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89話
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それから三日後。
俺はフェイに服を選んでもらう。
季節に合わせた薄桃色のロングワンピース。
ふわりと風に裾が翻るのがお気に入りだった。
髪を緩く編み上げて、フェイが珍しく髪留めを使う。
俺も、少しでもシルフェ様に綺麗だと思って貰えるように見せて欲しくて、いつもよりも長く支度をされているのも気にならなかった。
「お綺麗ですよ?」
フェイに最後のリップを塗って貰う。
「ありがとう。大変だっただろう?」
「いえ。シルフェ様がお待ちですから行きましょうか」
手早く片付けを終えたフェイが差し出してきた手を取り立ち上がる。
今日は何もいらないと言われたが、小さなタルトを焼いた。
フルーツタルト、チョコレートタルト、エッグタルト。
ルーカスの身体が料理を覚えているためか、料理の手際は悪くない。
「喜んでくれるかな」
フェイが包んでくれた小さめのバスケットからは甘い香りが微かにしている。
「え?」
目の前にあるのは、最上級の馬車。
シルフェ様が式典の時に使うような豪奢なもの。
「フェイ、馬車が間違っているよ?それとも誰かお客様が来るの?」
「間違っておりませんよ、どうぞルーカス様」
意味が分からぬまま、俺は馬車に座らされ二頭引きの白い馬車はゆっくりと動き出した。
そして、到着したのは騎士団だったがいつもとは違う裏口から馬車は進む。
垣根の奥には、小さな建物がありそこにはシルフェ様が待っていた。
だが、それは一人ではなく左右に五人ずつ騎士を引き連れている。
「どうして?」
俺の言葉に返事はなく消えていく。
馬車が止まると、ゆっくりと扉が開いた。
「ルーカス、早かったな」
「あの、シルフェ様……どうかされましたか?」
「あぁ、フェイこっちに」
シルフェ様の手を借りて馬車を降りると、左右に並んだ騎士たちが膝をつく。
俺はどうしていいか、おろおろとしてしまいながらシルフェ様に導かれるようにして建物の中に入る。
木の扉は重厚な造りで微かに軋んだ音をたてた。
「すまないルーカス、怒りは全て私が受ける……だから」
珍しくシルフェ様が言い淀むが、今度はフェイにこちらへと小部屋に連れて行かれ、その先で用意されたのは薄桃色の長いヴェールだった。
刺繍がふんだんに使われていて、見ただけで高価なものに見える。
「フェイ、何を……」
「ルーカス様、おめでとうございます」
にこりと笑うフェイに、漸くどう言う状況か分かった気がした。
「待って、俺……」
「シルフェ様を怒らないで差し上げてください。さぁ、ヴェールを付けますよ」
手早いフェイの作業で俺の髪にヴェールが掛けられる。
フェイがどうしてこのドレスを選んだか、わかった気がした。
「はら、ルーカス様泣いてはいけませんよ」
「でも。嬉しすぎる」
クスクス笑うフェイが持ったハンカチが目尻に当てられた。
俺はフェイに服を選んでもらう。
季節に合わせた薄桃色のロングワンピース。
ふわりと風に裾が翻るのがお気に入りだった。
髪を緩く編み上げて、フェイが珍しく髪留めを使う。
俺も、少しでもシルフェ様に綺麗だと思って貰えるように見せて欲しくて、いつもよりも長く支度をされているのも気にならなかった。
「お綺麗ですよ?」
フェイに最後のリップを塗って貰う。
「ありがとう。大変だっただろう?」
「いえ。シルフェ様がお待ちですから行きましょうか」
手早く片付けを終えたフェイが差し出してきた手を取り立ち上がる。
今日は何もいらないと言われたが、小さなタルトを焼いた。
フルーツタルト、チョコレートタルト、エッグタルト。
ルーカスの身体が料理を覚えているためか、料理の手際は悪くない。
「喜んでくれるかな」
フェイが包んでくれた小さめのバスケットからは甘い香りが微かにしている。
「え?」
目の前にあるのは、最上級の馬車。
シルフェ様が式典の時に使うような豪奢なもの。
「フェイ、馬車が間違っているよ?それとも誰かお客様が来るの?」
「間違っておりませんよ、どうぞルーカス様」
意味が分からぬまま、俺は馬車に座らされ二頭引きの白い馬車はゆっくりと動き出した。
そして、到着したのは騎士団だったがいつもとは違う裏口から馬車は進む。
垣根の奥には、小さな建物がありそこにはシルフェ様が待っていた。
だが、それは一人ではなく左右に五人ずつ騎士を引き連れている。
「どうして?」
俺の言葉に返事はなく消えていく。
馬車が止まると、ゆっくりと扉が開いた。
「ルーカス、早かったな」
「あの、シルフェ様……どうかされましたか?」
「あぁ、フェイこっちに」
シルフェ様の手を借りて馬車を降りると、左右に並んだ騎士たちが膝をつく。
俺はどうしていいか、おろおろとしてしまいながらシルフェ様に導かれるようにして建物の中に入る。
木の扉は重厚な造りで微かに軋んだ音をたてた。
「すまないルーカス、怒りは全て私が受ける……だから」
珍しくシルフェ様が言い淀むが、今度はフェイにこちらへと小部屋に連れて行かれ、その先で用意されたのは薄桃色の長いヴェールだった。
刺繍がふんだんに使われていて、見ただけで高価なものに見える。
「フェイ、何を……」
「ルーカス様、おめでとうございます」
にこりと笑うフェイに、漸くどう言う状況か分かった気がした。
「待って、俺……」
「シルフェ様を怒らないで差し上げてください。さぁ、ヴェールを付けますよ」
手早いフェイの作業で俺の髪にヴェールが掛けられる。
フェイがどうしてこのドレスを選んだか、わかった気がした。
「はら、ルーカス様泣いてはいけませんよ」
「でも。嬉しすぎる」
クスクス笑うフェイが持ったハンカチが目尻に当てられた。
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