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はじまりの灰かぶり

【閑話】ジャンパング小咄①

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「ジャンパングには他にどんな文化があるんだ?」

ジークが博識である側近に尋ねる。
驚異的な身体能力でミカエラに逃げられてしまい、己の無力さを嘆いていたアドは、ジークの突然の問いに一瞬言葉が詰まった。

「そう……ですねぇ…」
「俺が一つだけ知っている文化が、今のお前にピッタリなんだがな」
「今の私に…?」

アドが恐る恐るジークを見ると、『ニッコリ』した自分のあるじの顔にかち合う。アドは喉の奥で悲鳴を上げた。

「ハラキリ、と言ったか?失態を犯した者が自らの腹を捌くのだそうだ。最終的には介錯人に首を切られる」

チャキ、とジークの腰元の剣が鳴る。僅かな音だったが、アドを飛び上がらせるには充分だった。

「か、か、必ず!必ず彼女を殿下の前に捕らえて参ります!!どうか今一度名誉挽回の機会をくださいませぇぇぇぇ!!!!」

アドの絶叫を愉快そうに聞いたジークは、何もない空間をひと睨みする。

「良い。今回は見逃したチェルシャーに責を取らせる」
「ひどぉぉいなぁぁ。僕は見逃したんじゃなくて殿下に運命の出逢いをプレゼントしただけなのにぃ~」
「ブロンドと水色のドレスがお前のお気に入りと一緒だっただけだろう。……行け」
「クフフフフ♡」

一瞬だけ空間が揺らいで、シーンと静まり返る。
アドは自分がハラキリから逃れられたと息を吐く。

「ところでアド、お前はジャンパングのどんな文献を参考にしてるんだ?歴史書には『おもしれー女』なんて書いてなかった様に思うが…」

ディバリオーセン帝国には各国の歴史書を収めた図書館がある。ジークは自分の好奇心をそこで埋めているため、一生かかっても読みきれないと言われている蔵書の大半を読み終えているのだ。

「ジャンパングには『ジャンパニメーション』と称される文化がございまして、私が参考にしているのはその分野の一つである『マンガ』というものです!」

ジャン!とアドの懐から一冊の本が取り出される。

「絵が中心的なので、登場人物の心の機微を分かりやすく読み解くことが出来ます。その『マンガ』の中でも『少女マンガ』と呼ばれるジャンルを参考に殿下に助言致しました!」
「…ふん。この人物はなぜ公衆の面前で愛を誓っているんだ?」

アドから『マンガ』を受け取りパラパラとめくっていたジークが手を止めた。

「我が帝国ではあまり見かけませんが、人前での求婚は『少女マンガ』で時々見受けられます。なんでも独占欲を感じられて良い、と言う感情なのだとか…」
「ふん。独占欲は良く分からんが、大衆の目があれば断りようもないかも知れんな」
「……直ぐに準備を整えます」
「ああ。あの瞳は面白い。もっと近くで眺めてみたい」
「……明朝、必ず」

アドはジークに頭を下げながら、未来の皇后陛下を確実に陥落させる策を練る。

(殿下が一目惚れして口付けをしようとしたことにしよう!他の公爵令嬢に対して牽制しなくちゃだしな!!)

それぞれの思惑が絡み、翌朝を迎えるのだった。
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