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隻眼の俺と中年の努力

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 ハイネの話では黒騎士と出会う未来はどうあがいても変わらないらしい。それは未来ではなく『運命』だからだそうだ。



 だから『未来』を司っているハイネのテリトリー内で、いつか訪れる『運命と対峙する未来』を停止しておき、死を回避するために鍛えまくろうという作戦らしい。



 おかげで一週間、未だに体力作りだ。



 パワードスーツがあれば何の問題もないとは思うのだが、それでも鍛えろとハイネは言う。



「シエロは大丈夫かな」



 心配した矢先に建物の陰からシエロがひょっこりと顔を出した。服装はいつものお出かけ用のお洋服ではなく、遠野と同じ巫女装束だった。



「(うう、へろへろだよお)」



「何言ってるか分からないが、分かる気がするのが不思議だ」



 しっかり素振りさえしていれば、たまに通りかかる源氏さんは特に激は飛ばさない。



「(そうじろう、シエロ、頑張ったんだよ! そうじろうも頑張ってるね、すこしひゅっとしたみたい)」



「痩せたって言ってる」



「これだけ鍛えれば、中年太りとはおさらばよな……」



 シエロ自身は魔女としてはまだ新米だそうで、ハイネの元で能力に制限がかかっている《鎖》を一本取り外しながら、概念を暴走させずに扱う訓練をしているらしい。



 俺がまだ訓練している姿を見ると、シエロは遠野の袖を引っ張り何かを言う。



「お風呂行こうって。それじゃ頑張ってね総司郎。あんたが最も死ぬ確率高いんだから、早くしなさいよ」



「そのつもりさ」



 二人が重たい体を引きずりながら歩く姿を見送りつつ、俺は腕立てをその場で行う。



 地面がごつごつして痛いが、慣れてくると痛気持ち良い部類である。



 初めの頃はかなり息切れしていたが、スパルタすぎる毎日を過ごしていると筋肉痛も消え去り、筋肉が喜んでいるようだった。



 何度か上下運動を繰り返していると、細い脚元が俺の視界に入る。



 軽く様子をうかがうと、付き人に手を引かれていた極彩色の灰魔女ハイネがそこに立っていた。



「何か用か、っていっても意味は分からないだろうが」



 聴力視力声帯、全てをアトラスに頼っていたから異世界後は全く分からなかった。これを機会に少し勉強してもいいのかもしれない、



 ハイネは俺に何かを注げるが、俺には全く分からない。



 どうせ分からないだろうがと思いつつ、俺はハイネに思っていた疑問を投げかけた。



「ハイネはなんで魔術を殲滅させようとしてるんだ?」



 シエロは姉を救うためだといった。ハイネにも何か理由はあるのだろうか。俺たちを助ける訳が。



 しかし言葉の意味は当たり前のように通じなかった。



「ま、それぞれ理由はあるだろうな」



 改めて言葉が分かるようになったら聞かせてもらおうか。



 腕立て伏せのインターバルで俺は体を起こしてハイネを見やると、ハイネはただ静かに目を細めて笑っていた。



 何とも優しそうな笑顔だった。



 それから俺たちは、まさか三ヵ月も鍛えることになるとは思いもしなかった。
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