69 / 131
68話
しおりを挟む
「お帰りなさいませルーカス様」
ダーウェルが迎えてくれる。
「馬車をお借りしてありがとうございました。どうか、御者の方にもお礼を伝えてください」
「勿体ないことで。それと、シルフェ様からお手紙が届いておりますのでお部屋にお持ちいたしましょう」
「お願いします」
エントランス前で俺を待っていたダーウェルがそう頭を下げた。
「ダーウェルさん、俺もシルフェ様に手紙を出したいのだけれど、シルフェ様のお好きな色は何かなぁ。便箋とインク、封蝋のワックスを用意して貰ってもいいですか?それと、少しばかりですがお父様たちから焼き菓子をいただいてきたので皆で食べてください。足りるかなぁ?」
俺は黒い馬車亭から大きな焼き菓子が詰まった箱を購入してきていた。
諜報部員の拠点であると同時に、美味しい焼き菓子を扱うカフェも併設しているのは、そのカフェでのお喋りが情報収集に向いているからなのだ。
「ありがとうございます、皆でいただきます」
フェイが箱を五つ手にしている。
「フェイ、お願い。俺は部屋……ダーウェルさん、俺はどの部屋に戻ったらいい?昨日はシルフェ様がいらっしゃったので、シルフェ様の隣の部屋で過ごさせていただきましたが」
「ルーカス様のお部屋はシルフェ様の隣だとシルフェ様がお決めになられましたが」
「……ではシルフェ様が常に使われるお部屋は?」
「昨夜のお部屋になりますが?」
「……普通は、主の隣の寝室は正室というか……その……あの、俺……妾とかじゃ」
どうにも噛み合わない。
そう言えば、シルフェ様とも会話が噛み合っていなかった気が、今になったらしてきた。
あれ?と、フェイに振り向くと今更ですかとばかりに肩を竦められた。
「詳しい事はシルフェ様にお聞きになってください。私共はシルフェ様にルーカス様にあの部屋を使って貰うようにと厳命されておりますから。それに、婚約されたから、はルーカス様の言はシルフェ様の言葉として聞くようにとも伺っておりますよ?」
「まって、俺……ダーウェルさん!」
「シルフェ様もいらっしゃらないこの屋敷で今、シルフェ様に続いて私共の上にいらっしゃるのはルーカス様です、わたくしめに敬称など不要です。どうぞダーウェルとお呼びください」
ダーウェルの言葉に呼吸が止まりそうになる。
正室、側室であればそれなりに地位が高いのはわかる。
シルフェ様は騎士団長だから爵位も持っているから、選ばれるのは貴族の筈だ。
妾になれば侍従はつくが地位としては貴族ではない事が多いため、侍従とそれほど地位は変わらないだろう。
むしろ、家令なども爵位を有する場合もある。
だけど、俺はまだ妃ではなくこの屋敷の一員ですらない。
「ルーカス様、どうぞ私共をお導きください」
ダーウェルの笑顔に俺は卒倒しそうになった。
ダーウェルが迎えてくれる。
「馬車をお借りしてありがとうございました。どうか、御者の方にもお礼を伝えてください」
「勿体ないことで。それと、シルフェ様からお手紙が届いておりますのでお部屋にお持ちいたしましょう」
「お願いします」
エントランス前で俺を待っていたダーウェルがそう頭を下げた。
「ダーウェルさん、俺もシルフェ様に手紙を出したいのだけれど、シルフェ様のお好きな色は何かなぁ。便箋とインク、封蝋のワックスを用意して貰ってもいいですか?それと、少しばかりですがお父様たちから焼き菓子をいただいてきたので皆で食べてください。足りるかなぁ?」
俺は黒い馬車亭から大きな焼き菓子が詰まった箱を購入してきていた。
諜報部員の拠点であると同時に、美味しい焼き菓子を扱うカフェも併設しているのは、そのカフェでのお喋りが情報収集に向いているからなのだ。
「ありがとうございます、皆でいただきます」
フェイが箱を五つ手にしている。
「フェイ、お願い。俺は部屋……ダーウェルさん、俺はどの部屋に戻ったらいい?昨日はシルフェ様がいらっしゃったので、シルフェ様の隣の部屋で過ごさせていただきましたが」
「ルーカス様のお部屋はシルフェ様の隣だとシルフェ様がお決めになられましたが」
「……ではシルフェ様が常に使われるお部屋は?」
「昨夜のお部屋になりますが?」
「……普通は、主の隣の寝室は正室というか……その……あの、俺……妾とかじゃ」
どうにも噛み合わない。
そう言えば、シルフェ様とも会話が噛み合っていなかった気が、今になったらしてきた。
あれ?と、フェイに振り向くと今更ですかとばかりに肩を竦められた。
「詳しい事はシルフェ様にお聞きになってください。私共はシルフェ様にルーカス様にあの部屋を使って貰うようにと厳命されておりますから。それに、婚約されたから、はルーカス様の言はシルフェ様の言葉として聞くようにとも伺っておりますよ?」
「まって、俺……ダーウェルさん!」
「シルフェ様もいらっしゃらないこの屋敷で今、シルフェ様に続いて私共の上にいらっしゃるのはルーカス様です、わたくしめに敬称など不要です。どうぞダーウェルとお呼びください」
ダーウェルの言葉に呼吸が止まりそうになる。
正室、側室であればそれなりに地位が高いのはわかる。
シルフェ様は騎士団長だから爵位も持っているから、選ばれるのは貴族の筈だ。
妾になれば侍従はつくが地位としては貴族ではない事が多いため、侍従とそれほど地位は変わらないだろう。
むしろ、家令なども爵位を有する場合もある。
だけど、俺はまだ妃ではなくこの屋敷の一員ですらない。
「ルーカス様、どうぞ私共をお導きください」
ダーウェルの笑顔に俺は卒倒しそうになった。
290
お気に入りに追加
873
あなたにおすすめの小説
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。
にのまえ
恋愛
ここは乙女ゲームの世界。
悪役令嬢ルーチェは学園最後の舞踏会で、王子に婚約破棄されたてから、おいしく、たのしい日々がはじまる。
そんな、楽しい日々を送る彼女を追ってくるのは?
お読みいただきありがとうございます。
「婚約破棄をしたのだから、王子はわたしを探さないで!」から、タイトルを変更させていただき。
エブリスタ様で第一章(2022/9/29 )と第二章
(2023/4/3 )完結した話にかえさせていただきます。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる