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63話

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「行ってきます」
「お気をつけて」
抱き寄せられて頬へのキスをされると、傍に立つダーウェルに見られているのが恥ずかしかったが俺は少しだけ背伸びをしてシルフェ様の頬に返すようにキスをした。
それに驚いた表情を見せたシルフェ様だったが、嬉しそうに破顔してから名残惜しそうに俺の腰から手を離すと、馬を引いて待つ従僕から手綱を受け取りひらりとその場で跨った。
軽く馬の腹を蹴り、馬主を門に向けると流れるような動きで馬はそちらを向き歩き出す。
あれ、俺は記憶の片隅に何かが引っ掛かるのを感じた。
「……っ、ダーウェルさん……もしかしてシルフェ様は、陛下に呼び出されたのでしょうか。西国のテルシューラが攻めて来ると言う……」
「ルーカス様、陛下からの招集は私共にもわかりません。ですが、シルフェ様が大丈夫と仰ったのですから大丈夫です。ルーカス様はこの屋敷でゆっくりとされてシルフェ様のお戻りをお待ちください。私共で精一杯お世話させていただきますので」
ダーウェルは優しい笑みを浮かべて、四阿で食後のお茶でもいかがでしょうかと俺を促す。
でも、俺は知っていた。
王子ルートに入った場合、西国との戦が始まりそこで王子が主人公と手柄を立て、王太子となりハッピーエンドを迎える事を。
その時に、攻略対象であるキャラクターは命を落とす者もいる。
それは、ランダムのように見せ掛けて法則性があるのを俺は知っているが、やはり面識は無くとも死なれるのは嫌だ。
大団円であれば話は別だが、今の所シルフェ様と主人公の間に愛が生まれている感じはないのだけれど、俺が知らないだけかもしれない。
思い出せ、思い出せ……。
「ダーウェルさん、四阿でお茶をいただきながらお父様に手紙を書きたいのですが……よろしいですか?」
「便箋等はどのようなものをご用意いたしましょうか」
「可愛らしい花柄がいいのですが。それに合わせてエンジのインクをお願いしても?」
「畏まりました」
「フェイ、四阿まで案内をお願い」
「こちらです」
いつの間にかダーウェルの斜め後ろに控えていたフェイが、こちらへと俺を案内すると、ダーウェルは静かにレターセットを用意するのに下がっていった。
「フェイ、お父様に手紙を届けてくれる?急がないけど」
「畏まりました。近いうちに遊びに行かれてはいかがですか?カミル様もお会いになられるのをお待ちしていますよ?」
ゆっくりと四阿に向かうと、そこには既に軽食とレターセットが用意されていた。
「ダーウェルさんありがとうございます」
俺は礼を言うと、滅相もないと頭を振られ用がありましたらベルでお呼びくださいと言いながら下がっていくが、フェイは静かに傍らに立っている。
「フェイ、座っても大丈夫だよ?」
「いえ」
昔から椅子をすすめても頑として拒むフェイに、仕方ないねと笑いながら俺は椅子に座ると先ずはいれてもらったハーブティーを口にした。
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