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彷徨う気持ち
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終業間際になって意識がソワソワと騒ぎ出す。
慶太くんとの朝の会話を思い返してみると、明日の彼のお休みも私と過ごしてくれる風な印象を受ける。
そもそもここ1ヶ月、彼と私との間の時間は濃密だった。
彼は毎日送迎をしたがったがタイミングが合わないこともある。
それでも最低でも週4日は顔も身体も合わせているのだ。
だけど『付き合おう』とは言われていない。
私はセカンドバージンから脱したくて、初対面の彼に抱かれた。
それから何度も身体を重ねて、毎日のように送迎もしてもらっている。
私と彼の関係は何と言うのだろう。
私はどうなりたいんだろう。
「日和ちゃん!」
思考が彷徨い始めたところで唐突に名前を呼ばれる。
顔を上げると、黒髪を七三に撫で付けた真面目委員長オーラ漂う野見山さんが私を覗き込んできた。
「今日は金曜日だし、僕の行きつけのお店に行かない?」
ニコニコと笑っているが、瞳の奥に欲望の闇が巣食っている気がして、どうにも気持ち悪い。
と言うか、親しくもないのに『ちゃん付け』で名前を呼ばないで欲しい。
そもそも下の名前で呼ぶな。
金曜日だろうが何曜日だろうがオールデイズ同行拒否だ。
「予定が…あります……ので…」
私の口撃力が発揮される前に、どうにか消滅してくれないものか。
真面目キャラとは何となく水が合わない。
どうにも吐き気を催してしまう。
「この前だってそう言って断ったじゃない。今夜こそ、僕とデートしてもらうよ!」
げろげろ。
脳内吐瀉物が止まらない。
デート?デートと言ったのか?この男。
私がデートしたいのは慶太くんであってお前ではありません。
だいたい好きでもない男とデートなんて冗談じゃない。
「日和ちゃんは男性恐怖症なのかな?いつも震えているよね…?僕は、そんな君を優しく包んであげたいんだ…!僕の気持ち、受け取って貰えないだろうか?」
野見山さんは自己陶酔甚だしく、どこかウットリとした表情で身を屈めて椅子に座る私に顔を近づけてくる。
七三にまとめられた髪のお陰でよく見える、ギットリと脂が浮き出た額が気持ち悪い。
それに、テンプレの様な眼鏡にも指紋や汚れがベッタリと張り付いていて不潔極まりない。
鼻息が荒過ぎるせいで私の頬に彼の生暖かい息がかかる。
もう耐えられそうになかった。
「野見山…さん……離れて……ください…。仕事中…ですし……なにより…不快です…」
出来る限り言葉を選んで吐き出す。
いくら不快でも職場でいつもの様に相手を罵ることは避けたかった。
「不快?不快って言ったの?今?僕に?…驚いたなぁ、君みたいな何も言えなそうな子にそんな事言われるなんて…!ちょっと顔が可愛いからってお高くとまっちゃってさ、男に歯向かうなんて良い度胸してるよね」
書類整理を終えて席に戻ってきた同僚たちが、素早く野見山さんと私の間に割って入ってくれる。
「ちょっと!野見山さん!!いくら先輩だからって、今の言葉は酷いんじゃないですか?」
「そうですよ、そもそも仕事中にセクハラですよ。同じ男として恥ずかしいです」
「普段から野見山さんってセクハラ気味でしたよね」
「そのくせ男が偉い!みたいにふんぞり返っててさ~」
「あぁ、そう言うとこあるある~。先輩だから遠慮してたけど、さすがに我慢出来なくなって来たよね」
私を守るように囲みながら、同僚たちが野見山さんを非難めいた目で睨め付けた。
野見山さんは舌打ちをすると、スゴスゴと退散して行く。
彼はプライドは高いくせに小心者だから、私1人には強気に出れても他勢が加わると手も足も出ないのだ。
どこまでも小物な男である。
今回は我慢出来たが、次に対峙したら罵詈雑言を浴びせてしまいそうで怖い。
「ごめん…みんな……。庇ってくれて…ありがとう」
「なんのこれしき!って言うか、美少女だから社内でも気が抜けないよね…。もっとガツンと言い返しても良いと思うよ~」
「確かに。可愛くて反論しなそうな子に弱いですからね、男は。同じ男として恥ずかしいです」
「日和先輩って小動物系ですもんね。もっと口答えしていきましょう!じゃないと野見山さんみたいな男に舐められちゃいますよ!」
「……うん…頑張ってみる…ね」
「日和はこのおっとりした話し方が可愛いんだけどね~」
「わかる~!癒し~~!!」
同僚たちと笑い合いながら、残りの仕事を済ませて女子更衣室に向かう。
途中で守衛さんとすれ違ったので、思わず観察をしてしまった。
うちの会社の守衛さんに『金髪』は居ない。
慶太くんのあの風貌で警備員などありえるのだろうか。
「日和?何見てるの?」
「ん……なんでも…ない」
頭の中で警備員の格好をした慶太くんを想像してみる。
格好良いには格好良いが、なんだかしっくりこなかった。
