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36話

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「では、ルーカス嬢また参ります」
「いってらっしゃいませ」
王都に戻りたくないとずっとごねていたシルフェ様。
夜通し馬を掛けさせてギリギリ時間内に到着すると言う時間まで何だかんだで居てくれた。
見送りをと、楼閣の出口まで降りた俺は、渋るシルフェ様の背中をそっと押した。
また来てくれるという言葉だけで嬉しい。
いつ来てくれるかなどと聞けない。
だから、いってらっしゃいと言葉にする。
「行ってきます」
嬉しそうに笑ったシルフェ様はそっと俺を抱き締めてから唇にキスをした。
背中で声が上がったが、そちらを向くことはできず慌てて自分の唇を押さえると、髪を撫でたシルフェ様が今度はチュッとこめかみにキスをしてから名残惜しそうな表情を浮かべて今度こそは離れていく。
ひらひらと手を振ってから、愛馬に跨がると今度こそはこちらを向かず馬の脇腹を蹴って駆け出して行く。
無理はしないで欲しい。
お気をつけと、俺は胸の前で手を組んで祈るように見送った。
その背中が小さくなりやがて消えてしまうと漸く俺はよろよろと動き出す。
郭に戻ると、お姉様方から囲まれた。
質問攻めにあって漸く逃げられたのは店が開く前で、かなり赤裸々な事を喋った気もする。
ひょっこりと楼主様が顔を見せると、手招きをされた。
「お前らは店を開ける準備だ、散った散った!」
漸くお姉様方から解放された俺は楼主に呼ばれると、後をついていく。
そして、応接間に通された。
「まぁ、座れ……お前に聞かなきゃならないことがいくつかあってな?」
「は、はい」
隠すことなどない。
いや、俺がこの世界の設定を知っていることは隠さないとならないのだけれど。
それ以外ならたぶん答えられるだろう。
座れと顎で示されたソファーに俺は腰掛ける。
向かい合うようにして楼主様が座った。
軟らかく沈むソファーは、慣れていなくて落ち着かない。
「……で、お前は当面店に出なくていい。ひと月単位で買い上げられているからな……」
楼主様がそう言う。
「買い上げられているというのは?」
意味がわからなくて俺は聞いた。
「言葉通り、花代を先に貰った」
だから、店で客を取らなくていいのだという。
花代とは、私達を買う時の代金の名前だ。
「だから、店に居てはいいけれど客は取らせられない」
楼主様が小さく顔を歪めた。
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