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Sさんの場合

第五話 業務委託と法人解散

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 正式に業務委託契約を結んだ私は、9月16日までに最初に受け取った記事をすべて納品しました。そして13日、フォローアップ代金の33000円を振り込み、スクール側にLINEで連絡。すぐに確認が取れたと返信がありました。
 9月15日に新たな記事依頼を7本受けると、20日までにすべて納品。その20日に受け取った6本の依頼も25日までに全て納品と、次々と依頼をこなしていきました。

 季節の変わり目です。子どもが体調を崩して保育園を休む日が続き、昼間は子どもの面倒をみて夜中3時すぎまで書く日も多々ありました。しかし報酬が発生するお仕事なのだから、納期だけは絶対に守らなければ、と自分を奮い立たせて必死に頑張っていたのです。 
 ところが、そんな中で9月25日に代表のY氏から受講者全体LINEあての連絡がありました。
「9/25に報酬を入金予定でしたが、予想以上に工数が多くなり9/29に遅延します。今後は入金時の遅延が発生しないようシステムを自動化し、来月以降は25日に支払いを完了するように体制を整えてまいります」

 報酬は毎月末日締めで翌月25日に銀行振り込みにて送金されることになっています。その支払日当日になっての遅延連絡でした。
 本当に報酬が支払われるのか少し不安になりましたがどうすることもできません。ただいただいた案件に黙々と取り組むよりほかはありませんでした。

 翌日26日にもLINEで一斉連絡がありました。今回は発注から支払いまで一括管理できるフリーランス一括管理システム導入のお知らせでした。その後、システムの登録用URLとともに使い方動画のURLが送られてきました。
 今回は案件が多すぎて処理しきれなかっただけなのかもしれない。私は不安や疑念を無理やり押し込め、自分で自分を納得させて案件に取り組みました。記事提出後1週間以内にスクールから「修正依頼」が来るため、それにも対応しなければなりません。

 翌27日は翌月のスケジュール希望を提出する日です。私も10月分の記事案件の希望をLINEでスクール側に連絡すると、すぐに「スケジュールをありがとうございます。こちらで設定いたします」との返信がありました。

 これでまた来月もお仕事がいただける。そう思った翌日、9月28日の事です。少しおかしなことがありました。
 この日までに修正完了した記事の本数は15本。1本については、28日に修正依頼があって、私は一刻も早く修正しようとしていました。ところが、その日中にLINEで連絡があったのです。
「修正依頼をお渡ししましたが、クライアントから催促依頼がきたため、私どものほうでいったんFix記事を作成させていただきました。そのため修正稿の提出も不要で大丈夫です!!」

 慌てたような文面に、押し込めたはずの不安がまたむくむくと湧きあがって来るのを抑えきれず、この先どうなるのだろうと暗い気持ちになりました。
 卒業後の案件は、企業から依頼を受けてから2週間で納品と言われていました。だから、今日依頼が来て3日後とか、無茶を言う取引先からは案件受け付けてないので、心配しないでくださいね、と。
 このような催促があるなど今まで聞いたこともありません。一体何があったのでしょうか。

 そしてついに9月29日。代表のY氏から全体に向けて廃業を伝えるメッセージが送信されました。詳しい内容は以下の通りです。

・株式会社Mは令和4年9月29日をもって廃業する。
・クラウドソーシングサイトでの営業方法を変更したため、新規受講生が激減。
・勧誘方法の変更および取引先に悪評を流布された影響で企業からの案件が減少。
・資金繰りに奔走したものの、9月22日から27日にかけて株式会社Dによる特殊詐欺被害に遭った。被害についてはN県N警察署および顧問弁護士に相談済み。
・そのため報酬を支払う資金が用意できなかった。
・令和4年10月1日午前10時よりZoomにて説明会を開催する。
・早急に弁護士を通じて法人の破産手続きおよびY氏個人の自己破産手続きを開始する。
・破産手続きに伴い、受講生や債権者への分配を行う。
・これらの状況を講師や管理職への共有は本日まで行えていなかった。
・講師等の社員には責任がない
・急な廃業、破産となったことへの謝罪

