長の前で自分の口撃力を晒さずに済んで良かったと安堵しながら、同僚の待つ社員食堂に向かう。
もちろん、部長にドナドナされた野見山さんを思い出してスキップをしながら。
楽しい時間程過ぎるのが速いって。
それに引き換え、苦い時間程とてつもなく長く感じてしまうって…。
「日和ちゃ~ん」
妙にべたつくような声の主は、今日も今日とて委員長オーラ漂う野見山さんだ。
ありったけのポマードを擦り付けたのかと見紛う七三ヘアーがテカテカ輝く。
今日は朝からこの野見山さんを交えてのリーダー会議だ。
腕時計の秒針が止まってしまったのかと勘違いするほど、一分一秒が長かった。
それでもまだお昼。
私は気力を充電しようと持参したお弁当箱とともに、ミーティングルームを退席するところだった。
「ねぇ、ねぇ、僕と一緒にランチミーティングしない?金曜日のことは忘れてあげるからさ~」
「ミーティング議題…は…?」
貴方と話し合う事なんてありましたっけ?と小首を傾げれば、野見山さんは「そんなこと!」とわざとらしく両手を広げる。
「方便でしょう?ほ・う・べ・ん!君と二人っきりになりたいって言う僕のストレートな意思表示じゃないか~。ほら?僕って男らしいからさ、日和ちゃんをリードしてあげなきゃいけないと思ってね」
この人の頭を一度かち割って、その自分勝手な思考回路を分析してみたい。
まぁ、かち割った時点で思考回路も寸断されるだろうけど。
「…謹んで……お断り…します…」
出来る限り表情を動かさず、首先だけで頭を下げて背を向けた。
就業中に顔を合わせるのもご免被るのに、休憩中も一緒に過ごすなんてどんな罰ゲームだろうか。
アホくさい…、と思いながら部屋を出ようとした私の肩に野見山さんの手が乗る。
グイッと力を込められて、どうしてもよろけてしまった。
「そんなにつれない態度しちゃって良いの~?俺さ、君の先輩なんだよ~。査定を下げることも、出来ちゃうんだけどなぁ~」
ねっとりと絡みつくような声色と手付きで、野見山さんが擦り寄って来る。
彼の手が触れている所だけ腐食してしまったように感じた。
ふと、野見山さんの右手に絆創膏を見つける。
数日前、私が痴漢野郎に虫ピンを突き刺したのと同じ個所に。
「……手、どうされたんですか?」
私の声色が普段よりも低くなっていることに、先輩風を吹かせる彼は気付かない。
「え?あ、あぁ…。ちょっと、ね。それより!ランチ、行こうよ~」
いつの間にか両肩に置かれた彼の手がサワサワと意味深に動く。
言いようのない不快感に苛まれ、ついついその手を払い退けてしまった。
しまった、とは思ったが些末な出来事だ。
「…失礼……します」
「ちょっと!今、僕の手をはたいたよね?それはどうなの…」
尚も私を引き留めようとする野見山さんへ、ついに私の口撃力が発揮されようとしたとき、先に部屋を出たはずの部長が姿を現した。
「うん、野見山くん。君の人となりについてね、方々からクレームが入っているんだよ。うん。ランチミーティングは私としようか?うん。異論はないね?」
独特の間を持つ部長の話し方が、今日は何だか不気味に感じる。
きっとそう感じたのは、私よりも野見山さんの方だろう。
彼は顔をサァァと青くして、額に冷や汗を掻いている。
どうにも野見山さんの七三はその額を曝け出し過ぎているようだ。
ギットリと脂ぎった彼の顔面が大層気持ち悪い。
「うん。行こうか、野見山くん。うん、うん?」
体格の良い部長の分厚い手の平が、動けないでいる野見山さんの肩にズシリと置かれる。
野見山さんは力なく返事をして、すごすごと私の前から去った。
私は部長の前で自分の口撃力を晒さずに済んで良かったと安堵しながら、同僚の待つ社員食堂に向かう。
もちろん、部長にドナドナされた野見山さんを思い出してスキップをしながら。
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