上 下
21 / 44
第2章 退魔

21話

しおりを挟む
「こちらだ」

繋いだ手をそのままに大きな屋敷の前にいた。
鶸の屋敷と同じくらいの広さだなぁと思いながら門を見上げた。

「ご自宅…ですか?」

まぁ、うん…自宅だって知ってるけどね?
とりあえず聞いとかなきゃ。

「ええ、縁側へ回ってください今お茶を出します」

通されたのは縁側。庭から回って縁台に腰掛ける。
横目に見た庭は丁寧に作られていて、俺好みの様相だった。

「いえ、お気遣いなく」

「大丈夫ですよ、すぐですから」

断りを入れたのに気にする気配はなく、話を聞きたいと言うわりにはお茶が出てくるなんて聞いたことがない。
だが、直ぐに運ばれてきたお茶には可愛らしいお茶菓子も添えてあった。

「どうぞ?」

「いただきます」

すすめられて飲み干さなければ帰れない。
そう思って俺はお茶に手をつける。
美味い玉露だ。

「で、聞きたいのだが、まずは名前」

こくりとぬるめの玉露を嚥下したのを見計らって白銀が聞いてくる。

「鴇」

「年齢は?」

「18」

「何処に住んでいる?」

「ん?それ必要?事件の内容を聞くために呼んだんじゃなくて?」

「あ、あぁ…」

ふいっと逸らされた視線。
じろりと見上げると、白銀はばつが悪そうに頬を掻いた。

「関係ない話なら、忙しいから帰る…待っている人がいるからな」

ことりと湯飲みを置いて立ち上がろうとすると、その腕を掴まれる。

「すまない…でも、君の事を知りたい…」

「知ってどうする?」

「一目惚れなんだ!」

「…ありがとう、でも俺男なんだけど」

またかよ!ただでさえ鶸の屋敷の男どもは蓮や雀にアタックする気配はないんだ。
蓮も雀も女性として申し分ない優しさ、気立て、見た目だって美人だぞ?
俺も、鴇じゃなかったらアタックしてる。
鴇ってやることがチャラく見えるから、やりたくないんだ。

「性別は…体格を見ればわかる。いや、ほかの一般はわからないと思うが…触れた腕や腰などは…胸も」

おいっ!何処見てんだ!
俺は盛大に溜め息を吐いて立ち上がった。
こんなやつは相手にしたくない。

「何処へ!」

「用がねぇなら俺はアンタと違って遊んでられねぇくらい忙しいんだ」

夜の退魔の準備や、できたら夜通しになる場合があるから夕方まで横になりたい。
化粧を落とせないから、座りながら寝るとかしかできないけど休みたいのに無駄な時間を使った。
つか、用心棒ならこいつらが神隠しを何とかできねぇのかよ!
珍しくイライラとした俺は、そのまま大股で屋敷を出ていく。

あ。茶菓子食ってくれば良かったかも。
それだけは残念だったなと呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】

クリム
BL
 僕は毒を飲まされ死の淵にいた。思い出すのは優雅なのに野性味のある獣人の血を引くジーンとの出会い。 「私は君を召喚したことを後悔していない。君はどうだい、アキラ?」  実年齢二十歳、製薬会社勤務している僕は、特殊な体質を持つが故発育不全で、十歳程度の姿形のままだ。  ある日僕は、製薬会社に侵入した男ジーンに異世界へ連れて行かれてしまう。僕はジーンに魅了され、ジーンの為にそばにいることに決めた。  天然主人公視点一人称と、それ以外の神視点三人称が、部分的にあります。スパダリ要素です。全体に甘々ですが、主人公への気の毒な程の残酷シーンあります。 このお話は、拙著 『巨人族の花嫁』 『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』 の続作になります。  主人公の一人ジーンは『巨人族の花嫁』主人公タークの高齢出産の果ての子供になります。  重要な世界観として男女共に平等に子を成すため、宿り木に赤ん坊の実がなります。しかし、一部の王国のみ腹実として、男女平等に出産することも可能です。そんなこんなをご理解いただいた上、お楽しみください。 ★なろう完結後、指摘を受けた部分を変更しました。変更に伴い、若干の内容変化が伴います。こちらではpc作品を削除し、新たにこちらで再構成したものをアップしていきます。

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。 そこが俺の全て。 聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。 そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。 11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。 だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。 逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。 彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

処理中です...