黄昏時奇譚

歌川ピロシキ

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黄金の小鳥

いざなう木霊

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「さすがは律殿の従姉ぎみ! 全く気配を感じませんでしたぞ」

 気まずい空気をよそに、あずまが嬉しそうにさえずった。

「あら、おほめ頂いて光栄だわ。元気で可愛い小鳥さん」

 九条晶は小首をかしげて嫣然と笑うと、白い指先であずまの喉を撫でる。
 その悠然とした佇まいには女王然とした余裕が感じられる。教室で見せた気弱そうな表情が嘘のようだ。

「やれやれ。立ち聞きとは行儀が悪い。いったい何の用だい?」

 溜息まじりに尾崎が訊くと、彼女は意味ありげに微笑んだ。

「聞くつもりじゃなかったんだけど、聞こえてしまったのよ。私が欲しいモノがわかっているなら手っ取り早いわ。さ、早く喰らいあいましょう」

 甲斐は怯える律を背後に守るように押しやって、手を伸ばす彼女をにらみつけた。

「相手の意志も聞かずに強引すぎないか? 被害者の性別によらず、合意がなければ犯罪だぞ」

「何を勘違いしているの? 怖がらなくても大丈夫」

 晶はまるで取り合わず、甲斐の手を握ると軽く目を閉じた。

「いきなり何を!?」

 甲斐は怪訝そうに眉を寄せるが、ふと驚いたように自分の手をまじまじと見つめた。

「これはいったい……」

 何か温かく心地よいものが握られた手を通して入り込んで来るようだ。

「流れに逆らわずにゆったり深呼吸して。身体全体をぐるっと巡るような感じで」

 訳が分からないまま言われたとおりにすると、流れ込んできた温かなものが全身に満ちながらゆっくりと彼女に戻っていく気がする。
 よく武道などで気の流れがどうこうというが、これの事だろうか?

「なんだこれ。全身がぽかぽか温かい」

「ね、気持ち良いでしょ? あなたの霊力もとっても美味しいわ」

 うっとりと言う唇はぬめるように紅く、潤んだ瞳とあいまって強烈な色香を放っている。
 もっとも、甲斐は意外な言葉に戸惑うばかりで、色香にあてられる以前の問題のようだ。

「え? 俺の霊力?? 俺ってただの人間だけど」

「その子たちと一緒にいるから、知らない間に強くなってたのね」

 たおやかに指をさす先にはあずまと尾崎。
 なるほど、一時的とはいえあやかしの仔を宿していたうえ、強い力を持つあやかしと長時間ともに過ごしているうちに、知らぬ間に霊力を蓄えていたいたらしい。

「自覚していないと狙われるから、気を付けた方が良いわよ」

「あ、ありがとう」

 身構えていた甲斐はすっかり拍子抜けしてしまった。
 それは甲斐の背後でおびえていた律も同様で、言葉もなくただ大きな瞳をぱちぱちとまたたかせている。

「ね、怖がらなくても大丈夫だったでしょう?」

 向けられた柔らかな笑みに、二人ともつい素直にうなずいてしまってから首をひねる。
 いったいこれでよかったのだろうか?
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