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68話

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「お帰りなさいませルーカス様」
ダーウェルが迎えてくれる。
「馬車をお借りしてありがとうございました。どうか、御者の方にもお礼を伝えてください」
「勿体ないことで。それと、シルフェ様からお手紙が届いておりますのでお部屋にお持ちいたしましょう」
「お願いします」
エントランス前で俺を待っていたダーウェルがそう頭を下げた。
「ダーウェルさん、俺もシルフェ様に手紙を出したいのだけれど、シルフェ様のお好きな色は何かなぁ。便箋とインク、封蝋のワックスを用意して貰ってもいいですか?それと、少しばかりですがお父様たちから焼き菓子をいただいてきたので皆で食べてください。足りるかなぁ?」
俺は黒い馬車亭から大きな焼き菓子が詰まった箱を購入してきていた。
諜報部員の拠点であると同時に、美味しい焼き菓子を扱うカフェも併設しているのは、そのカフェでのお喋りが情報収集に向いているからなのだ。
「ありがとうございます、皆でいただきます」
フェイが箱を五つ手にしている。
「フェイ、お願い。俺は部屋……ダーウェルさん、俺はどの部屋に戻ったらいい?昨日はシルフェ様がいらっしゃったので、シルフェ様の隣の部屋で過ごさせていただきましたが」
「ルーカス様のお部屋はシルフェ様の隣だとシルフェ様がお決めになられましたが」
「……ではシルフェ様が常に使われるお部屋は?」
「昨夜のお部屋になりますが?」
「……普通は、主の隣の寝室は正室というか……その……あの、俺……妾とかじゃ」
どうにも噛み合わない。
そう言えば、シルフェ様とも会話が噛み合っていなかった気が、今になったらしてきた。
あれ?と、フェイに振り向くと今更ですかとばかりに肩を竦められた。
「詳しい事はシルフェ様にお聞きになってください。私共はシルフェ様にルーカス様にあの部屋を使って貰うようにと厳命されておりますから。それに、婚約されたから、はルーカス様の言はシルフェ様の言葉として聞くようにとも伺っておりますよ?」
「まって、俺……ダーウェルさん!」
「シルフェ様もいらっしゃらないこの屋敷で今、シルフェ様に続いて私共の上にいらっしゃるのはルーカス様です、わたくしめに敬称など不要です。どうぞダーウェルとお呼びください」
ダーウェルの言葉に呼吸が止まりそうになる。
正室、側室であればそれなりに地位が高いのはわかる。
シルフェ様は騎士団長だから爵位も持っているから、選ばれるのは貴族の筈だ。
妾になれば侍従はつくが地位としては貴族ではない事が多いため、侍従とそれほど地位は変わらないだろう。
むしろ、家令なども爵位を有する場合もある。
だけど、俺はまだ妃ではなくこの屋敷の一員ですらない。
「ルーカス様、どうぞ私共をお導きください」
ダーウェルの笑顔に俺は卒倒しそうになった。
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