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1章

6話 買い物に

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ニコルは銀貨五枚と言う大金を手にして固まった。
銀貨一枚あれば、大概の食事はできてしまう。
パン、ソーセージ、スープ。もしかしたら飲み物も付いてくるかもしれない。
そんな軽度な食事ならば、この銀貨なら一日三回食べられてしまう。
それを簡単にレイモンド様は五枚もくれたのだ。 
好きな物を買いなさいと放り込まれた店でニコルはきょろきょろと店内を見る。すると、自分よりは少し年上の青年がこちらに気付き近寄ってきた。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
「あの……初めてで……」
「あぁ、どうぞ。好きな物があればどうぞゆっくり見てください。うちは一律銅貨三枚なので、ご予算に合わせてお選びください」
優しげな青年の笑顔にほっとしながらも、ニコルはふと気付く。
銀貨一枚は銅貨十枚分。銀貨一枚で三着の服が買えてしまうのはわかったが、銀貨五枚でどれだけ買えるのだろうかと。
奴隷として生きてきたニコルは、計算ができないのだ。
辛うじて数を数える事ができるけれど、こんな事ならもっとしっかり学んでおけば良かったと恥ずかしくなる。
「あ、あの……服を買ったことがなくて……これで、買えるだけ……」
ニコルは店員に銀貨を一枚だけ見せた。
「わかりました、何をお求めになりますか?」
「え……あの……服を」
「普段着でよろしいですかね?どんな色が好きですか?」
そう言われて好きな色を考える。
「……あの、色が」
バイオレット……スミレ色。もしくは、アメジスト。
ニコルは、色の名前は知らなかったがそれはレイモンドの瞳の色だった。
綺麗で優しい大好きな上官の瞳の色。
「畏まりました、差し色に使われているシャツなど、いかがでしょうか?」
襟や袖口に紫を差したシャツは出掛ける時用に良いかもしれないが、出掛けることなど多くないだろう。
でも、欲しかった。
「は、はい……それと、寝る時に着るものを」
「上下にわかれたものと、一枚で着られる長めのものどどちらがよろしいですか?」
「……一枚で」
上下に別れてしまっているものだと、それ以上は買えなくなってしまうと、ニコルは一枚のものを選ぶ。
「ズボンはいかがですか?そのシャツに合わせられる物で折り返すと裏地が紫のズボンもありますが」
店員が取り出したのは一見黒いズボンだが、確かに裾を折ると紫の裏地が見え、素材も取扱が簡単そうだった。
「これで、お願いします」
ニコルは銀貨を差し出し、青年はにこやかに品物を袋に入れると、銅貨一枚を返してくれた。
買い物が出来たとニコルはレイモンドを探そうとして、店の出入口でレイモンドが壁に背を預けて立っていた。
「あら、お帰りなさい。早かったわね買えたの?」
「はい!」
「そう、じゃあ行きましょう?」
「あ、レイモンド様これ……残りました」
ニコルはレイモンドに銀貨四枚、銅貨一枚を差し出した。
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