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9話 ベルナルド視点
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ざわざわとざわめく広間。
その真ん中にいたのは、この国の王子と愛人、そしてその婚約者。
何を…と、壁に凭れながらそれを見ていた。
留学をすることになり、入った隣国の学院。
学院の卒業と同時に国へ帰るつもりでいたため、親しい友人等を作って来なかったのは自分なのだが、それでも気になる人はいた。
その中のひとりが、輪の中心にいる人物。
フェンリエッタ・ゲンティアナ侯爵令嬢。
白く滑らかな肌。
白銀色の髪は結い上げてドレスと同じ紫色の花で飾っている。
どの令嬢も勝ち得ない圧倒的な美貌に、博識。
打てば響く穏やかな話し方に最初は驚いた。
自分の気持ちが惹かれていくのがわかったが、彼女はこの学園に入る前から第2王子と婚約をしており、気になってもどうすることもできなかった。
流石に俺にも常識はあるつもりだ。
だが、それが崩れたのはすぐだった。
王子の取り出した紙。
右下に書かれているのは遠目からふたりの名前だとわかった。
何をしているかはわからないが、その紙を王子が破り捨てたときに何かが変わった。
それは感覚的なこと。
何かが切れたような不思議な感じがした。
…何があった。
周囲が固唾を飲んでそれを見ている。
「わかりました、フェルディナンド様ごきげんよう。お幸せに」
フェンリエッタの静かで心地好い声が王子に対して別れを告げる。
ゆっくりと、完璧な臣下の礼をしてから周囲を見渡して胸を張るその高貴な姿に俺は足を踏み出していた。
誰の物でも無くなったのならいいだろう?
「馬鹿らしい」
俺の声は良く通った。
訪れた静寂。
その中で俺の靴音がコツリコツリと鳴る。
近づく度に道が開けた。
「フェンリエッタ嬢、この場で貴方に結婚を申し込みたい」
ハッとした表情を浮かべたフェンリエッタだったが、すっと表情を消す。
「何を仰っているのか、わかりませんわリコリス様」
俺の名前を知ってくれていた。
それだけでいい。
口許に笑みを浮かべてその手を取り、ゆっくりとその綺麗な手の甲に口吻ける。
本来触れてはいけないその場所に軽く触れると、指先に力が込められ失礼だと平手打ちが来ることを覚悟したがそれは訪れず、その代わりにじわりと浮き上がったのは聖女の証。
それに驚きもしたが納得もした。
自分が気になった女性なのだ、聖女でない筈はない。
戸惑うフェンリエッタをそっと連れ出して会場の外に出る。
夜風に身体を震わせたフェンリエッタに自分の上着を脱いで着せ掛ける。
それを拒むことはなくフェンリエッタは受け入れた。
細い身体。
折れてしまいそうなその身体を気丈に振る舞い促した噴水へと向かう。
そこで座った彼女はしげしげとその痣を見ていた。
俺はそっと手袋を差し出す。
家紋の入った手袋だ。
それをフェンリエッタは受け取った。
手袋を渡す意味、受けとる意味。
おそらく彼女は知らないだろうが、逃がすつもりはない。
優しく声をかけ俺は深夜まで彼女のお喋りに付き合うのだった。
その真ん中にいたのは、この国の王子と愛人、そしてその婚約者。
何を…と、壁に凭れながらそれを見ていた。
留学をすることになり、入った隣国の学院。
学院の卒業と同時に国へ帰るつもりでいたため、親しい友人等を作って来なかったのは自分なのだが、それでも気になる人はいた。
その中のひとりが、輪の中心にいる人物。
フェンリエッタ・ゲンティアナ侯爵令嬢。
白く滑らかな肌。
白銀色の髪は結い上げてドレスと同じ紫色の花で飾っている。
どの令嬢も勝ち得ない圧倒的な美貌に、博識。
打てば響く穏やかな話し方に最初は驚いた。
自分の気持ちが惹かれていくのがわかったが、彼女はこの学園に入る前から第2王子と婚約をしており、気になってもどうすることもできなかった。
流石に俺にも常識はあるつもりだ。
だが、それが崩れたのはすぐだった。
王子の取り出した紙。
右下に書かれているのは遠目からふたりの名前だとわかった。
何をしているかはわからないが、その紙を王子が破り捨てたときに何かが変わった。
それは感覚的なこと。
何かが切れたような不思議な感じがした。
…何があった。
周囲が固唾を飲んでそれを見ている。
「わかりました、フェルディナンド様ごきげんよう。お幸せに」
フェンリエッタの静かで心地好い声が王子に対して別れを告げる。
ゆっくりと、完璧な臣下の礼をしてから周囲を見渡して胸を張るその高貴な姿に俺は足を踏み出していた。
誰の物でも無くなったのならいいだろう?
「馬鹿らしい」
俺の声は良く通った。
訪れた静寂。
その中で俺の靴音がコツリコツリと鳴る。
近づく度に道が開けた。
「フェンリエッタ嬢、この場で貴方に結婚を申し込みたい」
ハッとした表情を浮かべたフェンリエッタだったが、すっと表情を消す。
「何を仰っているのか、わかりませんわリコリス様」
俺の名前を知ってくれていた。
それだけでいい。
口許に笑みを浮かべてその手を取り、ゆっくりとその綺麗な手の甲に口吻ける。
本来触れてはいけないその場所に軽く触れると、指先に力が込められ失礼だと平手打ちが来ることを覚悟したがそれは訪れず、その代わりにじわりと浮き上がったのは聖女の証。
それに驚きもしたが納得もした。
自分が気になった女性なのだ、聖女でない筈はない。
戸惑うフェンリエッタをそっと連れ出して会場の外に出る。
夜風に身体を震わせたフェンリエッタに自分の上着を脱いで着せ掛ける。
それを拒むことはなくフェンリエッタは受け入れた。
細い身体。
折れてしまいそうなその身体を気丈に振る舞い促した噴水へと向かう。
そこで座った彼女はしげしげとその痣を見ていた。
俺はそっと手袋を差し出す。
家紋の入った手袋だ。
それをフェンリエッタは受け取った。
手袋を渡す意味、受けとる意味。
おそらく彼女は知らないだろうが、逃がすつもりはない。
優しく声をかけ俺は深夜まで彼女のお喋りに付き合うのだった。
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