仕事についても気になるけれど、やっぱり私と慶太くんの関係を言い表す言葉が欲しい。
私は、慶太くんの『恋人』になりたい。
慶太くんとの朝の会話を思い返してみると、明日の彼のお休みも私と過ごしてくれる風な印象を受ける。
そもそもここ1ヶ月、彼と私との間の時間は濃密だった。
彼は毎日送迎をしたがったがタイミングが合わないこともある。
それでも最低でも週4日は顔も身体も合わせているのだ。
だけど『付き合おう』とは言われていない。
私はセカンドバージンから脱したくて、初対面の彼に抱かれた。
それから何度も身体を重ねて、毎日のように送迎もしてもらっている。
私と彼の関係は何と言うのだろう。
私はどうなりたいんだろう。
「日和ちゃん!」
思考が彷徨い始めたところで唐突に名前を呼ばれる。
顔を上げると、黒髪を七三に撫で付けた真面目委員長オーラ漂う野見山さんが私を覗き込んできた。
「今日は金曜日だし、僕の行きつけのお店に行かない?」
ニコニコと笑っているが、瞳の奥に欲望の闇が巣食っている気がして、どうにも気持ち悪い。
と言うか、親しくもないのに『ちゃん付け』で名前を呼ばないで欲しい。
そもそも下の名前で呼ぶな。
金曜日だろうが何曜日だろうがオールデイズ同行拒否だ。
「予定が…あります……ので…」
私の口撃力が発揮される前に、どうにか消滅してくれないものか。
真面目キャラとは何となく水が合わない。
どうにも吐き気を催してしまう。
「この前だってそう言って断ったじゃない。今夜こそ、僕とデートしてもらうよ!」
げろげろ。
脳内吐瀉物が止まらない。
デート?デートと言ったのか?この男。
私がデートしたいのは慶太くんであってお前ではありません。
だいたい好きでもない男とデートなんて冗談じゃない。
「日和ちゃんは男性恐怖症なのかな?いつも震えているよね…?僕は、そんな君を優しく包んであげたいんだ…!僕の気持ち、受け取って貰えないだろうか?」
野見山さんは自己陶酔甚だしく、どこかウットリとした表情で身を屈めて椅子に座る私に顔を近づけてくる。
七三にまとめられた髪のお陰でよく見える、ギットリと脂が浮き出た額が気持ち悪い。
それに、テンプレの様な眼鏡にも指紋や汚れがベッタリと張り付いていて不潔極まりない。
鼻息が荒過ぎるせいで私の頬に彼の生暖かい息がかかる。
もう耐えられそうになかった。
「野見山…さん……離れて……ください…。仕事中…ですし……なにより…不快です…」
出来る限り言葉を選んで吐き出す。
いくら不快でも職場でいつもの様に相手を罵ることは避けたかった。
「不快?不快って言ったの?今?僕に?…驚いたなぁ、君みたいな何も言えなそうな子にそんな事言われるなんて…!ちょっと顔が可愛いからってお高くとまっちゃってさ、男に歯向かうなんて良い度胸してるよね」
書類整理を終えて席に戻ってきた同僚たちが、素早く野見山さんと私の間に割って入ってくれる。
「ちょっと!野見山さん!!いくら先輩だからって、今の言葉は酷いんじゃないですか?」
「そうですよ、そもそも仕事中にセクハラですよ。同じ男として恥ずかしいです」
「普段から野見山さんってセクハラ気味でしたよね」
「そのくせ男が偉い!みたいにふんぞり返っててさ~」
「あぁ、そう言うとこあるある~。先輩だから遠慮してたけど、さすがに我慢出来なくなって来たよね」
私を守るように囲みながら、同僚たちが野見山さんを非難めいた目で睨め付けた。
野見山さんは舌打ちをすると、スゴスゴと退散して行く。
彼はプライドは高いくせに小心者だから、私1人には強気に出れても他勢が加わると手も足も出ないのだ。
どこまでも小物な男である。
今回は我慢出来たが、次に対峙したら罵詈雑言を浴びせてしまいそうで怖い。
「ごめん…みんな……。庇ってくれて…ありがとう」
「なんのこれしき!って言うか、美少女だから社内でも気が抜けないよね…。もっとガツンと言い返しても良いと思うよ~」
「確かに。可愛くて反論しなそうな子に弱いですからね、男は。同じ男として恥ずかしいです」
「日和先輩って小動物系ですもんね。もっと口答えしていきましょう!じゃないと野見山さんみたいな男に舐められちゃいますよ!」
「……うん…頑張ってみる…ね」
「日和はこのおっとりした話し方が可愛いんだけどね~」
「わかる~!癒し~~!!」
同僚たちと笑い合いながら、残りの仕事を済ませて女子更衣室に向かう。
途中で守衛さんとすれ違ったので、思わず観察をしてしまった。
うちの会社の守衛さんに『金髪』は居ない。
慶太くんのあの風貌で警備員などありえるのだろうか。
「日和?何見てるの?」
「ん……なんでも…ない」
頭の中で警備員の格好をした慶太くんを想像してみる。
格好良いには格好良いが、なんだかしっくりこなかった。
仕事についても気になるけれど、やっぱり私と慶太くんの関係を言い表す言葉が欲しい。
私は、慶太くんの『恋人』になりたい。
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