言の葉のかけら

歌川ピロシキ

文字の大きさ
上 下
43 / 65

逝く春のかなしみ

しおりを挟む
 わたくしがいけなかったのです。最期に懐かしい人々にお会いしたい。そう願ってしまった、わたくしが。
 初めはただの風邪のようでした。何となく体が怠く、熱っぽくて食欲がない。ごくありふれた、風邪の初期症状。
 そんな症状が二週間ほど続いたかと思うと、今度はいくら食べても空腹を感じるようになりました。

「回復期の身体が栄養を欲しているのだ」

 あの頃は、そう決めつけた老医師の言葉を信じ、快癒する日を心待ちにしていたものです。

 もう遅すぎると解ったのが冬のさなか。わたくしは雪解けとともに、末期の想い出を作るため、この懐かしい屋敷へ帰ってきました。
 そこで目にしたのは、愛しいあの方と妹が寄り添い笑い合う姿。

 今、恨み言を並べるのは簡単です。しかし、二人はこの世を去るわたくしに心を寄せたまま、永遠に苦しみ続けるでしょう。
 そんな恐ろしい未来より、愛するもの同士が同じ傷を抱えて労りあい、支えあう方が誰にとっても幸せなはず。

 ですから、わたくしは二人を祝福することにします。

「ふふ。二人が仲良くなってくれて嬉しいわ。とてもお似合いよ」

 わたくしは今、うまく笑えているでしょうか?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

処理中です...