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11話

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馬車が止まり、扉が開く。
先に降りたベルナルドが差し出した手を取りフェンリエッタは馬車から下りる。

「フェンリエッタちゃん、お帰りなさい!」
「!」

ぎゅうぎゅうと抱き付いてきたのは、義母。

「お、お義母さま?」
「お帰りなさい、寂しかったわぁ…」
「あねうえぇ…」

足元にまとわりついてきたのは異母弟のアルフレッド。
小さかった弟が、いつの間にかフェンリエッタの腹部まで頭が届くようになっている。

「アルフレッドただいま。お客様の前ですよ」

よしよしとアルフレッドの頭を撫でたフェンリエッタは、そっとアルフレッドを引き剥がし、ベルナルドの方を向かせた。

「しつれいいたしました、リコリスさま、ようこそおこしくださいました」

たどたどしいが、しっかりと歓迎の言葉を口に出来たアルフレッドは、どうだとばかりにフェンリエッタを見上げる姿が可愛い。

「良く言えましたね、アルフレッド」

義母もアルフレッドを誉める。

「お義母様、お父様はまだお戻りに?」
「ええ、今頃王宮は阿鼻叫喚かと思うのだけれども…まぁ、仕方ないわよねぇ。
ベルナルド様、少しお待ちくださいませね?その間、フェンリエッタに庭を案内させますわ。
フェンリエッタちゃん、着替えていらっしゃい」

義母の有無を言わさない言葉に、ベルナルドに失礼いたしますと頭を下げてフェンリエッタは部屋に向かう。
自室の前で待ち構えていた侍女長等に制服を脱がされて、動きやすいドレスに着替えさせられる。
来客の格に失礼に当たらない程度の服装と装飾。
春先に芽吹く若草と新緑のストライプ。
フェンリエッタの細さを強調するデザインは流行りとはかけ離れているのだが、それでも野暮ったく見えないのは着る人間がフェンリエッタだからだろう。
着替えを終えると、侍女が冷たいお茶を出してくれ、フェンリエッタは行儀悪くもそれを一気に呷った。

「さぁ、行って参りますわ」

ベルナルドを待たせてしまっているし、お義母様は王室に対してカンカンだ。
優しい笑顔の下が活火山なのをフェンリエッタは知っている。
後からお父様だけでなく、お義母様にもお話をしなければなりませんわねと、フェンリエッタは頭痛がしそうになる頭を押さえて苦笑する。

扉を開くと、其処には家令。

「ただいまセバス」
「お帰りなさいませ、お嬢様」

ピンとのびた背骨は60歳を越えているとは思えないほど若々しく、フェンリエッタを先導するようにきびきびと歩く。

「お父様はいつ頃?」
「お嬢様のお帰りまでには戻るとの事でしたが…」

胸元から取り出した懐中時計で時間を確認して軽く頭を振る。
義母の言う通り、阿鼻叫喚なのだろう。
フェンリエッタは困ったわねと目を伏せた。
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