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73話

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「フェイ、待たせちゃった?料理長さんも急な事で申し訳ないですが、パウンドケーキを焼きたくて材料とオーブンを少し貸してください」
夕食の支度は終わっていた厨房に、フェイが声を掛けてくれ端のキッチンを貸りた。
俺は用意してもらった材料を使いながらパウンドケーキを作り始める。
本当はレモンのスライスなども作りたかったが、そんな時間は無いため厨房から分けてもらったのを使用する。
最初は貴族が厨房に入るのかと変な視線を向けられたが、俺が作る様子を見てその視線は段々と無くなった。
「フェイ、オーブンは火加減をお願いしていい?」
「お任せ下さい」
アーデルハイド家で使っていたオーブンよりも新しい型式のオーブンらしくあたたまるのも早いし火加減もそれ程癖がないらしい。
フェイにそちらを任せて、俺は洗い物を始める。
久し振りに作ったのに作り方を忘れていなかったのが不思議なくらいだった。
「何か作りすぎちゃったかな……どのくらい持っていくのが普通なのかな」
家族以外の誰かに作ったことなどなかったから、自分のケーキがどのくらいの美味しさなのかわからない。
これなら買った方が良かっただろうかと不安に思いながらも焼き上がりを待つと、フェイが火加減を見つつオーブンを開けた。
ふわりと甘い香りが漂って、そちらを見るとしっかりと型に入れたパウンドケーキが膨らんでいる。
「成功かな?次もお願い」
フェイが金属の型をオーブンから取り出し、別の型を入れていく。
最終的に焼きあがったのはパウンドケーキ12本。
1本はフェイにレモンピールの入ったケーキ。
厨房を貸してもらったお礼に2本。
流石に9本を騎士団に持っていくには多いだろうと、他の侍従達に切って食べてもらうのに3本をダーウェルに頼むとシルフェ様から手紙が来ていると告げられた。
待って、シルフェ様手紙が早くない?
慌てて読むと、騎士団には好きな時に来ていいと書いてあった。
小隊長までには婚約の事を話してあると。
受付に名乗れば騎士団長室に案内をするようにしておくと。
その心遣いに嬉しくもあり恥ずかしくもある。
だけど、俺が出した手紙には騎士団に向かいたいとは書かなかったはずなのに。
でも、そんなこともおかしいとは思えないくらい俺は舞い上がってしまっていたようだ。
「フェイ、明日伺うのに服を選ばないと……お願い……」
「畏まりました」
焼き上がったパウンドケーキにナイフを入れて熱を取らなければいけないのに、俺の意識はシルフェ様に向かってしまう。
「ルーカス様、しっかりと磨き上げて差し上げますから、夕飯後に湯浴みを致しましょう」
「う、うん……フェイ、宜しく」
ただ合って話すだけだと言うのに、俺はどうも不審な動きをしてしまっていたと、後から聞いたのだ。
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