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110話

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「お待たせしました」
そう言いながら応接室に姿を現したシルフェ様は、きっちりと団長服を着込んでいた。
白い手袋の釦を留めながら。
「シルフェ……様?どうか、なさったのでしょうか」
俺はシルフェ様を見上げて聞いた。
「大切な話があるのでしょう?お義父様、アーデルハイド侯爵を呼んだのだと」
長い外套を捌き、シルフェ様は俺の隣に腰掛けた。
ふわりと香るのは石鹸とあのコロン。
「はい、父様が来てからお話しします」
「わかりました。ルーカス、何か少し食べませんか?戦場には甘味が少ないため食べたくなってしまいました。ダーウェル摘める果物を」
「こちらに、ルーカス様もお好きな物を選んで持って参りましたのでおふたりでどうぞ」
並べられた皿に綺麗に盛り付けられた果物たち。
酸味の強めなものから甘いものまでよりどりみどりだ。
「冷たいですよルーカス、いかがですか?」
隣ではフェイがお茶をいれてくれている
「少しだけなら」
そう言ってフォークに手をのばすと、そのフォークが目の前で奪われた。
「では、何にしましょうか。甘いものがいいですか?」
「え?」
「ほら、ルーカス」
俺が口を開けると、シルフェ様が小さなブドウに似た果実にフォークを突き立て俺の口に運んだ。
「ん……甘い。美味しいですよシルフェ様」
「そうか、なら私もいただこう」
シルフェ様も果実を口にすると、もぐもくと口を動かした。
「美味いな、ルーカスもう一口どうだ?」
「いただきます。でも、フォークを借りても?シルフェ様に食べさせて差し上げたいです」
そう言うと、そっとシルフェ様の手からフォークを取り、少し酸味のある柑橘系の果実のむき身をシルフェ様の口に運ぶ。
その瞬間、シルフェ様が酸っぱそうに顔を顰めたが、果実を飲み込むと息を吐く。
「酸っぱいけれど、それが美味しいな」
「えぇ、シルフェ様たくさん食べてください。フェイのお茶もおいしいですよ」
そう言いながら、俺はシルフェ様に果物をすすめる。
俺は既にお腹いっぱいで食べられないからだ。
シルフェ様も俺の手から果物を食べてくれて一息ついたところでダーウェルがノックをして入ってきた。
アーデルハイド侯爵、父の来訪を告げるために。
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