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50話

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「……ふぁ」
あれから、明方近くまでシルフェ様と他愛のない話をしてから意識を失うように眠りに落ちてしまい、目覚めたら馬車の中だった。
静かに走る馬車からはガタガタと言う振動は少なく、だから俺も目を覚まさなかったのだけれど。
目覚めた視界の中には俺を見下ろすシルフェ様、どうやら俺はシルフェ様に膝枕をして貰っているような形だった。
慌てて身体を起こす。
それにしても、どうやって馬車まで運ばれたのか。
しかも、眠る時は薄い下着を辛うじて身に纏っていたのだが、視界に映る自らの身体には着た記憶が無い服を身に纏っていると言うことは……誰かに着せて貰った訳で。
「起きたか?」
「お、はようございます……」
恥ずかしさに顔を上げられずにいると、クスクス笑われ髪を撫でられた。
「なにか飲むか?もう少ししたら馬車を停めて休憩しようか」
瓶のコルクを抜いてグラスに注いだ水を差し出され、受け取ると口に含んだ。
「すみません……俺、一人で寝ちゃって。シルフェ様は寝てなかったりします?」
きっと俺の会話に付き合ってくれたから寝ていないのだろう。
「大丈夫だ、眠くなったら馬車だからいつでも眠れるし、可愛いルーカスの寝顔が見れるなら勿体無いじゃないか」
「そんな、廓でも一緒に寝ていたことも……まさか、ずっと起きていらっしゃった?」
俺の問い掛けにバレたかとばかりに少し眉を上げたシルフェ様。
「いや、ちゃんと眠くなった時は寝たし、元々睡眠は短い方だから問題ない」
「でも……シルフェ様、ちゃんと眠らないと……シルフェ様が眠れないなら一緒に眠らない方がいいです?シルフェ様が安心して眠れる場所になりたいです」
俺だと心許ないかもしれないけれど。シルフェ様に抱き締められて眠るのも嬉しいが、抱き締めても眠りたい。
「う、一緒に眠りたい。ルーカスを抱き締めているだけで幸福なんだ……そのうち慣れたら眠れるようになると思う」
まるで駄々っ子のように言うシルフェ様にくすりと笑ってしまいつつも、俺はシルフェ様に抱きついた。
「シルフェ様がそう言ってくださるなら」
そんな言葉遊びの中ならば、大丈夫だろう。
俺は本気にしてはいけないのはわかっているからと、シルフェ様の望むようにと頷いた。
きっと、シルフェ様のお屋敷に到着すればそんなことも叶わなくなる。
眠る場所があるだけでも御の字なのだ。
自分は、愛人なのだと。
せめて馬車の中だけでも幸せな時間を過ごしたいと思ってしまったのだった。
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