7 / 131
6話
しおりを挟む
早朝、屋敷の中の馬車を1台と御者を借りて家を出た。
肩幅くらいの小さなトランクには最低限の下着。
少しのドライフルーツ。
数日間の旅費。
自分は良いが御者や馬が休めるところは必要だし、もし余れば御者に謝礼として渡せばいい。
もちろん、御者の帰りの旅費も必要なのだから。
「お父様、お兄様行って参ります」
もう、この屋敷に戻ることは無いだろうけれど。
笑顔で旅立とうと決めている。
ギュッギュッとふたりにハグをしてから離れた。
「では」
見送りは要らないと伝えてあるため、門の前には馬車と御者、父と兄と自分だけ。
幼い弟たちはまだ眠っているだろう。
きっと行かないでと泣かれてしまうと後ろ髪を引かれてしまうから。
「気をつけてな」
「手紙を書いて……」
ふたりの言葉にこくりと頷いてから馬車に乗り込む。
パタンと扉が閉まると、窓から外を見た。
手を振るふたりに手を振り返すとガタンと音がして馬車が動き出す。
石畳がやがて土に変わる。
城壁が見えなくなった頃に漸く息を吐き出すと涙が零れ落ちた。
泣くもんかと、唇を噛み締めていたが、緊張の糸が切れたのだろうか。
涙を止めようと目頭を押さえたが涙は止まることがなく、手にしていたハンカチがしっとりと濡れてしまった。
暫くして馬車が木々の間を抜けていく。
道は人が通るため石畳のように整備はされていないが、馬車が通るには問題ない広さでありガタガタと揺れるのは借りた馬車だからだろう。
時折身体が左右へ振られ、慌てて壁へ身体を預ける。
馬車で郊外へ出掛けるなどという経験もあまり無かったため、目に映る景色が珍しいなと馬車の窓から外を見ていた。
御者は慣れているのだろう、時折休憩をとりながら街を目指す。
陽が傾き始める前には小さな宿に泊まり、食事と寝室を借りた。
身の回りの事はすべて自分でしなければならないが、修道院へ行けばそれが当然な事だろう。
まだ、温かい食事に柔らかい寝台があるだけいいのだと思わなくてはならない。
三日め、狭い道を向かいから来た馬車とすれ違う事が難しいから、1度馬車を降りて欲しいと御者に言われた。
確かに反対側からも馬車が来る。
しかも、2頭引きだ。
「構わない、こちらはできるだけ端へ寄ろうか」
開かれた扉から外へ出て、御者の指示に従おうと馬車から離れた瞬間、何かがドサッと落ちた音がした。
「どうした?」
声を掛けたが御者の姿がない。
辺りを見回した瞬間、後ろから押さえられ、何か鼻と口を布で塞がれて俺の意識は暗転した。
肩幅くらいの小さなトランクには最低限の下着。
少しのドライフルーツ。
数日間の旅費。
自分は良いが御者や馬が休めるところは必要だし、もし余れば御者に謝礼として渡せばいい。
もちろん、御者の帰りの旅費も必要なのだから。
「お父様、お兄様行って参ります」
もう、この屋敷に戻ることは無いだろうけれど。
笑顔で旅立とうと決めている。
ギュッギュッとふたりにハグをしてから離れた。
「では」
見送りは要らないと伝えてあるため、門の前には馬車と御者、父と兄と自分だけ。
幼い弟たちはまだ眠っているだろう。
きっと行かないでと泣かれてしまうと後ろ髪を引かれてしまうから。
「気をつけてな」
「手紙を書いて……」
ふたりの言葉にこくりと頷いてから馬車に乗り込む。
パタンと扉が閉まると、窓から外を見た。
手を振るふたりに手を振り返すとガタンと音がして馬車が動き出す。
石畳がやがて土に変わる。
城壁が見えなくなった頃に漸く息を吐き出すと涙が零れ落ちた。
泣くもんかと、唇を噛み締めていたが、緊張の糸が切れたのだろうか。
涙を止めようと目頭を押さえたが涙は止まることがなく、手にしていたハンカチがしっとりと濡れてしまった。
暫くして馬車が木々の間を抜けていく。
道は人が通るため石畳のように整備はされていないが、馬車が通るには問題ない広さでありガタガタと揺れるのは借りた馬車だからだろう。
時折身体が左右へ振られ、慌てて壁へ身体を預ける。
馬車で郊外へ出掛けるなどという経験もあまり無かったため、目に映る景色が珍しいなと馬車の窓から外を見ていた。
御者は慣れているのだろう、時折休憩をとりながら街を目指す。
陽が傾き始める前には小さな宿に泊まり、食事と寝室を借りた。
身の回りの事はすべて自分でしなければならないが、修道院へ行けばそれが当然な事だろう。
まだ、温かい食事に柔らかい寝台があるだけいいのだと思わなくてはならない。
三日め、狭い道を向かいから来た馬車とすれ違う事が難しいから、1度馬車を降りて欲しいと御者に言われた。
確かに反対側からも馬車が来る。
しかも、2頭引きだ。
「構わない、こちらはできるだけ端へ寄ろうか」
開かれた扉から外へ出て、御者の指示に従おうと馬車から離れた瞬間、何かがドサッと落ちた音がした。
「どうした?」
声を掛けたが御者の姿がない。
辺りを見回した瞬間、後ろから押さえられ、何か鼻と口を布で塞がれて俺の意識は暗転した。
349
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています
倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。
今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。
そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。
ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。
エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる