上 下
34 / 51

34話

しおりを挟む
馬車が止まる。
扉か開いたその先にはずらりと並んだ近衛騎士。
フェンリエッタ達を捕縛できるようにと並んでいるように見えるが、それは心配しなくてもいいだろう。
何せ、そのトップに立つのは馬車と並走してきたラウル叔父様なのだから。

「道を開けろ」

ラウルの言葉に一斉に騎士達は道を作る。
その入口までの道のりを侯爵を先頭に5人が歩いていく。
その扉の前でひとり男性が立っていた。
父親と何やら視線を交わし頷き合うと扉を開けてくれる。

「ゲンティアナ侯爵様並びに婦人、ご令嬢、リコリス卿がお見えになりました」

そう声を掛けてくれた男性は、こちらに軽く礼をすると、くるりと外を向き直した。
赤いカーペットの両脇には騎士が等間隔で立つ。
その間をフェンリエッタは前だけを見据えて歩いていく。

「陛下は中に?」

謁見の間を通り越したその先、応接間の扉が開いている。
立ち止まった侯爵が、入口手前の騎士に聞く。

「いえ、まだいらっしゃっておりません」
「そうか…ゲンティアナ、我々は長くは待たない。半刻以上待たせるのであれば、交渉は決裂と伝えてくれ」
「了解」

昨夜のうちに渡してあるのだろう回答を、ラウルはポケットを確認してから行ってくると踵を返した。

「さて、どのくらい待つのか…ゆっくりしようか」
「えぇ、フェンリエッタもいらっしゃい、待たせるのだものお茶くらいはでましてよねぇ?」

ちらりと義母が扉の方を見ると、只今!とばかりに近くに居た近衛騎士が駆けていく。
義母はまだまだねぇとコロコロ笑っていた。

「お父様…」
「直ぐに来なかったから、今日はあちらが待たせてやろうと思っているのだろうけれど、こちらは待たないからね?」
「取り敢えず此処にこちらからの要請は書いてあるから、読んでみる?」

義母がドレスの中…まさか、胸の間?から取り出したのは1枚の紙。
ベルナルドと中を読むと、無理難題が書いてあった。
まさか、本当に?

「あら、フェンリエッタちゃんを虐めたのだもの…許さないわよ?王家のボンクラも、あのヒュアキントスもね?その程度の事ができないのなら潰れておしまいなさい」

赤く染めた唇を弓のようにして笑みを作った義母は扇を口許に当てて嗤う。
父もその義母を見ながら肩を竦めた。

…国家予算の3割を即座に返却すること。
最後の1文にフェンリエッタの背中はゾクゾクした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

才女の婚約者であるバカ王子、調子に乗って婚約破棄を言い渡す。才女は然るべき処置を取りました。

サイコちゃん
ファンタジー
王位継承権を持つ第二王子フェニックには才女アローラという婚約者がいた。フェニックは顔も頭も悪いのに、優秀なアローラと同格のつもりだった。しかも従者に唆され、嘘の手柄まで取る。アローラはその手柄を褒め称えるが、フェニックは彼女を罵った。そして気分が良くなってるうちに婚約破棄まで言い渡してしまう。すると一週間後、フェニックは王位継承権を失った――

妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています

今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。 それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。 そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。 当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。 一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

処理中です...