君は僕の蒼い蝶々

山田 ぽち太郎

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【第一話①】伏し目がちな君の瞳は今日も甘い side蒼

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僕の席の前には、我が社の【営業の神様】が座っている。
蒼森 佳香アオモリ ケイカ、営業部不動のNo. 1の男。
万年最下位の僕とは大違いだ。

神様と呼ばれる所以は、その営業手腕による。
どんな営業先からも、必ずと言っていいほど受注を上げて来るのだ。
業務成績が足りない時も、蒼森がフラッと営業に出れば、いつの間にか目標達成してしまう。
先月の営業部の成績も、その半分を蒼森の売上が占める。

長い睫毛の影を目元に落としながら、書類仕事を片付けている蒼森を盗み見た。

(綺麗な顔…。指先まで綺麗だし…、何より逞しい身体つき)

「桐谷」

惚けながら入力作業を続けていた僕は、不意にかけられた背後からの声に「ふぁい」と
何とも腑抜けた声を返してしまった。

「何だぁ?そのやる気のない声は?そんなんだから万年お荷物なんだよぉ、オ・マ・エ・は!」

ポンポンポンと、丸めた資料で頭を打って来るのは僕の上司、原瀬部長だ。
僕は1日1回は嫌味を言われている。

(営業成績至上主義だもん。最下位以外取ったことのない僕を叱るのは当然だよね)

「すみません、原瀬部長。この企画書を提出したら、外回りに向かいます」
「えぇ~?それってぇ、俺が出した下書きをなぞれば良いだけの仕事だよねぇ?な~ぁんでまだ終わってない訳ぇ?」
「…申し訳ありません」
「そんな簡単な仕事はぁ、給料泥棒のぉ営業事務に任せてぇ、営業だったら成績あげて来いって話な訳ぇ。わかるぅ?」
「…すみません」

いつの間にか資料ではなく、軽く握った部長の拳で頭を小突かれる。
コンコンコンコンと、小気味良いリズムで頭を下げた僕を木魚の様に叩いている部長は、人を小馬鹿にするような口調でニヤニヤしていた。
が、突然真顔になると、僕の前髪を掴み吐き捨てるように罵って来る。

「わかってんなら売上伸ばせよぉ!お前が居るから上司の俺が評価されないんだぞ!こんなモッサい髪型しやがって…。営業なんだから、ちったぁ外見に気を使え!そんなんだから取引先に相手にされねぇんだよ!!さっさと外行け!営業だったら外で仕事しろ。俺らの営業成績で飯食ってる事務にツマンネェ書類は任せとけ!お前みたいな営業は人の倍以上、外を駆け回ってろ!!!」

きゅうっと心臓が痛む。普段ならここまでの暴言は無いのに、今日の部長は機嫌が悪い。

(あぁ、そうか、今日は定例会の日だったな)

部長以上の人間が月半ばに集まり部内報告を含めた意見交換を行う定例会。
おそらくその会の中で、営業部の万年最下位である僕の成績が議題に出たのだろう。

「原瀬さん、五月蝿いスよ、仕事の邪魔なんであっち行ってもらえます?」
「……は?」
「仕事の邪魔」

顎が外れたのかと言う位に大口を開けてしまった原瀬部長へ、右手でシッシッと追い払うような仕草を見せるのは、他でも無い、我が営業部の神様・蒼森だ。






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