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72話

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「フェイ、これ」
シルフェ様のお屋敷に戻って、フェイにお茶をいれてもらいながら俺は今日買ったペンの包みを差し出した。
キョトンとした表情で俺を見るフェイの顔には意味がわからないという文字が書かれていそうな気がした。
「いつもお世話をしてもらっているから。書類の代筆とかもやってもらうし何かに使えるだろうからって」
「私に……ですか?」
「うん、本当はフェイの好みを聞きたかったんだけどさ、フェイに似合うかと思って黒いペンに百合……かな、白い花が書かれてたやつなんだ。インク壺いらないからフェイもポケットに入れて持ち歩けるだろ?だから、貰ってくれると嬉しいな」
「大切にします」
「うん、それと今日聞いた事をシルフェ様にそっと教えたいんだ……フェイ、手紙と焼き菓子を作るからシルフェ様に持って行ってくれる?」
「それならば、ルーカス様が行かれた方が……よろしくはありませんか?」
「俺が行ってご迷惑をお掛けしないかな……騎士団に俺の顔を知っている人がいる……あ、アサド様ならどうかな……アサド様からシルフェ様に手紙を渡していただくとか」
王子妃だった俺、花街にいた俺。
俺の顔を知る騎士が居ないとも限らない。
それに、シルフェ様と婚約したことを発表もしていないのだ。
「アサド様がどのような方かはわかりませんが……ルーカス様がお望みになるなら」
フェイは胸に手を当て頭を下げる。
「我儘言ってごめんね……フェイ」
「ルーカス様のお役に立てることが至福なのですから、どうか遠慮なさらずに」
幼い頃から一緒に居てくれたフェイ。
「ルーカス様、手紙と添えるものはクッキーにしますか?」
「パウンドケーキを焼こうかなと思って。シルフェ様はとても甘いものは好まないようだから酸味のある果物やドライフルーツを混ぜこもうかなと思ってるんだけど、多めに焼いたら皆で食べてくれるかなぁ?」
「ルーカス様の手作りなど騎士が羨ましいですね」
フェイから、羨ましいなどと言う単語を初めて聞いた気がした。
「なら、フェイには特別に焼くから何がいい?」
「レモンのパウンドケーキが」
「任せて。じゃあ、着替えていくから先に材料を揃えて置いてもらえる?」
「はい、では私は先に。その前にお着替えはソファーに置かせていただいております。着替えられないようならお待ちください」
そう言ってフェイは部屋を出ていった。
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