64 / 131
63話
しおりを挟む
「行ってきます」
「お気をつけて」
抱き寄せられて頬へのキスをされると、傍に立つダーウェルに見られているのが恥ずかしかったが俺は少しだけ背伸びをしてシルフェ様の頬に返すようにキスをした。
それに驚いた表情を見せたシルフェ様だったが、嬉しそうに破顔してから名残惜しそうに俺の腰から手を離すと、馬を引いて待つ従僕から手綱を受け取りひらりとその場で跨った。
軽く馬の腹を蹴り、馬主を門に向けると流れるような動きで馬はそちらを向き歩き出す。
あれ、俺は記憶の片隅に何かが引っ掛かるのを感じた。
「……っ、ダーウェルさん……もしかしてシルフェ様は、陛下に呼び出されたのでしょうか。西国のテルシューラが攻めて来ると言う……」
「ルーカス様、陛下からの招集は私共にもわかりません。ですが、シルフェ様が大丈夫と仰ったのですから大丈夫です。ルーカス様はこの屋敷でゆっくりとされてシルフェ様のお戻りをお待ちください。私共で精一杯お世話させていただきますので」
ダーウェルは優しい笑みを浮かべて、四阿で食後のお茶でもいかがでしょうかと俺を促す。
でも、俺は知っていた。
王子ルートに入った場合、西国との戦が始まりそこで王子が主人公と手柄を立て、王太子となりハッピーエンドを迎える事を。
その時に、攻略対象であるキャラクターは命を落とす者もいる。
それは、ランダムのように見せ掛けて法則性があるのを俺は知っているが、やはり面識は無くとも死なれるのは嫌だ。
大団円であれば話は別だが、今の所シルフェ様と主人公の間に愛が生まれている感じはないのだけれど、俺が知らないだけかもしれない。
思い出せ、思い出せ……。
「ダーウェルさん、四阿でお茶をいただきながらお父様に手紙を書きたいのですが……よろしいですか?」
「便箋等はどのようなものをご用意いたしましょうか」
「可愛らしい花柄がいいのですが。それに合わせてエンジのインクをお願いしても?」
「畏まりました」
「フェイ、四阿まで案内をお願い」
「こちらです」
いつの間にかダーウェルの斜め後ろに控えていたフェイが、こちらへと俺を案内すると、ダーウェルは静かにレターセットを用意するのに下がっていった。
「フェイ、お父様に手紙を届けてくれる?急がないけど」
「畏まりました。近いうちに遊びに行かれてはいかがですか?カミル様もお会いになられるのをお待ちしていますよ?」
ゆっくりと四阿に向かうと、そこには既に軽食とレターセットが用意されていた。
「ダーウェルさんありがとうございます」
俺は礼を言うと、滅相もないと頭を振られ用がありましたらベルでお呼びくださいと言いながら下がっていくが、フェイは静かに傍らに立っている。
「フェイ、座っても大丈夫だよ?」
「いえ」
昔から椅子をすすめても頑として拒むフェイに、仕方ないねと笑いながら俺は椅子に座ると先ずはいれてもらったハーブティーを口にした。
「お気をつけて」
抱き寄せられて頬へのキスをされると、傍に立つダーウェルに見られているのが恥ずかしかったが俺は少しだけ背伸びをしてシルフェ様の頬に返すようにキスをした。
それに驚いた表情を見せたシルフェ様だったが、嬉しそうに破顔してから名残惜しそうに俺の腰から手を離すと、馬を引いて待つ従僕から手綱を受け取りひらりとその場で跨った。
軽く馬の腹を蹴り、馬主を門に向けると流れるような動きで馬はそちらを向き歩き出す。
あれ、俺は記憶の片隅に何かが引っ掛かるのを感じた。
「……っ、ダーウェルさん……もしかしてシルフェ様は、陛下に呼び出されたのでしょうか。西国のテルシューラが攻めて来ると言う……」
「ルーカス様、陛下からの招集は私共にもわかりません。ですが、シルフェ様が大丈夫と仰ったのですから大丈夫です。ルーカス様はこの屋敷でゆっくりとされてシルフェ様のお戻りをお待ちください。私共で精一杯お世話させていただきますので」
ダーウェルは優しい笑みを浮かべて、四阿で食後のお茶でもいかがでしょうかと俺を促す。
でも、俺は知っていた。
王子ルートに入った場合、西国との戦が始まりそこで王子が主人公と手柄を立て、王太子となりハッピーエンドを迎える事を。
その時に、攻略対象であるキャラクターは命を落とす者もいる。
それは、ランダムのように見せ掛けて法則性があるのを俺は知っているが、やはり面識は無くとも死なれるのは嫌だ。
大団円であれば話は別だが、今の所シルフェ様と主人公の間に愛が生まれている感じはないのだけれど、俺が知らないだけかもしれない。
思い出せ、思い出せ……。
「ダーウェルさん、四阿でお茶をいただきながらお父様に手紙を書きたいのですが……よろしいですか?」
「便箋等はどのようなものをご用意いたしましょうか」
「可愛らしい花柄がいいのですが。それに合わせてエンジのインクをお願いしても?」
「畏まりました」
「フェイ、四阿まで案内をお願い」
「こちらです」
いつの間にかダーウェルの斜め後ろに控えていたフェイが、こちらへと俺を案内すると、ダーウェルは静かにレターセットを用意するのに下がっていった。
「フェイ、お父様に手紙を届けてくれる?急がないけど」
「畏まりました。近いうちに遊びに行かれてはいかがですか?カミル様もお会いになられるのをお待ちしていますよ?」
ゆっくりと四阿に向かうと、そこには既に軽食とレターセットが用意されていた。
「ダーウェルさんありがとうございます」
俺は礼を言うと、滅相もないと頭を振られ用がありましたらベルでお呼びくださいと言いながら下がっていくが、フェイは静かに傍らに立っている。
「フェイ、座っても大丈夫だよ?」
「いえ」
昔から椅子をすすめても頑として拒むフェイに、仕方ないねと笑いながら俺は椅子に座ると先ずはいれてもらったハーブティーを口にした。
308
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています
倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。
今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。
そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。
ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。
エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる