上 下
23 / 24
2章

4話

しおりを挟む
「美味しかったわご馳走様」
レイモンドがそう言うと、先に食べ終わっていたニコルが静かに立ち上がる。
「ごめんなさいね、待たせちゃったわ」
ニコルは、頭を左右に振るとレイモンドのトレイと自分のトレイを重ねて片付け始める。
もう、数年続く恒例行事だ。
レイモンドは最初は自分ですると言っていたが、頑としてニコルは自分の仕事だと譲らない。
「ありがとう」
レイモンドはいつもと同じようにお礼を言うと立ち上がった。
「……さて、ニコルいらっしゃい逃亡したら許さないわよ?」
トレイを片付けちらりとこちらを向いたニコルの腕をがっしりと掴む。
「え、レイモンド様……」
「ほらいらっしゃいな、アタシも少し切ってもらうけど騎士になるんだから、ちゃんと身支度しなさいな」
くるくると巻いた髪をクシャクシャ撫でてやる。
目に掛かるような髪を短くしてあの綺麗な目をしっかり見られるようにしてやりたい。
「あまり、切りたくないのはわかるけど、貴方そんなに髪を切りたくないの?」
「俺……そこまで顔が良くないから」
「は?ちょっと待って、ニコル貴方自分の顔を見た事あるの?」
廊下を歩き、執務室に入る。
「こんなにイケメンなのに?しっかり顔を出して見せて頂戴?アタシはニコルの顔は素敵だと思うわよ?」
ニコルの頬に手を添えて少し顔を下げさせる。
「だから、似合う髪型にしてもらいましょ?ね?」
パチパチと、瞬きをするニコルにふふっと笑いレイモンドはニコルの額に掛かる前髪を掻き上げた。
「おでこを出すのも良いわね、キスがし易いわ?」
なんて笑いながらニコルの額を撫でていると、扉にノックがあった。
「失礼いたします、お客様が……」
扉の向こうから声がかかりレイモンドは直ぐに行くわとニコルの手を掴む。
「行くわよ?」
「……はい」
まだ戸惑っているのかとレイモンドは思いながらもそのままニコルを連れ出した。
レイモンドの隊の一室には散髪をする部屋が設けられている。
切った髪を片付けやすいような床タイルになっているのだ。
その中に背中を預けられる椅子や手洗い場などもできている。
「お待たせ」
「あら、イケメンじゃない?」
来ていたのは先日の店の店主。
「レイモンドのカットもあるから、他の子には任せられないし。で、どっちが先に切る?」
「ニコル、大丈夫よこう見えて腕は確かだから」
そうレイモンドが言って、散髪台にニコルを座らせたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

裏切られた腹いせで自殺しようとしたのに隣国の王子に溺愛されてるの、なぁぜなぁぜ?

柴傘
BL
「俺の新しい婚約者は、フランシスだ」 輝かしい美貌を振りまきながら堂々と宣言する彼は、僕の恋人。その隣には、彼とはまた違う美しさを持つ青年が立っていた。 あぁやっぱり、僕は捨てられたんだ。分かってはいたけど、やっぱり心はずきりと痛む。 今でもやっぱり君が好き。だから、僕の所為で一生苦しんでね。 挨拶周りのとき、僕は彼の目の前で毒を飲み血を吐いた。薄れ行く意識の中で、彼の怯えた顔がはっきりと見える。 ざまぁみろ、君が僕を殺したんだ。ふふ、だぁいすきだよ。 「アレックス…!」 最後に聞こえてきた声は、見知らぬ誰かのものだった。 スパダリ溺愛攻め×死にたがり不憫受け 最初だけ暗めだけど中盤からただのラブコメ、シリアス要素ほぼ皆無。 誰でも妊娠できる世界、頭よわよわハピエン万歳。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。 それが僕。 この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。 だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。 僕は断罪される側だ。 まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。 途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。 神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?   ※  ※  ※  ※  ※  ※ ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。 男性妊娠の描写があります。 誤字脱字等があればお知らせください。 必要なタグがあれば付け足して行きます。 総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話

あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった 親は妹のゆうかばかり愛してた。 理由はゆうかの病気にあった。 出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。 もう愛なんて知らない、愛されたくない そう願って、目を覚ますと_ 異世界で悪役令息に転生していた 1章完結 2章完結(サブタイかえました) 3章連載

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...