君は僕の蒼い蝶々

山田 ぽち太郎

文字の大きさ
上 下
3 / 9

【第一話③】伏し目がちな君の瞳は今日も甘い side蒼

しおりを挟む
「…ハハ、や、やだなぁ、蒼森くん!俺のことは部長と呼べと言っているじゃ無いか。それに邪魔なんて上司に…」
「桐谷、ちょっとこっち良いか?」

部長の言葉を遮り、項垂れる僕に手招きをする蒼森。
茹で蛸みたいに顔を真っ赤にした部長が、ワナワナと震えだす。そして口を開いた瞬間ーーー

「部長、あちらに統括部長がいらっしゃいますが、行かなくてよろしいのでしょうか?」

ヌッと部長の前に歩み出た営業事務の吉澤さんに、部長が小さく悲鳴を上げる。

「よ、吉澤…!お前、いつからここに?」
「ずっと桐谷さんの隣の席で仕事をしておりました。給料泥棒の営業事務なりに」
「…!い、いや、何、それはだな…」
「統括部長がお呼びのようですよ、原瀬部長。今すぐ行った方が良いんじゃないんですか?」

最後は鼻で笑いながら部長に言い捨てる吉澤さん。
視線はフロアの扉側で仁王立ちしている統括部長へ向けられている。
その視線を追って統括部長と目が合った原瀬部長は、顔面を蒼白にしつつ統括部長の元へ去って行った。

「アイツ、本当に邪魔だな」

誰に言うともなしに呟いた蒼森の一言に営業部全員が肯く。
機嫌が悪そうなその顔も、なんて綺麗なんだろう…と見惚れていた僕に蒼森がコイコイと手招きをする。
オフィスチェアに座ったまま、そろそろと彼の元に近寄ると、先ほどまで小突かれていた頭部を優しく撫でられる。

「痛かったろ?」
「あっ…へ、い…き!大丈夫!!あ、ありがとう!!!!」
「…」

サワサワと彼の長い指の腹で撫でれらて、ゾクんっと身体が一つ戦慄いた。
あまりにも唐突に訪れた自分の劣情に、恥ずかしいくらいに狼狽えてしまう。
純粋に僕を心配してくれている蒼森にも申し訳なかった。

(きっと、今、僕の顔真っ赤だ……!)

うわぁぁぁぁ、と胸中では頭を抱えながら、出来るだけ笑顔で蒼森にお礼を返す。

「そ…の、蒼森…、庇ってくれて、ありがとう」
「…別に」

やっぱり僕の顔が変だったのか、蒼森にそっぽを向かれてしまう。
そうだよな、僕は蒼森が好きだから勝手に意識しちゃうけど、蒼森には関係ないし…。
それでもピリリと胸が痛んだ。

「吉澤さんもありがとうございます。給料泥棒って言われた時、ちゃんと言い返せなくてすみません」
「桐谷くんが謝ることじゃないって!!あのヴォケが最悪なだけだもん!」
「ヴォケって…」
「そもそも部長の作成する下書きが小学生レベルの陳腐で無意味な言葉の羅列だから、毎回桐谷くんが訂正して作成し直してくれてるって言うのに…。給料泥棒なんて自己紹介の言葉なのかな…。やっぱり須藤さんと相談して早急に意見書取りまとめなくちゃ…あのヴォケがいたらこの2人の恋路がどうなるかわかったもんじゃないし…」

突然早口でブツブツと語り出した彼女に、なんと言葉を返せば良いかマゴついていると、僕をジッと見つめる蒼森と目が合った。

「…」
「っ…、蒼も…り?」

無言で頭を撫でて来る蒼森に、再び狼狽えていると、フッと彼が息を吐く。

「真っ赤」
「…っ!!!!!」

柔らかな笑みを浮かべた蒼森と目が合って、僕は呼吸も忘れるくらいの衝撃を受けた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

処理中です...