言の葉のかけら

歌川ピロシキ

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逝く春のかなしみ

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 わたくしがいけなかったのです。最期に懐かしい人々にお会いしたい。そう願ってしまった、わたくしが。
 初めはただの風邪のようでした。何となく体が怠く、熱っぽくて食欲がない。ごくありふれた、風邪の初期症状。
 そんな症状が二週間ほど続いたかと思うと、今度はいくら食べても空腹を感じるようになりました。

「回復期の身体が栄養を欲しているのだ」

 あの頃は、そう決めつけた老医師の言葉を信じ、快癒する日を心待ちにしていたものです。

 もう遅すぎると解ったのが冬のさなか。わたくしは雪解けとともに、末期の想い出を作るため、この懐かしい屋敷へ帰ってきました。
 そこで目にしたのは、愛しいあの方と妹が寄り添い笑い合う姿。

 今、恨み言を並べるのは簡単です。しかし、二人はこの世を去るわたくしに心を寄せたまま、永遠に苦しみ続けるでしょう。
 そんな恐ろしい未来より、愛するもの同士が同じ傷を抱えて労りあい、支えあう方が誰にとっても幸せなはず。

 ですから、わたくしは二人を祝福することにします。

「ふふ。二人が仲良くなってくれて嬉しいわ。とてもお似合いよ」

 わたくしは今、うまく笑えているでしょうか?

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