 今まで、勧誘時に営業から見せられた資料と実際の講習内容や業務請負が違っていたり、契約書の文言が現状に即していなかったりと、気になっていたことや不安だったことがたくさんありました。気にしないようにと自分に言い聞かせていましたが、この通知を見てパズルのピースがはまるように腑に落ちたのです。
 あまりにも急な展開と、講師たちすら何も知らなかったという説明に、ようやく詐欺ではないかという疑念が、確信に近い疑惑へと変化したのはこの時のことです。

 私は矢も楯もたまらずLINEで問い合わせました。

「業務委託契約書にあった、受講生が書いた記事は御社に帰属するのはわかっていますが、対価が支払われないのであれば権利を返してほしいです。今後、第三者や別のニュースサイト等に自分の実績として公表していいのか、説明会の時に答えて下さい」

 すぐには既読がつかず、数時間後に既読にはなったものの、返信はありません。

 「講師の方もLINEを見ているのであれば、何らかのコンタクトをください。私の電話番号を記載します。LINEでもいいですので連絡をください」
 今回もなかなか既読がつかず、既読になっても返信はないままでした。

※ ※ ※

ディディ「何だか大変なことになっちゃったね」

エリィ 「今回は自己紹介は良いのか?」

ディディ「そういう場合じゃないでしょ。いきなり廃業宣言しちゃったよ」

エリィ 「まぁ、遅かれ早かれそうなっていただろうな」

ディディ「たしかにあやしかったけどさ……さすがに急すぎない?」

エリィ 「もともとこの時期に廃業するつもりだったんじゃないか? この月から委託業者として報酬を受け取る卒業生が一気に増えるわけだろう」

ディディ「そりゃそうだけど」

エリィ「万が一、破産手続き開始の申し立てをされてしまっていると、急いで対応しなければならないだろうな」

ディディ「そうか。正式に破産手続きの開始決定がなされれば、個別の債権者が直接法人に働きかけて返金や未払い金の請求をすることはできないものね」

エリィ 「もっとも、破産がブラフの可能性もあるが。いずれにせよ手続き開始の判断が下れば官報に掲載される」

ディディ「破産手続き開始の申込から裁判所の判断が下るまで最低1週間、長いと2か月だっけ」

エリィ 「その前の書類の準備なども大変だから、弁護士事務所が依頼を受けてから届け出を出すために2か月ほどかかるらしいぞ」

ディディ「いずれにせよのんびりしていられないね。早急に手を打たないと」

エリィ 「やみくもに助けてくれと騒いでもまた怪しい業者を呼び寄せるだけだからな。まず状況を整理して、細かなやりとりのスクリーンショットなどの証拠を揃えなければ」

ディディ「相談の仕方も大事だね。騙されました、助けてください! と言うだけでは何が問題か伝わらないから」

エリィ 「ああ。論点は三つだな。求人広告を装った、勧誘目的を告げない方法でライティングスクールの業務誘引販売取引の契約をさせられた。契約書は講座の終わり際に交わした。受講後の業務委託契約で請けた仕事を納品したにも関わらず報酬が支払われない」

ディディ「大手企業からの案件が多数あると言って勧誘していたようだけれども、実際に受けていたのはスクール内で使う架空案件で、受講生同士が授業中に出したアイデアを起業からの案件と偽って他の受講生に送っていたようだね」

エリィ 「詳しい話を聞かれるようなら、そちらもしっかり強調しておきたいな」

ディディ「色々な口実でちゃんとした契約書を交わすのを先延ばしされたってこともだね」

エリィ 「とにかく消費生活センターや警察、法テラス、フリーランス110番などの公的な窓口で相談すべきだな」
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