11 / 51
11話
しおりを挟む
馬車が止まり、扉が開く。
先に降りたベルナルドが差し出した手を取りフェンリエッタは馬車から下りる。
「フェンリエッタちゃん、お帰りなさい!」
「!」
ぎゅうぎゅうと抱き付いてきたのは、義母。
「お、お義母さま?」
「お帰りなさい、寂しかったわぁ…」
「あねうえぇ…」
足元にまとわりついてきたのは異母弟のアルフレッド。
小さかった弟が、いつの間にかフェンリエッタの腹部まで頭が届くようになっている。
「アルフレッドただいま。お客様の前ですよ」
よしよしとアルフレッドの頭を撫でたフェンリエッタは、そっとアルフレッドを引き剥がし、ベルナルドの方を向かせた。
「しつれいいたしました、リコリスさま、ようこそおこしくださいました」
たどたどしいが、しっかりと歓迎の言葉を口に出来たアルフレッドは、どうだとばかりにフェンリエッタを見上げる姿が可愛い。
「良く言えましたね、アルフレッド」
義母もアルフレッドを誉める。
「お義母様、お父様はまだお戻りに?」
「ええ、今頃王宮は阿鼻叫喚かと思うのだけれども…まぁ、仕方ないわよねぇ。
ベルナルド様、少しお待ちくださいませね?その間、フェンリエッタに庭を案内させますわ。
フェンリエッタちゃん、着替えていらっしゃい」
義母の有無を言わさない言葉に、ベルナルドに失礼いたしますと頭を下げてフェンリエッタは部屋に向かう。
自室の前で待ち構えていた侍女長等に制服を脱がされて、動きやすいドレスに着替えさせられる。
来客の格に失礼に当たらない程度の服装と装飾。
春先に芽吹く若草と新緑のストライプ。
フェンリエッタの細さを強調するデザインは流行りとはかけ離れているのだが、それでも野暮ったく見えないのは着る人間がフェンリエッタだからだろう。
着替えを終えると、侍女が冷たいお茶を出してくれ、フェンリエッタは行儀悪くもそれを一気に呷った。
「さぁ、行って参りますわ」
ベルナルドを待たせてしまっているし、お義母様は王室に対してカンカンだ。
優しい笑顔の下が活火山なのをフェンリエッタは知っている。
後からお父様だけでなく、お義母様にもお話をしなければなりませんわねと、フェンリエッタは頭痛がしそうになる頭を押さえて苦笑する。
扉を開くと、其処には家令。
「ただいまセバス」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
ピンとのびた背骨は60歳を越えているとは思えないほど若々しく、フェンリエッタを先導するようにきびきびと歩く。
「お父様はいつ頃?」
「お嬢様のお帰りまでには戻るとの事でしたが…」
胸元から取り出した懐中時計で時間を確認して軽く頭を振る。
義母の言う通り、阿鼻叫喚なのだろう。
フェンリエッタは困ったわねと目を伏せた。
先に降りたベルナルドが差し出した手を取りフェンリエッタは馬車から下りる。
「フェンリエッタちゃん、お帰りなさい!」
「!」
ぎゅうぎゅうと抱き付いてきたのは、義母。
「お、お義母さま?」
「お帰りなさい、寂しかったわぁ…」
「あねうえぇ…」
足元にまとわりついてきたのは異母弟のアルフレッド。
小さかった弟が、いつの間にかフェンリエッタの腹部まで頭が届くようになっている。
「アルフレッドただいま。お客様の前ですよ」
よしよしとアルフレッドの頭を撫でたフェンリエッタは、そっとアルフレッドを引き剥がし、ベルナルドの方を向かせた。
「しつれいいたしました、リコリスさま、ようこそおこしくださいました」
たどたどしいが、しっかりと歓迎の言葉を口に出来たアルフレッドは、どうだとばかりにフェンリエッタを見上げる姿が可愛い。
「良く言えましたね、アルフレッド」
義母もアルフレッドを誉める。
「お義母様、お父様はまだお戻りに?」
「ええ、今頃王宮は阿鼻叫喚かと思うのだけれども…まぁ、仕方ないわよねぇ。
ベルナルド様、少しお待ちくださいませね?その間、フェンリエッタに庭を案内させますわ。
フェンリエッタちゃん、着替えていらっしゃい」
義母の有無を言わさない言葉に、ベルナルドに失礼いたしますと頭を下げてフェンリエッタは部屋に向かう。
自室の前で待ち構えていた侍女長等に制服を脱がされて、動きやすいドレスに着替えさせられる。
来客の格に失礼に当たらない程度の服装と装飾。
春先に芽吹く若草と新緑のストライプ。
フェンリエッタの細さを強調するデザインは流行りとはかけ離れているのだが、それでも野暮ったく見えないのは着る人間がフェンリエッタだからだろう。
着替えを終えると、侍女が冷たいお茶を出してくれ、フェンリエッタは行儀悪くもそれを一気に呷った。
「さぁ、行って参りますわ」
ベルナルドを待たせてしまっているし、お義母様は王室に対してカンカンだ。
優しい笑顔の下が活火山なのをフェンリエッタは知っている。
後からお父様だけでなく、お義母様にもお話をしなければなりませんわねと、フェンリエッタは頭痛がしそうになる頭を押さえて苦笑する。
扉を開くと、其処には家令。
「ただいまセバス」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
ピンとのびた背骨は60歳を越えているとは思えないほど若々しく、フェンリエッタを先導するようにきびきびと歩く。
「お父様はいつ頃?」
「お嬢様のお帰りまでには戻るとの事でしたが…」
胸元から取り出した懐中時計で時間を確認して軽く頭を振る。
義母の言う通り、阿鼻叫喚なのだろう。
フェンリエッタは困ったわねと目を伏せた。
25
お気に入りに追加
4,220
あなたにおすすめの小説
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵家の令嬢だったシアには結婚して七年目になる夫がいる。
夫との間には娘が一人おり、傍から見れば幸せな家庭のように思えた。
が、しかし。
実際には彼女の夫である公爵は元メイドである愛人宅から帰らずシアを蔑ろにしていた。
彼女が頼れるのは実家と公爵邸にいる優しい使用人たちだけ。
ずっと耐えてきたシアだったが、ある日夫に娘の悪口を言われたことでとうとう堪忍袋の緒が切れて……!
ついに虐げられたお飾りの妻による復讐が始まる――
夫に報復をするために動く最中、愛人のまさかの事実が次々と判明して…!?
「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。
下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。
レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は?
小説家になろう様でも投稿しています。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
(完結)姉と浮気する王太子様ー1回、私が死んでみせましょう
青空一夏
恋愛
姉と浮気する旦那様、私、ちょっと死んでみます。
これブラックコメディです。
ゆるふわ設定。
最初だけ悲しい→結末はほんわか
画像はPixabayからの
フリー画像を使用させていただいています。
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
テンプレを無視する異世界生活
ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。
そんな彼が勇者召喚により異世界へ。
だが、翔には何のスキルもなかった。
翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。
これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である..........
hotランキング2位にランクイン
人気ランキング3位にランクイン
ファンタジーで2位にランクイン
※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。
※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。
「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。
その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。
自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる