乙女ゲームに転生した男の人生

⑬ヒロインの末路-6-

 「！？」

　フローラを抱えているのも理由の一つだが、自分が何も行動を起こさない事でカサンドラの非道さを攻略対象者共に証明できると思ったミストレインは大人しくされるままになっていた。

 「お前が！名前すら出て来なかったモブのくせに！あたしのハーレム要員を奪うなんて！ヒロインであるあたしに、土下座して謝りなさいよ！！」

　脳天でもかち割ったろか！！

　いや、テメェのような雌犬は今すぐあたしの目の前で切腹でもするのが礼儀ってもんだろうが！！！

 「カ、カサンドラ妃･･･？」

　今のカサンドラには、普段の天真爛漫な愛くるしさなど微塵もない。

 「「「「････････････」」」」

　悪鬼のような形相で無抵抗な女性を叩いたり蹴ったりしているカサンドラを目の当たりにしてしまった攻略対象者共は、百年の恋も一瞬で冷めてしまったかのようにドン引きしていた。

 「俺の愛人に手を出すとはいい度胸だな、ピンク頭？」

　護身術を身に付けているミストレインであれば、鍛えていないカサンドラを一本背負いや関節技で沈めるくらい簡単に出来る。

　だが、カサンドラの本性を一堂に晒す事がミストレインの目的なのだと分かったアイドネウスはピンク頭を止めなかった。

　しかし、ミストレインが傷ついている事に堪忍袋の緒が切れそうになったアイドネウスがヒロインの腕を掴む。

 ｢･･･い、痛いっ！アイドネウス様、何で止めるの！？あたしはただ女神として、あなたの妃として、アイドネウス様を誘惑した雌豚に罰を与えようとしただけで･･･｣

 （！？）

　青から金色に変化しているアイドネウスの瞳に怒りと酷薄の色が浮かんでいる事に恐怖を覚えたのか、カサンドラは思わず身体を竦ませてしまう。

 「ね、ねぇ･･･エレクトラ様、アルティミシア様。ピンク頭･･･いえ、カサンドラ妃はミストレインという御方がどのような立場なのかを理解しておられないのでは？」

 「キャロライン様もそう思われます？」

 「ええ」

 「どう見てもそうとしか思えませんわ」

 「神の愛人に手を出すなど」

　何て恐ろしい！！！

　愛人というのは読んで字の如く愛する人──･･･つまり、自分にとって大切な伴侶や恋人を示す。

　アイドネウスはミストレインを愛人と言った。

　という事は、ミストレインはアイドネウスにとって大切な存在なのだ。

　そのミストレインを傷つけられたアイドネウスの怒りがカサンドラだけに向けられるのは別に構わない。

　だって、自分は当事者ではないから。

　だが、神の八つ当たりというのは非常に物騒で厄介なもの。

　神話時代の頃は、八つ当たりで火山を噴火させて国を滅ぼしてしまった逸話があるくらいだ。

　ロードライト帝国が滅びてしまうところを思い描いてしまったエレクトラ、アルティミシア、キャロラインは顔を青くしながら互いに抱き合う。